蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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2章⑪覚悟の先

ユーヤは起き上がる。

ふと、父が用意したであろう、食事が用意されたプレートを見た。

とっくに冷めている。

迷いなく口に入れる。

貪るように、無心で口にかき込んだ。

無理やりにでも胃に押し込んだ。

そして、プレートが空になった。

ユーヤは空になったプレートを見つめた。

「…不味いな……本当に不味い………あいつの料理の方が100倍旨い…」

独り言のようにつぶやいた。

「さて…行くか……」

ユーヤは歩き出す。

この数日間のようなおぼつかない足取りではない。

しっかりとした足取りで。

成すべきことをするために。

目指した場所は一つ。

扉の前。

ユーヤは立っていた。

そして父と対峙する。

振り返らない。

迷いもない。

もう、後ろを見る理由はなかった。

 

「……父さん」

低く。

だが、はっきりと。

「正直に答えろ」

一拍、間を置く。

 

「エリスは……生きているのか」

 

沈黙。

わずかに――

空白が落ちる。

 

「……生きている」

リョウイチの静かな声。

「非常に微弱であり、詳細はつかめないが…エリス固有の信号を検出している」

 

その言葉が、落ちる。

重く。

ユーヤは目を見開く。

だが確かに、胸に届く。

 

「ただし」

 

 一拍。

 

「“人として”生きているかは、わからない」

「⁉」

残酷な補足。

それが現実。

エリスが行方不明となり既に1週間近く経過している。

エリスが殺されたわけではなく、連れ去れたとするなら、その間の衣食住は?

ギアノイドに捕獲された状況で人として生きているのか?

それは誰にもわからない。

リョウイチですらエリスの存在が完全に消えていないことしか掴めていない。

 

それでも――

ユーヤは目を閉じる。

覚悟を――――決める。

そして、ゆっくりと目を開く。

 

「……それでもいい」

 

迷いはない。

 

「どんな形でもいい」

拳を握る。

 

「それでも……取り戻す」

 

もう、止まらない。

止まる理由も、失っていた。

リョウイチはその言葉を、静かに受け止める。

 

「……そうか」

わずかに。

安堵にも似た気配が滲む。

「ユーヤ」

ゆっくりと、息子の名を呼ぶ。

 

「まだ……戦う意思は残っているか」

 

「ある。俺は………戦う!!」

迷いはない。

即答だった。

 

その一言で――

空気が変わる。

 

「ならば来い」

リョウイチは背を向ける。

迷いなく、歩き出す。

誘導される。

施設の奥へ。

さらに、その先へ。

そして到達する。

重い扉の前で、足を止める。

リョウイチが一言。

「……見せてやる」

 

鈍い音を立てて、扉が開く。

その先。

光が差し込む。

その中にあったものは――希望。

人類にとって、そして、ユーヤにとっての希望。

新しい力がそこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

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