蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
終わった――
誰もが、そう思った。
崩壊していく中枢ギアノイドの巨体。
瓦解する構造体の隙間から、光が漏れる。
ギアノイド群の動きは明らかに鈍っていた。
統制を失い、散発的な抵抗しか見せない。
人類は押し返す。
撃つ。
落とす。
確実に、戦況は終わりへと収束していた。
「これで……終わりだ」
誰かが、呟いた。
それは願望ではなく、確信に近い声だった。
否定する者は、いない。
張り詰めていた糸が、わずかに緩む。
長すぎた戦いの緊張が、解けかける。
――その瞬間。
崩壊する中枢。
その“内部”。
瓦礫の奥、崩れ落ちるはずの核の中心で――
何かが。
動いた。
内側から。
膨張し、
限界を迎え、
――弾ける。
轟音とともに、中枢が内側から引き裂かれた。
飛び出す影。
中型――そう分類できるはずのサイズ。
最適化個体に酷似した外観。
だが、その存在感は。
質量でも、熱量でもない“圧”として。
明らかに――別格。
その瞬間、戦場が、止まる。
誰もが、引き金を引くことすら忘れる。
「……なんだ、あれは」
言葉より先に。
思考より深く。
全員が、直感する。
あれが、
本当の、
――“本体”。
中型の中核ギアノイド。
それは、ゆっくりと。
こちらを見た。
観察するように。
値踏みするように。
あるいは――
すでに興味を失ったかのように。
一瞬、静寂が訪れる。
時間が、凍りつく。
そして――次の瞬間。
消えた。
否。
視界から外れただけだ。
あまりにも速く。
ただ“加速”しただけ。
向かう先。
その進行ベクトルを解析した者が、凍りつく。
――地球。
「なに……!?」
「待て……どこへ向かっている!?」
「軌道予測、出せ!!」
一瞬。
ほんの一瞬。
誰も、その意味に追いつかない。
だが、理解した者から、顔色を失っていく。
人類側の完全なる失態。
油断。
慢心。
これがその結果。
「……クソっ!!!やってくれたな!!!」
ゲンゾウは低く、吐き捨てるように叫ぶ。
「止めろ!!何としても止めろ!止めるんじゃ!!!」
その言葉が、戦場を叩き起こす。
「総員、追撃!!」
「全機、最大推力!」
「何としても止めろ!!」
怒号が、連鎖する。
だが、距離が違う。
速度が違う。
すべてが――違いすぎる。
追いつけない。
中核本体は。
一直線に。
地球へと向かう。
その地には、
もう、
防衛戦力は、ほとんど残っていない。
守る者が、いない。
地球にあれを倒せるものは、ない。
最短距離を駆ける中枢ギアノイド本体。
障害物も最小の動きで回避し、連合艦隊戦力の迎撃も怯まずすり抜けていく。
各艦から焦りが隠せない通信が飛び交う。
『撃て!撃ち落とせ!!』
『全て出せ!残存の追尾ミサイル全門発射しろ!!!』
『ダメです!とても追いつけません!』
『砲撃!当てろ!落とすんだ!!!』
『早すぎます!照準合いません!』
ヴェスペリオン艦橋にもゲンゾウの怒号が響く。
「艦急速反転!あれの前に出ろ!ヴェスペリオンを盾にしてでも止めろ!!!」
『ダメです!最大戦速でも間に合いません!』
『このままでは、艦砲の射程範囲に入る前に大気圏に突入されます!』
「クソォォォォ!!!…ここまで来て…ワシの失態じゃ…ユーヤと…皆が作った勝利への道を……あと一歩のところで………」
人類側に絶望が満ちていく。
勝利の直後。
もっとも無防備な瞬間に。
人類は――
真の終わりを、突きつけられた。