蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
リョウイチは限界だった。
情報が流れ込む。
無限に。
止まらない。
ギアノイドの全て。
エリスを介して直接情報を入手していた時とは違う。
無数の情報がダイレクトにリョウイチへの負荷へと変換される。
位置。
構造。
意志。
そして――
“中枢”。
遠い。
深い。
届かない。
到底一人では追いつかない。
たとえ機械化し生身の人間よりはるかに増幅した演算能力でも追い付かない。
僅かに残った人間としての部分、脳細胞が焼き切れるような感覚が走る。
演算が――
崩れる。
視界が乱れる。
音が歪む。
ユーヤから通信。
「父さん!」
リョウイチは応答しない。
数秒沈黙。
そして――
リョウイチのかすれる声。
「……無理だ」
初めて。
その口から零れる。
「間に合わない……」
静止。
時間が、止まる。
それは――
敗北宣言に等しかった。
ユーヤは静かに聞き返す。
「……何言ってる」
リョウイチは焦りが隠せない声で答える。
「想定していた距離よりも反応は遥かに遠い…」
「長距離テレポーテーションでは足りない」
「超長距離の転移が必要…」
「それに情報量が……多すぎる……!」
「ワタシ一人では処理しきれない…」
「このままじゃ……」
「連合軍も…お前も…もたない」
「中枢の座標特定に――」
「間に合わない……!」
その瞬間。
爆発。
衝撃。
戦場は、待たない。
ギアノイドは押し寄せる。
無限に。
中枢到達前に人類が敗北する。
それでも。
ユーヤの声は静かだった。
「……いいさ」
リョウイチが声を荒げる。
「何がいい!」
叫ぶ。
余裕は、もうない。
ユーヤは静かに告げる。
「間に合わないなら」
一拍。
「間に合わせる」
沈黙。
リョウイチが息を止める。
「父さん」
真っ直ぐに伝える。
「俺が時間を作る」
「どれだけでも、稼ぐ」
その意味。
それは――
限界を、超えるということ。
さらに、
「アークレイズシステムは使わない」
「転移用の次元粒子として温存する」
「やめろ……!」
その言葉は研究者としてではなく、父としての言葉だった。
だがユーヤは聞かない。
出力上昇。
限界突破。
アラートが鳴り響く。
だが――止めない。
「ナイトランサー!!!」
通常ではあり得ない速度。
あまりにも極短時間、最小限の動きで、消失と出現を繰り返し、ギアノイドの壁を蹂躙していく。
転移。
消える。
現れる。
消える。
現れる。
速度はもはや認識不能。
戦場で亡霊が、暴れる。
ギアノイドは
対応できない。
次々と崩壊する。
だが―――
それでも足りない。
数が、多すぎる。
もはや人間に制御できる範疇を遥かに超えた速度に、神経接続しているユーヤの負荷も増大する。
それでも、
止まらない。
「……来いよ」
「全部、俺が相手してやる」
リョウイチは震える。
その姿を、見て。
理解する。
息子は――
自分より先に、
“覚悟”を決めている。
リョウイチも覚悟を決める。
「……ユーヤ…!」
演算、再開。
父は、一度折れた。
だが――
息子が、それを繋いだ。