蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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1章(52)蒼い流れ星

光が――――――貫いた。

 

大気圏内。

中核ギアノイド本体。

その中心へ、

一直線。

 

最後の一発。

 

命中。

迷いなく、

確実に、

貫通した。

 

 

一瞬世界が静止する。

すべてが止まる。

 

 

次の瞬間。

中核ギアノイド本体。

内側から、弾けた。

 

爆散する。

炎が広がる。

 

空を焼く。

 

この戦い最後の敵は。

完全に、

大気圏内で塵となった。

 

 

モニター越し。

その光景を。

誰もが見ていた。

連合艦隊、ヴェスペリオンクルーも。

 

そして、ヴェスペリオン艦橋。

沈黙。

静寂を破る声。

 

「……命中確認」

 

 震える声。

 

「中核ギアノイド本体……撃破しました……!」

 

その光景を見ていた人々の感情が爆発する。

歓声。

 

「やった……!」

「勝ったぞ!!」

 

 

宇宙連合軍艦隊の各艦。

生き残った全員が、

叫ぶ。

「蒼の英雄……!」

「人類を救った……!」

「夢でもみているのか⁉」

「やはりあれは人類の希望だった!」

 

この瞬間、

ユーヤは、

本当の意味で、

 

“英雄”となった。

 

生き残った人々から安堵の声が出る。

「帰れるんだ……」

「地球へ……」

 

連合艦隊全体へこんどこそ本当の安堵が広がる。

 

ゲンゾウはただ一人。

言葉を失っていた。

モニターを見つめたまま。

 

だが違和感。

何か一番大切なことを忘れているような、

そんな感覚。

 

「……待て」

 

小さく、

何かが引っかかる。

そして、

ようやく気づく。

 

「ブラウフリューゲルは……?」

「…えっ?」

オペレーターは誰も答えない。

 

「ユーヤは今どこにいる!?」

 

歓声が。

止まる。

沈黙が広がる。

 

ようやくオペレーターの1人が告げる。

震える声で。

 

「……先程の位置から推測して……」

 

一拍。

 

「……まだ、大気圏内にいる可能性が……」

 

 

空気が凍る。

 

ゲンゾウは拳を握る。

 

「……すぐに捜索しろ!!!」

 

英雄は、

まだ、空にいる。

 

そして、

ようやく、

見つかった。

 

「ブラウフリューゲル……捕捉しました!」

オペレーターの声。

だが――

その響きは、かすかに揺れていた。

 

「……どうした」

ゲンゾウの低く、押し殺した声。

 

「はっきり言わんか!」

 

一瞬の沈黙。

誰もが息を止める。

「……ブラウフリューゲルは」

震える声が続く。

「装甲全損…機体フレームに重大な損傷有り…」

「大気圏突入体勢……未移行」

「パイロットによる姿勢制御も実行されていません…」

さらに、

「次元粒子……残量ゼロ…」

そして、

「…ただ地球の重力に引かれて落ちているだけです…」

 

その意味を、

誰もが理解した。

 

「このままでは……」

一拍の間。

ゲンゾウの叫びがこだまする。

 

「このままではどうなる⁉」

 

「大気圏内で……燃え尽きます」

 

艦橋の時間が、凍りつく。

 

ゲンゾウは目を見開く。

「……何を言っておる」

 

だが現実は、変わらない。

どうにもならない。

 

「戻ってこい!!」

初めて、

感情が剥き出しになる。

「戻ってくるんじゃ!!」

震える声。

「何のための勝利じゃ!!」

拳がコンソールに叩きつけられる。

「英雄が帰ってこんでどうする!!」

「ユーヤ!ユーヤ!!!返事をせんか!!!」

悲痛な叫び。

その場に居合わせたオペレーターは何も言葉にできなかった。

「ユーヤ!……ユーヤ…」

「どうしてワシは……孫が燃え尽きるのを見てることしかできんのじゃ!!!!……ユーヤ……」

ゲンゾウは崩れ落ちた。

そんな姿、管理局関係者の誰も見たことが無かった。

次元リアクター管理局所長の言葉ではない。

ただ自分の家族を想っての言葉。

その言葉を聞きながら、ヴェスペリオン艦橋のクルー達は皆、静かに涙した。

 

しかし、届かない。

その叫びは、

虚空に消える。

 

 

ブラウフリューゲルコックピット。

完全な静寂。

応答はない。

意識も、ない。

 

人類を救った機体、ブラウフリューゲル。

燃えながら、

その形を失っていく。

内部装甲も剥がれ、

翼が砕ける。

 

地球へ、

ただ一直線に、

落ちていく。

 

青い光が、

長く尾を引く。

空を裂き、

夜を焦がす。

 

地上では誰かが、ふと足を止める。

空を見上げる。

 

「……流れ星?」

 

――違う。

それは、

人類を救った英雄の最期の姿。

 

一筋の青い星が、

空を駆け抜けた。

蒼の英雄は、

その光の中で――

蒼い流れ星となって―――

静かに、消えた。

 

第1章 完

 

 

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