蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
カッ!!!――ユーヤが目を、見開く。
ユーヤの意識が戻る。
断片的だった世界が、ゆっくりと繋がっていく。
ぼやけていた視界。
焦点が合う。
音が戻る。
痛覚が、遅れて追いつく。
視界前方。
中核ギアノイド本体。
――遠い。
あまりにも。
だが。
(まだ……見える)
その一点だけが、ユーヤを現実に繋ぎ止める。
瞬間。
思考が形になるより早く。
指が動いていた。
迷いはない。
操縦レバーをフルスロットルに。
ブラウフリューゲル最大加速。
再度蒼い翼を展開する。
そして、それと同時に―――――
「アークレイズ!!!!!!」
叫び。
祈りを込めた声。
全てをそれに託す声。
次元粒子、
残存分。
すべてを吐き出す。
一切の余剰なく。
全てを――“速さ”へ。
すべてを速さに変換し、蒼い翼が戦場を翔ける。
ブラウフリューゲルが、蒼い炎を帯びる。
限界値を振り切る出力。
機体各部が悲鳴を上げる。
それでも構わない。
加速。
加速。
さらに加速。
星々が流れ、空間が歪むと錯覚するほどの加速。
距離という概念が、削られていく。
途中、手を伸ばす。
震える腕を、無理やり前へ。
速度を落とさず掴む。
ブレードブラスター。
指先の感覚は、すでに曖昧だ。
そして確認する。
残弾確認。
――フルチャージ一発分。
それで、すべてが決まる。
(まだ、撃てる……!)
ユーヤが計器を確認する。
破損した外装。
(今は…邪魔だ!)
計器を操作する。
無機質な機械音がコクピット内に響く。
『指定外装、強制パージ』
即時、強制パージ。
装甲が弾け、宇宙へ散る。
機体が、軽くなる。
推力が、さらに伸びる。
「間に合え……」
ユーヤが歯を食いしばる。
血の味が広がる。
「間に合え……!!」
フレームが軋む。
「間に合えぇぇぇ!!!!!」
警告音が重なる。
次元粒子、枯渇寸前。
ユーヤの身体もまた。
限界を、とっくに越えている。
視界の端が、暗く欠けていく。
それでも速度は緩めない。
その姿はまさに蒼く燃える一筋の閃光。
だが―――――
ヴェスペリオン艦橋。
誰も、声を出せない。
ただ、見ている。
ゲンゾウの小さな声。
「…ユ……ユーヤ……」
オペレーターから絶望の宣告が聞こえる。
「……だめです」
震える声が、静寂を裂く。
「距離……足りません…間に合いません」
モニターに映る青。
地球。
そして、
その手前を突き進む影。
中核ギアノイド本体。
「……大気圏、突入します」
淡々とした報告が、逆に現実を突きつける。
誰も言葉を失う。
理解したくない現実だけが、そこにある。
絶望する。
「無理だ……」
「間に合わない……」
誰かの呟きが、誰のものかも分からないまま漂う。
それでも、
ユーヤは、止まらない。
加速を、やめない。
追い続ける。
ただひたすらに。
あの背中を。
届かないとしても。
届かない距離。
それでも、
僅かな希望、
そして可能性に手を伸ばすことだけは、やめない。
その先に、何も残っていなくても。