蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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2章㉕空白の先に

蒼は消えた。

大切なものを取り戻し、人類を救うために飛び立った。

 

ヴェスペリオン艦橋。

――静寂が、ゆっくりと戻ってくる。

 

ナツキは名残惜しそうにつぶやく。

「……行っちゃったわね」

リョウイチも機械の身体ではあったが、その雰囲気は子供を心配する親そのものだ。

「…ああ」

「帰ってくるわよね」

「ああ」

「……家族、全員揃うよね」

ほんの一瞬。

だが、それは永遠にも似た沈黙。

もうリョウイチにも迷いはない。

「ああ」

ナツキは小さく、しかし確かに頷く。

「じゃあ、それまで――待っていないとね」

そのために、今やるべきことがある。

「ああ…子供たちが帰ってくる場所を守る…それがワタシたちの成すべきことだ」

 

 

ゲンゾウは飛び立った孫の蒼い残滓を見ていた。

名残惜しい。

だが孫を信じている。

後は信じて待つだけ。

それまで地球を守るだけ。

「…ユーヤ…頼んだぞ」

ゲンゾウはは思考を切り替える。

「ヴェスペリオン!急速反転!」

ヴェスペリオン艦体、反転。

エンジンが唸りを上げる。

再加速。

戦線へ復帰する。

守る。

帰ってくる場所を――。

 

ゲンゾウは全艦隊に向けて通信回線を開く。

広域回線、接続。

 

「皆、見たか」

一拍、意図的な間。

「蒼の英雄は――帰還した」

「そして…戦いを終わらせるために、再び飛び立った」

低く、しかし力強く。

「今こそ、正念場である!」

「我々にはまだ希望が残されている!」

「奮起せよ!」

 

その一言が、全艦隊へと広がる。

 

兵士たちに気力が戻る。

「……まだ終わってない」

「やれる……!」

「守るんだ、俺たちの場所を!」

消えかけていた火が、再び灯る。

 

連合宇宙艦隊は踏みとどまる。

――希望が、あるから。

 

 

 

一方、ユーヤ。

――静寂。

 

転移完了。

機体再構成問題なし。

肉体、精神ともに安定。

 

状況を確認する。

漂っている。

広大な空間の中に。

 

だが―――

何もない。

 

一言で言うと空白の空間。

違和感。

敵影なし。

反応も、気配もない。

 

転移と同時に戦闘になると予想していた。

しかし、予想は外れた――かに見える。

「……拍子抜けだな」

小さく吐き出す。

だが――

 

確信がある。

近い。

“ここ”にいる。

座標は、誤っていない。

 

進む。

ゆっくりと。

スラスターを吹かし少しずつ、前へ。

 

その空間は白。

音はなく、

重力もなく、

境界すら曖昧。

 

ただ一つ

存在するのは――

自分だけ。

 

つぶやく。

「……エリス」

 

距離は確実に、縮まっていく。

 

指定座標、目前。

 

その時—――

視界の奥に、何かが揺らいだ。

 

ぼやけた像が、徐々に形を取る。

――人影。

 

空白の中に浮かぶ、それは。

微動だにせず、そこに在る。

 

理解する。

一瞬で。

 

見間違えるはずがない。

 

心拍が跳ね上がる。

 

「……いた」

 

 

再会の時が――

すぐそこまで、迫っていた。

 

 

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