蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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2章⑧届かなかった手

銃口は下がった。

だが、

——何も終わっていない。

 

 

「……エリスは」

ユーヤのかすれた声。

喉が焼けるように痛む。

「これからどうなる…」

 

リョウイチは静かに回答する。

拳銃を向けられていたことなど気にしないと言わんばかりに。

「エリスは量子ネットワークに常時接続しているわけではない」

「ギアノイド側へのスパイであると勘づかせないために、接続状態を管理していた」

 

そして、一拍。

 

「だが…」

 

言葉に詰まる父。

ユーヤは問いかける。

 

「…だが、なんだよ」

 

リョウイチは沈黙する。

「…」

ユーヤが声を荒げる。

 

「答えろよ!アイツに!エリスに何があった!!!」

 

一拍。

そして、告げられる。

「…観測記録がある」

 

空間に、光が走る。

輪郭が組み上がり——映像が投影される。

 

時刻は俺が戦闘後に気を失っていた時間帯。

見覚えのある家の外観。

——自分の家だ。

 

ユーヤは息が止まる。

肺が、空気を忘れる。

 

拡大される窓。

室内。

エリスがいる。

一人きりで。

 

静寂の中。

泣いている。

声はない。

ただ、肩だけが小さく震えている。

 

そして――――

次の瞬間、

“それ”が現れる。

 

小型のギアノイド。

空から飛来する。

最初からそこにいたかのように。

浮遊する。

 

ゆっくりと。

確実に。

エリスへと近づいていく。

 

手のようなものが。

滑るように伸びる。

 

 

「……やめろ」

ユーヤは思わず、声が漏れる。

届くはずもないと、わかっていながら。

 

これは過去の映像だ。

だが、

止まらない。

 

触れる。

——その瞬間。

 

ノイズ。

映像が乱れる。

激しく。

引き裂かれるように歪む。

 

そして。

——消える。

 

静寂。

何も映らない。

黒だけが、そこにある。

 

「……おい」

ユーヤの震える声。

「続きは……」

 

リョウイチの回答。

「ここまでしか観測できていない」

 

それ以上は。

——“見えない”。

 

足りない部分を。

想像が、埋める。

嫌でも。

逃げ場なく。

 

 

「恐らく、量子ネットワークに接続している異物があることを感知された」

「そのために接触してきたと判断する」

「…人類は量子ネットワークに接続する手段を失った」

リョウイチが淡々と告げるがユーヤの耳には届いていない。

 

ユーヤの膝が崩れる。

 

支えを失い。

その場に、倒れ込む。

人類のことなど、どうでもよかった。

 

「……俺が」

かすれる。

声にならないユーヤ。

「仕留められなかったから……」

 

「俺が……守れなかった……」

 

どんな事情があったにせよ、

一番大切な人を守れなかった。

それが現実。

 

目に、光がない。

焦点すら、合っていない。

 

何も残らない。

怒りも。

意思も。

 

ただ、

そこに、いるだけ。

 

蒼の英雄は、

その時、

——すべてを失った。

 

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