蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

67 / 79
2章⑥導かれた戦場と真実と

静かだった。

——いや、静かすぎた。

だが、

頭の中は、嵐だった。

 

今までの戦いを思い出す。

戦場。

燃え上がる炎。

焼けた鉄の匂い。

孤独——ギアノイド。

死線の只中。

 

何度も、

何度も、

限界を越えた。

肉体も、精神も。

 

だが、

すべての戦いに、

ひとつの共通点がある。

 

どんな絶望でも。

どれほど追い詰められても。

必ず——

道があった。

勝ってきた。

人類は。

常に、ぎりぎりのところで。

 

「……おかしいんだよ」

ユーヤがぽつりと、呟く。

 

父へ向ける。

逃げ場を塞ぐように。

 

「次元リアクター管理局は、人類は、いつも到底越えられそうの無い壁にぶち当たってきた」

 

圧倒的な戦力差。

未知の敵。

決定的な情報不足。

常識なら、敗北しかあり得ない条件。

 

「それでも……」

「必ず突破口を見つけてた」

 

ユーヤは、一歩近づく。

床を踏む音が、やけに大きく響いた。

 

これは、問いじゃない。

——確認だ。

 

「犠牲は出た、フリューゲルに依存もした…でも……」

 

「詰んだ戦いは、一度もなかった」

 

父は動かない。

まるで、時間ごと凍りついたように。

 

ユーヤは目を細める。

「……都合が良すぎる」

 

「最初から“勝てる戦い”しかしてないみたいだ」

「特に宇宙での大規模戦闘なんかおかしいところだらけじゃないか」

「なんでバスターアームズが宇宙空間に事前に適応してんだよ」

「なんで都合よく使える宇宙船団があるんだよ」

 

さらに踏み込む。

もう、後には引けない。

 

「父さん」

一切の迷いなく。

「全部……誘導してたんだろ」

 

静止する。

完全な沈黙。

 

数秒。

——いや。

もっと長く感じた。

 

やがて。

低く、落ちる声。

「……ああ」

 

 

否定はしない。

それが、答えだった。

 

「戦況予測、敵行動パターン解析、ギアノイド反応の観測」

「すべてを統合し——」

「勝率のある戦法を、次元リアクター管理局コンピューターの演算結果として提示した」

 

「それが、管理局の“判断”だ」

 

ユーヤは拳を握る。

爪が食い込むほどに。

 

「判断……?」

「ふざけるなよ」

 

「人を駒みたいに使って!!」

 

リョウイチは淡々と否定する。

「駒ではない」

 

「“最適配置”だ」

 

価値観が、正面からぶつかる。

 

「同じだろうが!!」

 

沈黙。

空気が張り詰める。

呼吸すら、重くなる。

 

その戦争は。

誰かの手で。

——“設計されていた”。

 

違和感は。

——確信に変わる。

 

「……やっぱりおかしい」

ユーヤは低く、押し殺した声で呟く。

 

視線はまっすぐに。

逸らさずに。

父を見る。

 

「父さんは……ギアノイドのことを知りすぎてる」

「次元粒子の運用方法の確立、ここまではわかる」

「死んだギアノイドを調べて真似しているだけだからな」

 

だが――――

「だがそのあとは?」

ユーヤが続ける

「挙動、構造、思考パターン、戦況予測、襲来頻度、そして次元粒子の隠された力」

「観測や戦闘データだけで辿り着ける領域じゃない」

積み重ねただけでは届かない。

——“内側”を知らなければ。

 

一歩踏み込む。

距離が、わずかに縮まる。

 

ユーヤは問いかける。

「どこから得た?ギアノイドの情報を」

 

命令に近い。

「答えろ」

言葉に、温度はなかった。

 

沈黙する。

わずかに。

だが。

確実に“間”があった。

——初めての、揺らぎ。

 

「……ギアノイドは」

リョウイチは静かに、告げる。

 

「量子ネットワークを形成している」

 

「……ネットワーク?」

ユーヤは理解が、一瞬遅れる。

 

「個体ごとに独立しているように見えるが、情報は全体で共有されている」

 

ユーヤは少し納得した様子でつぶやく。

「…だから死んだはずの個体から学習したように動くのか」

「そうだ」

 

群体ではない。

——一つの存在。

無数でありながら、単一。

 

「ただし、全ての情報を共有できているわけではない」

「人間のインターネット上に無数の情報が存在しているのと同じ、すべてを把握できるわけではない」

「膨大な情報を全て管理することはできない」

「そのため、ある程度の指向性が必要」

「つまり統率者が必要だ」

ユーヤは気付く。

「…宇宙で倒したのがその統率者か」

リョウジは静かに告げた。

「そうだ、統率者のうちの“一体”だ」

「⁉」

ユーヤは衝撃を受けた。

(…“一体”…つまり統率者は複数いるという事)

(戦いは終わっていない…)

 

そしてリョウイチは、核心部分について触れる。

どうやってリョウイチはギアノイドの情報を得て先回りしていたのかを。

 

「その量子ネットワークにワタシもアクセスすることで、情報を取得している」

 

静止する。

言葉が、重く落ちる。

 

ユーヤの喉が、かすかに鳴る。

「……アクセス方法は?」

 

ここで。

初めて。

“ためらい”が生まれる。

答えるべきか。

踏み越えていいのか。

 

リョウイチは答える。

「……端末を使用している」

 

その瞬間。

ユーヤの中で——何かが鳴る。

 

警鐘が鳴る。

やめろ。

それ以上、聞くな。

踏み込むな。

 

直感だった。

戻れなくなる。

この先は、もう。

 

それでも。

止まらない。

止まれない。

「……端末って、なんだ」

 

沈黙。

長い。

重い。

空気が、沈む。

 

 

そして。

静かに。

逃げ場を与えずに。

リョウイチは答える。

「それは——」

 

 

「“人間”だ」

 

 

 

「……なんだって?」

 

理解が出来ない。

思考が追い付かない。

 

「量子ネットワークに適応するように“設計”した」

 

人間をギアノイドの量子ネットワークに接続している。

それが真実。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。