蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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閑話④すれ違う影

ナツキとゲンゾウに、確信はなかった。

だが――

英雄の亡霊と呼ばれるものの正体。

あの“動き”。

見間違えるはずがない。

 

しかし、捕捉できない。

何度かその存在を確認出来てはいるが、

一切の情報をつかめない。

ギアノイドを一瞬で撃破し消える。

それだけの存在。

 

次元リアクター管理局の解析班も調査を続けるが、

詳細はおろか手がかりさえつかめない。

解析班は首をかしげる。

「…これ何なんですか?」

「センサーには何も映っていませんよ」

「戦闘映像にはかすかに影のようなものが確認できますが…」

正体不明。

「我々にはこれが、ギアノイドなのか、バスターアームズなのか、

それ以外の何かなのか、それすら判断付きません…」

それが結論だった。

項垂れるゲンゾウ。

「…そうか…」

 

 

 

ゲンゾウとナツキは、

再び訪れていた。

静かな丘。

風だけが通り抜ける墓地。

 

 

白い墓石に刻まれた名前。

――ユーヤ。

 

「……これ」

ナツキが小さく呟く。

「必要なのかしらね」

誰に向けたわけでもない、

行き場のない問い。

 

風が吹く。

草が揺れる。

答えは、どこにもない。

 

「もし……ユーヤが生きてたとして…」

声が、わずかに揺れる。

「エリスのこと……どう伝えたらいいのよ……」

 

ゲンゾウは答えられない。

視線を落とす。

「……わからん」

それだけを、絞り出す。

 

英雄は消えた。

少女も消えた。

残されたのは――

ただ、墓だけ。

「…そろそろ帰るとしよう…」

「そうね…」

二人は背を向ける。

ゆっくりと、

歩き出す。

墓石がある場所から、広い道まで戻ってきた。

 

その時、

低く、重いエンジン音。

ほとんど反射的に、

視線はそちらへ向く。

 

大型バイク。

黒い車体。

装飾のない、

無駄を削ぎ落としたフォルム。

 

乗っているのは、

一人の男。

サングラスに隠された表情。

感情は、読み取れない。

 

スロットルが開く。

低音が唸る。

地面を蹴るように――加速。

 

だが――― 

その背中。

その姿勢。

そして、わずかな重心の癖。

 

ナツキの目が見開かれる。

「……まさか」

息が詰まる。

「……ユーヤ……?」

 

見間違えるはずがない。

何度も、何度も見てきた。

息子の背中を。

「!!!…ユーヤァァ!!!」

 

だが――

もう遠い。

呼び止めるには、

あまりにも。

 

バイクはさらに速度を上げる。

一瞬で距離を引き離し、

やがて視界から消える。

 

 

 

バイク走行中。

車体に内蔵された端末が起動する。

電子音声が問いかける。

『……いいのか』

『会わなくて』

 

わずかに、

口元だけが動く。

「……今会うと」

一拍。

「面倒だろ」

 

それ以上は語らない。

風切り音だけが、

すべてをかき消していく。

 

その男は――

かつて、

蒼の英雄と呼ばれた

一人の青年だった。

 

英雄は、

まだ戻らない。

戻れないまま、

どこかで走り続けている。

 

物語の続き。

その幕が開く。

 

 

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