蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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3章②対話

理解してしまった。

目の前にいる存在は、もうエリスではない。

エリスの姿をしている。

エリスの声を持っている。

だが、その中身は別物だ。

“何か”だった。

――それでも。

 

「……っ」

 

ユーヤの胸が痛む。

どれだけ否定しても、あの身体はエリスそのものだった。

肩の細さも。

髪の揺れ方も。

静かな瞳も。

全部、記憶の中の彼女と同じだ。

だからこそ、ユーヤの手は震えていた。

無意識にライフルを構えようとする。

照準が、エリスの中心へ向く。

指が引き金に触れる。

あと少し力を入れれば終わる。

終わらせられる。

だが、

 

「……っ、くそ……」

 

止まる。

撃てば終わる。

確かに終わる。

だが――終わるのは何だ?

ギアノイドか、

エリスか、

それとも、自分自身か。

捕獲するべきか。

無力化するべきか。

あるいは、

本当に撃つべきなのか。

答えは出ない。

ユーヤは動けなかった。

 

理由は単純だった。

それが、エリスだから。

たとえどんな状態であろうとも、大切な人を撃てはしない。

白い空間に沈黙が広がる。

何もない世界で、時間だけがゆっくり流れていく。

 

その時、

不意に、エリスの姿をした存在が口を開いた。

「こちらに戦闘の意思はありません」

静かな声。

感情の揺らぎがほとんどない。

だが、不思議と聞き取りやすかった。

一拍置き、さらに続ける。

 

「対話の許可をいただけませんでしょうか」

 

「…な!?…対話…だと?」

 

ユーヤが眉を歪める。

あまりにも理性的だった。

あまりにも冷静すぎた。

怒りも、

嘲笑も、

敵意すら感じない。

それが逆に、不気味だった。

ユーヤは目を細める。

 

「罠か……?」

低く呟く。

 

「時間稼ぎか。それとも、俺を油断させるためか」

 

「そのような意図は存在しません」

即答だった。

 

「我々は、人類との相互理解を目的としています」

 

「相互理解、だと……?」

 

ユーヤの声に苛立ちが混じる。

「ふざけるな…何万人殺したと思ってる」

 

「認識しております」

 エリスの姿をした存在は、淡々と答えた。

 

「その上で、対話を希望しています」

 

「……っ」

 

ユーヤの奥歯が軋む。

怒り。

憎しみ。

後悔。

全部が胸の中で渦巻いていた。

仲間を奪われた。

家を焼かれた。

人類は滅びかけた。

その原因が、今目の前にいる。

引き金を引きたい。

今すぐ撃ち抜いてしまいたい。

 

それなのに、

ユーヤは、それを押し殺した。

ここで終わらせてはいけない。

そんな直感があった。

もし今ここで感情に任せれば、人類は永遠に答えへ辿り着けない。

ユーヤはゆっくりと息を吐き、低く言う。

 

「……対話というなら」

視線を真っ直ぐ向ける。

「こちらの質問にも答えるんだな」

 

「もちろん、お答え致します」

迷いのない返答。

短い言葉。

だが、その空気は異様に重かった。

ユーヤはしばらく黙り込む。

そして。

静かに口を開いた。

 

「……いいだろう」

武器を下ろしきることはしない。

だが照準をわずかに逸らす。

「対話を受ける」

 

その言葉は、ユーヤ個人のものではない。

ここにいるのは人類代表。

つまり今の返答は、人類そのものの意思だった。

再び静寂が訪れる。

だが先ほどとは違う。

張り詰めた空気。

撃ち合いよりも重い沈黙。

人類とギアノイド。

互いの存在を賭けた対話が――。

今、始まろうとしていた。

 

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