蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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1章④備えられた空

戦闘から三日後。

次元リアクター管理局は、かつてないほどの忙しさに包まれていた。

「次、粒子供給ライン接続!」

「出力試験いくぞ、固定しろ!」

先の戦闘で多大な戦果を挙げた白い機体が、格納庫で立っていた。

その周囲を、整備班が走り回る。

「慎重にいけ、それは代えが利かない!」

誰もが理解している。

あれは“特別”だと。

一方で、国際連合軍バスターアームズ格納庫では、量産機の改修が急ピッチで進められていた。

「高機動パッケージ、仮組み完了!」

「新型ライフル、粒子収束率がまだ不安定です!」

1機ずつロールアウトし、整列してゆく。

すべては、次の戦いのためだ。

 

【挿絵表示】

 

 

試験空域。

青空の下。数機の量産型バスターアームズが展開していた。

『テスト開始。各機、順次加速』

推進器が唸る。空戦機動。従来よりも明らかに速い。

『制御が追いつかない!補正が遅れる!』

パイロットの声。新装備は強力だ。だが、扱いきれない。

『やはり操縦系の最適化が必要か……』

観測していた技術者が呟く。

 

同空域・別高度。

白い機体が浮かぶ。フリューゲル。ユーヤが搭乗している。

「……やるぞ」

『無理はしないでよ』

通信に入り込む声。ナツキ。

「分かってるさ」

短く返す。

『今回はあくまでテスト。戦闘じゃない』

「……ああ」

だが、その声にはわずかな違和感。

ユーヤにとって、“戦うこと”はすでに前提になっている。

『機動テスト開始』

次の瞬間、フリューゲルが加速する。

一瞬で視界が流れる。量産機の上空を通過。

『速い……!』

誰かが呟く。

だがユーヤは冷静だ。

「まだ余裕がある」

旋回。急制動。再加速。すべてが滑らかだ。

『……本当に人が操縦してるの?』

半ば呆れた声。

ユーヤは答えない。ただ、機体と一体になっている。

 

管制室。

朝倉ゲンゾウがモニターを見ている。

「……順応が早すぎるな」

隣の技術者が苦笑する。

「比較対象が間違ってますよ、あれは」

ゲンゾウは小さく息を吐く。

「そうかもしれんな」

だが、その目はどこか複雑だった。

 

各国合同通信。

同時刻。各国代表が短時間の通信会議を行っていた。

「進捗は順調のようだな」

EU代表。

「我々の改修機も初期試験を開始している」

USA代表。

「……フリューゲルについては?」

中華代表。

わずかな沈黙。だがすぐに答えが出る。

「現状は切り札として温存する」

「同意する」

「異論なしだ」

疑念はある。だが、それ以上に優先すべきものがある。

「次の襲撃に備える」

それがすべてだった。

 

自宅。

エリスはキッチンに立っていた。夕食の準備。手際は完璧だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

だが――

「……」

ほんの一瞬、手が止まる。

すぐに動き出す。何もなかったかのように。

 

宇宙空間。静寂。

その中に、わずかな光。

そこから、何かが覗きこむような。

これまでとは違う。

より深く、より大きな“何か”。

ゆっくりと、確実に、地球へ向かっていた。

 

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