蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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2章①目覚め

時系列は再び、ブラウフリューゲルの最後の戦闘時に戻る。

 

落ちる。

燃える。

すべてが焼き尽くされていく感覚。

その記憶だけが――

最後だった。

ユーヤの意識は途絶えた。

 

 

 

――静かだ。

あまりにも。

不自然なほどに。

 

意識が浮上する。

深い水の底から、

引き上げられるように。

ゆっくりと。

 

瞼が開く。

最初に映ったのは――天井。

見慣れない。

無機質な構造。

 

ベッドの上。

だがそれは、

柔らかさとは無縁の、

金属製の台。

冷たい光沢が、

現実感を強調する。

 

「……ここは」

ユーヤから掠れた声が、漏れる。

だが――

はっきりと、発声できている。

 

ゆっくりと上体を起こす。

痛みはない。

どこにも。

焼かれたはずの身体に、

損傷は見当たらない。

 

手を見る。

震えはない。

痺れもない。

力は、完全に入る。

 

焦点は合っている。

鮮明だ。

――左眼も。

問題なく、見えている。

 

耳を澄ます。

静寂。

だが、

完全な無ではない。

微かな駆動音。

遠くで何かが動いている。

 

「……おかしい」

口に出して、

ようやく実感する。

ブラウフリューゲルに繋がっていないと、

身体の欠損部分は回復しないはず。

 

自身の記憶を探る。

ブラウフリューゲル。

制御不能。

大気圏突入。

燃焼。

そして――

意識は、途切れた。

 

「……俺は、死んだのか?」

 

違う。

思考は明瞭。

身体も動く。

――生きている。

 

見渡す。

人の気配はない。

足音も、

呼吸も、

何も。

 

視線が止まる。

ベッドの横。

無造作に置かれた、

一丁の拳銃。

 

手に取る。

ずしりとした重量。

確かな現実。

スライドを引く。

金属音。

装填済みの実弾。

 

「……なんで、こんなものが」

誰が置いた。

何のために。

 

わからない。

だが――

理由は、後でいい。

必要になる。

直感がそう告げている。

 

ゆっくりと立ち上がる。

足は安定している。

問題なく動く。

 

扉へ向かう。

近づいた瞬間、

自動で開く。

 

廊下。

金属の壁面。

無機質な構造。

照明は最低限。

影が濃く、

奥行きが読めない。

 

響くのは、

自分の足音だけ。

やけに大きく感じる。

 

銃を構える。

指先に、わずかな緊張。

ゆっくりと進む。

 

感覚が曖昧になる。

何分歩いたのか。

それすら分からない。

 

一つの部屋を発見する。

扉が、半開きになっている。

内部は暗い。

 

その時—―—

ガシャン。

乾いた金属音。

 

即座に構える。

「……誰だ」

声は低く、

しかし明確に響く。

 

足音を殺し、

静かに踏み込む。

内部は暗闇。

視界は制限される。

だが――

“それ”は、いた。

 

人間ほどの大きさ。

だが。

明らかに、人ではない。

 

形状は細い脚が複数。

関節は機械的。

不自然な角度で、

床を捉えている。

 

一言で表すと

――蜘蛛。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ゆっくりと、

こちらを向く。

無機質な動作。

感情はない。

 

沈黙が張り詰める。

一瞬が、

やけに長く感じる。

 

ユーヤは――

引き金に、指をかけた。

 

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