蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
戦闘終了から、六時間後。
次元リアクター管理局、中央会議室。
円卓を囲むように、各国代表のホログラムが投影されていた。
空気は、重い。
「まず確認したい」
低い声が響く。
中華代表だ。
「今回の戦闘において確認された“白い機体”…あれは何だ?」
沈黙。
わずかな間を置き、別の声が続く。
「事前通達はなかったはずだ」
USA代表。
「緊急戦力の投入にしては、説明が不足している」
EU代表も同調する。
「我々の観測では、既存のバスターアームズとは明らかに性能が異なる。あれは……別系統の機体だ」
視線が、一点に集まる。
会議室の中央。
そこに座るのは――
朝倉ゲンゾウ。
老人は、ゆっくりと目を閉じ、そして開いた。
「……フリューゲルだ」
一言。
それだけだった。
「名称の話ではない」
中華代表が食い下がる。
「なぜ今まで存在を伏せていた?」
ゲンゾウは、わずかに息を吐く。
「伏せていたのではない。“段階的開示”を予定していた」
「ふざけるな」
USA代表の声が強まる。
「我々は事前情報なしであの戦闘に臨んだ。結果的に勝利したからいいものの――」
「勝利した」
ゲンゾウが遮る。
静かな声。
だが、それ以上の言葉を許さない圧があった。
「事実として、人類側の損失は最小限に抑えられている」
誰も反論しない。
それが事実だからだ。
「フリューゲルは試験段階の機体だ」
ゲンゾウは続ける。
「設計者、関谷リョウイチの死により、詳細な再現は困難。現在もブラックボックスが多く残っている」
ホログラムの向こうで、各国代表が顔を見合わせる。
「つまり?」
EU代表が問う。
「現状、“一機のみの例外的戦力”だ」
ざわめきが走る。
「性能は?」
USA代表。
「現在解析中だ。だが――」
わずかな間。
「量産化は不可能と判断している」
核心だった。
「……そうか」
中華代表が低く呟く。
納得ではない。だが、理解はした。
“奪えない技術”の可能性。
「では今後の対応は?」
EU代表が話を切り替える。
ゲンゾウの目が、わずかに鋭くなる。
フリューゲルのパイロットは公表していない。
公表するつもりもない。
狙い通り――議題は前へ進む。
「今回の戦闘データを基に、新装備の開発を進める」
映像が切り替わる。
戦闘ログ。
フリューゲルの機動、射撃、接近戦。
「特に粒子制御と機動制御。この二点は既存機体へフィードバック可能だ」
「具体的には?」
「高機動パッケージの改良、および新型武装の開発」
ゲンゾウは淡々と言う。
「フリューゲル単体に依存するのではなく、“全体戦力の底上げ”を優先する」
各国代表が頷く。
それが、最も合理的な判断だった。
――そして同時に。
フリューゲルという“異常”から、意識を逸らす選択でもある。
議論は、そのまま技術共有へと移行していった。
ただ一人。
USA代表だけが、わずかに目を細めていた。
「……本当に、それだけか?」
誰にも届かないほどの声。
だが、その疑念だけは確実に残った。
同時刻・管理局内部
格納庫。
フリューゲルは、静かに佇んでいる。
戦闘の痕跡を残したまま。
コックピットハッチが開く。
ユーヤが、ゆっくりと降りてくる。
「……」
足元が、わずかに揺れた。
ナツキが駆け寄る。
「ユーヤ!」
「大丈夫だ……少し、疲れただけだ」
そう言って、壁にもたれる。
呼吸は乱れていない。
だが、消耗は隠せなかった。
「無理しすぎよ……」
「問題ない。機体の制御も安定してる」
ユーヤは視線を上げる。
フリューゲルを見る。
沈黙する機体。
――だが。
その奥にある“何か”を、彼は確かに感じていた。
その頃
自宅。
エリスは、窓の外を見ていた。
空には、もう何もない。
ただの平穏。
それでも。
「……ユーヤ…」
胸の奥が、ざわつく。
だが、その正体は分からない。