蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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2章⑩もう一度、手を

足が止まる。

自分の家。

そこに、あったはずの場所。

帰るはずだった場所。

今は――

残骸だけが広がっている。

静寂が満ちる。

音がない。

生活の気配も。

何もかも、消えていた。

 

ユーヤはゆっくりと踏み込む。

瓦礫を踏む音だけが、やけに大きく響く。

 

過去の記憶。

ここで、

笑っていた。

話していた。

――隣に、誰かがいた。

だが――――

もう、ない。

 

ふと。

視界の端に、色が引っかかる。

 

小さな布。

赤い――

しゃがみ込み、手に取る。

「……リボン」

あいつが。

よく付けていたもの。

 

ずっと昔。

まだ幼かった頃。

自分が、渡したものだった。

 

本当は軽いはずなのに。

やけに――重い。

 

指に力がこもる。

形が崩れるほど、強く握りしめる。

 

言葉は出ない。

何も、出てこない。

 

ここには、もう――

何も残っていない。

 

帰る場所が、ない。

 

ふらふらと歩き続けた。

目的など無い。

いなくなった人の痕跡を探すように。

しかし、痕跡すらあるはずがない。

どこを探してもいるはずがない。

歩き続けても得られるものは何もなかった。

 

そして再び、足はあの場所へ向く。

向かう先は、ひとつしかない。

 

無機質な空間。

整いすぎた静けさ。

人の温もりは、ない。

けれど――

今の自分には、そこしかない。

 

リョウイチのセーフハウス、ベッドに倒れ込む。

 

何も考えない。

何も感じない。

そうしようとしても。

 

それでも――

赤いリボンだけは、離さなかった。

 

握りしめたまま。

 

ユーヤは、また――

動かなくなった。

 

静寂。

何もない時間が、ただ過ぎていく。

ユーヤはベッドの上。

動かない。

ただ――

手の中の感触だけを、確かめている。

リボン。

小さな布。

少し汚れている。

それでも。

確かに、そこにある。

 

ゆっくりと。

沈んでいたものが、浮かび上がる。

 

笑っていた。

怒っていた。

くだらないことで言い合って――

それでも。

隣にいた。

 

胸の奥が、軋む。

押し込めていたものが、滲み出す。

言葉として。

涙として。

 

「……好きだった」

ぽつりと、零れる。

止まらない。

 

「ずっと……」

 声が震える。

「大好きだった」

本音だった。

 

「ずっと一緒に……いたかった」

願いだ。

 

「会いたい……」

 息が詰まる。

「会いたい……」

 何度も、繰り返す。

 

「抱きしめたい……」

 

唇が動く。

その名前を――

 

―――エリス—――

 

 

確かに、呼んだ。

 

返事はない。

分かっている。

それでも。

手の中のリボンを見る。

 

ゆっくりと――

握り直す。

 

「……もう一度」

今度は、はっきりと。

「渡すんだ」

これは誓いだ。

自分自身への。

 

「今度は……」

一瞬、言葉が途切れる。

それでも、続ける。

「もう二度と、離さない」

沈んでいた瞳に、わずかな光が戻る。

足に、力が入る。

ゆっくりと、立ち上がる。

 

止まっていた時間が――

再び、動き出した。

 

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