蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
足が止まる。
自分の家。
そこに、あったはずの場所。
帰るはずだった場所。
今は――
残骸だけが広がっている。
静寂が満ちる。
音がない。
生活の気配も。
何もかも、消えていた。
ユーヤはゆっくりと踏み込む。
瓦礫を踏む音だけが、やけに大きく響く。
過去の記憶。
ここで、
笑っていた。
話していた。
――隣に、誰かがいた。
だが――――
もう、ない。
ふと。
視界の端に、色が引っかかる。
小さな布。
赤い――
しゃがみ込み、手に取る。
「……リボン」
あいつが。
よく付けていたもの。
ずっと昔。
まだ幼かった頃。
自分が、渡したものだった。
本当は軽いはずなのに。
やけに――重い。
指に力がこもる。
形が崩れるほど、強く握りしめる。
言葉は出ない。
何も、出てこない。
ここには、もう――
何も残っていない。
帰る場所が、ない。
ふらふらと歩き続けた。
目的など無い。
いなくなった人の痕跡を探すように。
しかし、痕跡すらあるはずがない。
どこを探してもいるはずがない。
歩き続けても得られるものは何もなかった。
そして再び、足はあの場所へ向く。
向かう先は、ひとつしかない。
無機質な空間。
整いすぎた静けさ。
人の温もりは、ない。
けれど――
今の自分には、そこしかない。
リョウイチのセーフハウス、ベッドに倒れ込む。
何も考えない。
何も感じない。
そうしようとしても。
それでも――
赤いリボンだけは、離さなかった。
握りしめたまま。
ユーヤは、また――
動かなくなった。
静寂。
何もない時間が、ただ過ぎていく。
ユーヤはベッドの上。
動かない。
ただ――
手の中の感触だけを、確かめている。
リボン。
小さな布。
少し汚れている。
それでも。
確かに、そこにある。
ゆっくりと。
沈んでいたものが、浮かび上がる。
笑っていた。
怒っていた。
くだらないことで言い合って――
それでも。
隣にいた。
胸の奥が、軋む。
押し込めていたものが、滲み出す。
言葉として。
涙として。
「……好きだった」
ぽつりと、零れる。
止まらない。
「ずっと……」
声が震える。
「大好きだった」
本音だった。
「ずっと一緒に……いたかった」
願いだ。
「会いたい……」
息が詰まる。
「会いたい……」
何度も、繰り返す。
「抱きしめたい……」
唇が動く。
その名前を――
―――エリス—――
確かに、呼んだ。
返事はない。
分かっている。
それでも。
手の中のリボンを見る。
ゆっくりと――
握り直す。
「……もう一度」
今度は、はっきりと。
「渡すんだ」
これは誓いだ。
自分自身への。
「今度は……」
一瞬、言葉が途切れる。
それでも、続ける。
「もう二度と、離さない」
沈んでいた瞳に、わずかな光が戻る。
足に、力が入る。
ゆっくりと、立ち上がる。
止まっていた時間が――
再び、動き出した。