蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
宇宙での大規模戦闘は、終わった。
宇宙での戦闘より早三ヶ月後。
空は穏やかだった。
あの日、飛来した黒い影も、
すべてを貫いた、あの光も、
もう、どこにもない。
宇宙戦への人員集中で止まっていた復興は、着実に進んでいる。
瓦礫は片づけられ、
街には灯りが戻り、
人々は、ようやく笑い始めていた。
失われた日常が、
ゆっくりと形を取り戻していく。
次元リアクター管理局。
その長――ゲンゾウ。
地球防衛の英雄。
今や、誰もがそう呼んでいた。
「……くだらん」
誰にも届かない声。
吐き捨てるように。
「真の英雄は……ワシの孫じゃというのに…」
机に向かう。
書類に目を通す。
復興計画。
戦力の再編。
山のように積まれた責務。
やるべきことは、尽きない。
手を動かし続ける。
止まれば――
考えてしまうから。
だが、
どれだけ働いても、
何一つ、埋まらない。
ナツキも同じだった。
現場を駆け、
指示を飛ばし、
誰よりも忙しく動き続ける。
だが――
ふとした瞬間、
視線が、止まる。
あの二人。
自分の子供たち。
肩を並べていた姿。
無邪気に笑っていた顔。
鮮明なまま、
消えない。
失ったものが大きすぎた。
三ヶ月。
それだけの時間が過ぎても。
何も、
本質的には、変わらない。
後日、ゲンゾウ、ナツキは久しぶりに顔を合わせていた。
その日、二人は――
同じ場所にいた。
墓地。
小高い丘。
静かな場所。
風だけが、草を揺らしている。
ゲンゾウは無言で、立つ。
ナツキはその隣に立つ。
言葉はない。
必要な言葉など、どこにもない。
墓石。
白い石に、
刻まれた名前。
――ユーヤ。
沈黙する。
長く。
重く。
逃げ場のない時間。
ナツキの唇が、かすかに震える。
やがて、声が零れる。
「……なんで」
小さく、
押し殺すように。
「なんでなのよ……」
堪えていたものが、
静かに、そして確実に溢れ出す。
「なんで……子供を……」
震える声。
墓石にはナツキの子供の名前が刻まれていた。
人類を救った英雄——―ユーヤ
そしてその横にもう一つの墓石。
その名前は―――――
――――――エリス―――――――
そこにあるはずがない名前。
英雄が守り抜いた人。
あってはならない名前。
「二人も失わなきゃいけないのよ……」
ゲンゾウは何も言わない。
言えない。
ただ、拳を強く握りしめる。
宇宙での大規模戦闘だけではない。
その後、空白の三ヶ月。
その間にも大切なものが失われていた。
だが現実。
二人とも。
もう、いない。
その事実だけが、
残酷なほど確かだった。
風だけが吹く。
答えは、どこにもない。
やがて、
背を向ける。
歩き出す。
だが――
何度も振り返る。
二人がそこにいる気がした。
だが誰もいない。
あるのは冷たい墓石だけだった。
残されたのは。
埋まることのない空白と、
それでも続いていく時間だけだった。