蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
扉が、開く。
差し込む光の中に――
“それ”はあった。
ブラウフリューゲル。
だが――
違う。
かつての青い機体は、
装甲はより深い蒼へ、フレーム部分も各所に改良が見られる。
より深く。
より鋭く。
まるで――影そのもののように佇む機体。
「……これ…は」
ユーヤは思わず、息を呑む。
「ブラウフリューゲルtypeⅡ」
リョウイチは静かに告げる。
全高22メートル。
基本構造はブラウフリューゲルと同一。
だが――
中身は、完全に別物と化している。
リョウイチの説明は続く。
「基本構造はブラウフリューゲルと大差ない」
「だがブラウフリューゲルの戦闘データを取り入れ改良を重ね完成させた」
「ワタシが作り得る事のできるバスターアームズ…その最高傑作だ」
佇む機体を見つめるユーヤ。
「…最高傑作ね…」
リョウイチは詳細を語り始める。
「変更部分を説明する」
「ブレードビットは廃止した、代わりに――」
左肩から腕にかかるほどの巨大な盾。
複数の装甲が折り重なっているような形状。
リョウイチは静かに解説する。
マルチプルビット。
合体することで盾状ユニットなる。
ブレードビットの発展型。
展開時に八基となる。
「次元粒子によるバリア展開」
「粒子ビームによる射撃」
「近接時はビームサーベルを形成」
攻防一体。
死角を持たない、完全オールレンジ兵装。
「お前の脳波で、全基を同時制御する」
「…ブレードビットの倍以上の数になる、できるか?」
ユーヤ息を呑む。
それが意味する負荷も、理解していた。
「…やってやるさ」
さらに追加武装。
両腰に折り畳み式収束ビームランチャー(レーヴァテイン改)
「レーヴァテインより小型かつスラスターの一部を砲身としないことでデメリットを回避している。従来のレーヴァテインもそのまま装備されているがね」
次に出力。
「次元リアクターは過去の稼働データをもとに最適化済み」
「出力は従来比……1.8倍」
更に―――
「アークレイズシステムの負荷も軽減されている」
「出力配分を最適化することで、使用後の戦闘不可になるリスクを回避している」
だが――
それは、前座に過ぎない。
リョウイチは一歩、前へ出る。
「……本題はここからだ」
ユーヤの視線が鋭くなる。
「量子テレポーテーションシステム」
「名称“ナイトランサーシステム”」
その言葉が落ちた瞬間、
空気が変わる。
「短距離の量子跳躍を可能にする。敵の攻撃は――当たらない。完全回避を実現する」
「発動時、機体は粒子化し、黒い霧状へと変化する。その副産物として、機体はステルス性を獲得している。機体表面だけを量子化すれば連合艦隊のレーダーにも探知されない」
ユーヤは驚きの声を挙げる。
「攻撃の完全回避⁉」
ユーヤが目を見開くが、リョウイチは構わず続ける。
「そうだ、だが万能ではない、弱点も明確に存在する」
完全回避、そう聞けば最高の回避システムとしか思えない。
ユーヤは尋ねる。
「弱点?」
リョウイチの詳細な説明。
「まず粒子使用量、量子テレポーテーションは次元粒子を極限まで圧縮して初めて作動する。圧縮時間を含め連発は不可能だ。ブラウフリューゲルとて粒子生成量には上限が存在する」
ユーヤは納得したような表情。
「なるほどな…」
そしてリョウイチが更なるデメリットを提示する。
「そして量子化後の再構成の位置に異物があればそのままダメージになる」
「内部崩壊を起こす…出現ポイントには十分注意しろ」
万能ではない。
どんなシステムにも弱点は存在する。
ユーヤは改めて納得する。
「…わかった」
だがリョウイチは続ける。
「そしてもう一つ、最大の弱点」
「ナイトランサーシステムの起動は、ユーヤ、お前が自身で意図をもって行う事」
ユーヤは意味が分からない。
「?なんでそれが弱点になる?」
リョウイチは解説する。
「ナイトランサーシステムは自動で発動するわけではない」
「完全回避を実現するが“自動回避”ではない」
ユーヤは父が言いたかったことをようやく理解した。
「…連発、常時発動は不可能」
「つまり、俺が必要なタイミングで起動しなければ、完全回避は成立しない」
リョウイチは肯定する。
「そうだ」
つまりユーヤの使い方次第。
リョウイチはそう言いたいのだ。
ようやく父が言いたいことを理解したユーヤ。
「…わかった」
わずかに沈黙。
そして――最も重要な一言。
「これは試験機だ」
「長距離量子テレポーテーション…それを成功させるためのな」
その言葉の意味を、理解する。
「……行けるのか」
ユーヤの声が、わずかに震える。
「エリスのところに」
一切の迷いなくリョウイチは告げた。
「エリスの詳細座標を特定」
「長距離量子テレポーテーションを成功させる」
「これ以外に方法はない」
静寂。
選択肢は、ひとつ。
これは――
戦うための機体じゃない。
“会いに行くための翼”だ。