蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
引き金にかけた指。
だが――
撃たなかった。
蜘蛛型ロボット。
ギアノイドとは違う。
洗練された金属体ではない。
もっと無骨。
人類が作り上げたと思わせる材質。
無機質な外装。
複数の脚が、
わずかに軋みながら姿勢を保っている。
「……お前は何だ」
銃口は外さない。
「ここはどこだ」
間を置かず、
機械音声が返る。
「ここは、関谷リョウイチが所持しておりましたセーフハウスです」
静止する。
その名前。
空気が、わずかに変わる。
「私は当設備を管理する端末です」
「あなたを回収し、保護しました」
ユーヤの眉がわずかに動く。
「……回収、だと?」
「俺は……大気圏内から落ちてたんだぞ。回収できるはずがない」
一拍。
わずかな間を置いて。
「可能です」
「フリューゲルの核、ブラックボックス領域には、最終安全装置が搭載されていました」
「……最終安全装置だと?」
「はい、極短時間ではありますが、機体および搭乗者を量子化し、別座標へ再構成する機能です」
ユーヤは思考が――止まる。
「……は?」
「バカな……そんな……テレポートみたいなこと……」
言葉が追いつかない。
理解が、拒否する。
「オーバーテクノロジーにもほどがあるだろ……」
蜘蛛型のロボットは淡々と説明する。
感情を一切挟まずに告げる。
「はい、量子化テレポーテーションです」
「この技術は、次元粒子を極限まで濃縮することで始めて使用できる機能です。ブラックボックス領域には、短距離の量子化テレポーテーションを実施できる粒子量を確保する機能が搭載されていました。また、その存在を関谷リョウイチは隠蔽していました」
沈黙する。
音が消える。
思考も、
一瞬、空白になる。
ユーヤは言葉を失う。
父。
関谷リョウイチ。
(…父さんが亡くなる前に既に完成していた…)
明かなオーバーテクノロジー。
(…そしてそれを隠蔽していた…)
確かにテレポーテーションのような技術が開発されたら、
技術革新どころじゃない。
人類の産業すら一変する。
人類は――
すでに、
一線を越えている。
知らぬ間に。
「なお、転移は一度のみの想定です。現在、同機能は使用不能です」
ユーヤは小さく息を吐く。
思考を、無理やり整える。
「……つまり、俺は、偶然助かったわけじゃないってことか」
蜘蛛ロボットが告げる。
「はい、設計者の意図によるものです」
つまり―――
“生かされた”。
明確な意思によって。
何のために。
その理由を――
ユーヤは、まだ知らない。
ユーヤに冷や汗が滲む。
(今更だが、ギアノイドの戦いにおいて知らないことが多すぎる…俺も…次元リアクター管理局ですら…)
そして蜘蛛型ロボットを見据えた。
(こいつの存在は…いったい…)
無知であるという事への恐怖が沸き上がる感覚がした。