蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
機械の中に、
いる。
確実に。
ユーヤは見つめる。
蜘蛛型ロボット。
その奥に――
“父”を。
「……なんでだ」
低く、震える声。
「なんでロボットのふりなんてしてた」
短い間があった。
「……見ろ」
リョウイチは短く、告げる。
「身体は、もう無い」
「残ったのは……これだけだ」
静寂が満ちる。
その中で浮かび上がる。
人間の脳。
ユーヤは驚愕した。
「な⁉…」
リョウイチは続ける。
「脳だけがこの機体の内部にある」
「これを……“生きている”と言えるか?」
その問いにユーヤは答えられない。
言葉が出ない。
重い沈黙が空間を満たす。
「…なんでそんなことになってる?」
ユーヤが問いかける。
リョウイチは他人事のように話し始める。
「自身か死ぬ可能性を想定していた。致命傷を負った場合の保険だ」
ユーヤは無言で説明を理解しようとする。
「自分の脳だけを確保し安全圏に対比させる装置。肉体が限界を向かえる前、全ての作業を完了し実行した。完全自動、機械制御での脳幹部摘出。そして自動でこの身体に接続され目覚めるように設定していた」
ユーヤは言葉を失った。
「倫理観など無視し、自分自身を使った実験だ。成功する可能性は高いとふんでいたがね」
淡々と語る父に若干の苛立ちを覚えるユーヤ。
「…それでその身体かよ…」
いろいろと思うところはあるが切り替える。
ユーヤが顔を上げる。
「……まだあるだろ」
父を睨みつける。
「説明してないことが」
まっすぐに、父を見る。
「アークレイズシステムを使うたびに身体が壊れていった。徐々に動かなくなっていった。」
一歩、踏み込む。
「なのに今は正常だ」
「どういうことだ」
リョウイチに迷いはない。
真実を告げる。
「原因は神経接続システムだ。接続を深めすぎた結果、肉体側の神経伝達が破綻していた。肉体側の異常だ。そのため、神経接続回路と同期中は補正される」
ユーヤは何も言わない。
「……」
リョウイチは淡々と続ける。
「だが、問題は解決している。脊髄に微小な補正装置を埋め込んだ。これにより、肉体の神経信号は常に最適化される。結論として今後、神経接続をカットしても身体の欠損は発生しない」
ユーヤは首元を押さえる。
目を見開く。
「……最初からやれよ」
「不可能だった。ここまでの神経接続データが必要だった」
静止する。
すべて。
計算の上。
「もっとも」
一拍置いて。
「ブラウフリューゲル本体は、大気圏突入時の摩擦熱で、フレームをわずかに残して炭化している」
「修復は不可能なのだが」
機体は、もう存在しない。
「…そうか」
ユーヤはゆっくり息を吐く。
そして、ふと気づく。
違和感がする。
父は――
“よく喋っている”。
まるで子供のころ、母さんに叱られている父さんそっくりだ。
「……父さん」
静かに言う。
「こういう時、父さんがよくしゃべる時ってさ、本当に大事なこと、まだ言ってない時だよな」
沈黙。
一瞬。
空気が完全に止まる。
ユーヤは逃がさない。
「……そうだろ?」
機械の内部で、
“父”が、
わずかに沈黙した。