蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
白い空間の中、ユーヤはエリスの姿をした存在を見据えていた。
互いに動かない。
だが空気だけが張り詰めていく。
そしてユーヤは、ゆっくりと問いを投げた。
「……なぜ人類を襲う?」
その一言。
それこそが核心だった。
答え次第で、すべてが変わる。
戦争の意味も。
敵の本質も。
人類の未来すら。
エリスの姿をした存在は、迷うことなく口を開いた。
「回答します」
一瞬の間。
そして、
「そこに美味しいご飯があるから」
「…………なに?」
ユーヤの思考が止まる。
理解が追いつかない。
「……ご飯?」
「はい」
存在は平然と頷く。
その姿がエリスそのものだからこそ、余計に現実感が狂う。
ユーヤは眉をひそめた。
「それは……次元粒子のことか?」
「肯定します」
即答だった。
「ギアノイドと同質のエネルギー、次元粒子」
静かな声が続く。
「これ以上に“美味しいご飯”は」
「全宇宙を探しても存在しないでしょう」
「……っ」
ユーヤは息を呑む。
単純だった。
あまりにも単純すぎた。
侵略でもない。
憎悪でもない。
まして思想でもない。
ただ――捕食。
それだけだった。
「……だから」
ユーヤは低く呟く。
「次元リアクタープラントを狙うのか」
「その通りです」
迷いのない返答。
悪意すらない。
まるで人間が食卓のパンを取るような感覚。
その価値観の違いに、ユーヤは背筋が冷える。
沈黙が落ちた。
そしてユーヤの中で、何かが決まる。
言うべきか。
隠すべきか。
ほんの一瞬、迷う。
本来なら知られてはいけない情報。
人類の根幹。
最大級の機密。
だが、
「……なら、この情報は持っているか?」
ユーヤは覚悟を決めた。
ここで止める。
この終わらない戦争を。
「次元リアクターの核は」
ゆっくりと言葉を切る。
「活動を停止したギアノイドの核だ。その大きさから、相当巨大だったと推測できる。」
その瞬間。
空間が凍りついた。
完全な静止。
白い世界から、音という概念が消えたようだった。
ユーヤは続ける。
「地球に飛来したお前たちを、人類はエネルギーとして使っている」
言ってしまった。
本来なら絶対に秘匿されるべき事実。
だが今は関係ない。
重要なのは、対話を成立させることだった。
やがて、その存在が静かに口を開く。
「いいえ、その情報は初めて取得しました。なるほど」
声にわずかな変化が混じる。
それは初めて感じる“思考”の気配だった。
「理解致しました」
「過去に活動を停止した、我々の同胞の核」
淡々とした声。
だがその内容は重い。
「推測になりますが、巨体となりすぎたことにより自らを維持できなくなり自壊」
「ギアノイド群から切り離された個体と推測します」
「その後、量子ネットワークから切り離されており経時変化による情報の希薄化、結果的にその情報を認識できませんでした」
再び静寂。
空間そのものが重く沈み込んでいく。
ユーヤは目を細めた。
そして核心部分を問いただす。
「…つまりこの状況において…お前たちの目的は」
低く問う。
「返却という事になるのか?」
さらに踏み込む。
「同胞の亡骸の」
エリスの姿をした存在は答えない。
沈黙。
それが逆に、言葉以上の意味を持っていた。
ユーヤの喉がわずかに鳴る。
対話は、もう後戻りできない場所まで来ていた。
人類とギアノイド。
互いの価値観。
互いの生存。
その根幹へと。
対話はさらに深い領域へ踏み込んでいく。