蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
ユーヤの意識は闇に沈んでいた。
暗い。
何も、見えない。
音も、ない。
ただ、沈んでいく感覚だけがある。
意識は沈む。
浮かぶ。
沈む。
浮かぶ。
途切れかけた意識が、不規則に揺れている。
(……ここは……)
思考が、まとまらないユーヤ。
ぼやけた視界。
自分の身体が、どこにあるのかすら曖昧だ。
動かない。
力が入らない。
ゆっくりと。
少しずつ。
焦点が、合っていく。
輪郭が、世界を取り戻していく。
視界前方。
闇の中に浮かぶ影。
――遠ざかっていく。
中型のギアノイドが見えた。
迷いのない直線。
進行方向。
その先は。
――地球。
(……待て…そこには…)
遅れて、思考が追いつく。
状況が、冷たい形を取っていく。
身体は動かない。
指先すら、応答しない。
力が入らない。
命令が、届かない。
ブラウフリューゲルの状態も深刻。
各所に走る損傷。
右腕は機能していない。
警告表示が、沈黙したまま点滅している。
武装も、全て、失われている。
ギアノイドとの距離は離れていく。
少しずつではない。
確実に。
容赦なく。
取り返しのつかない差として。
(……俺では間に合わない…それに戦える状態ではない…)
ユーヤは理解してしまう。
その事実を。
思考が、急速に冷えていく。
その先にあるもの。
地球。
守るべき場所。
守るべき人たち。
エリスが脳裏に浮かぶ。
泣いていた顔。
笑っていた顔。
名前を呼んだ声。
『一番、大事だ』
自身のあの時の言葉が、胸の奥で蘇る。
締め付けられる。
呼吸が、浅くなる。
何もできない自分が、内側から軋む。
(……でも……もう……)
力が、ない。
武装も尽きた。
もう、
全て、
残っていない。
意識が、落ちかける。
すべてを手放しかける。
諦めそうになる。
そのまま意識を飛ばしてしまえば楽になる。
そう思った。
ユーヤの眼がゆっくり閉じていく。
(…終わり…だ……)
――その瞬間。
『前を見ろ』
聞こえる。
音の発生源はわからないが。
しかし、はっきりと。
とても懐かしい声が。
でも幻聴としか思えない。
決して聞こえるはずのない声。
今は亡き父(リョウイチ)の声。
『希望をつかめ』
(………つか…む?………)
考えるより先に。
身体が、動いていた。
止まっていたはずの腕が、
わずかに。
手を伸ばす。
伸ばした手の先。
かすかな光。
漂っている。
闇の中で、わずかに瞬く存在。
(…あれは………なん…だ…)
目を凝らす。
その光は――――――
ブレードブラスター。
あの時、
弾き飛ばされたままの武装。
そして――
思い出す。
残っている。
フルチャージ状態のエネルギーが。
“まだ撃てるはず”
(……まだ…のこって……)
終わっていない。
終わらせてはいけない。
その実感が、指先に戻る。
震える指。
言うことを聞かない腕。
それでも、
希望を掴むために前を見る。
絶望の底で。
すべてを失ったはずのその場所で、
ただ一つ、
まだ――
つかめるものが、あった。