蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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3章④捕食

白い空間の中、ユーヤはエリスの姿をした存在を見据えていた。

互いに動かない。

だが空気だけが張り詰めていく。

そしてユーヤは、ゆっくりと問いを投げた。

「……なぜ人類を襲う?」

その一言。

それこそが核心だった。

答え次第で、すべてが変わる。

戦争の意味も。

敵の本質も。

人類の未来すら。

エリスの姿をした存在は、迷うことなく口を開いた。

「回答します」

一瞬の間。

そして、

「そこに美味しいご飯があるから」

「…………なに?」

ユーヤの思考が止まる。

理解が追いつかない。

「……ご飯?」

「はい」

存在は平然と頷く。

その姿がエリスそのものだからこそ、余計に現実感が狂う。

ユーヤは眉をひそめた。

「それは……次元粒子のことか?」

「肯定します」

即答だった。

「ギアノイドと同質のエネルギー、次元粒子」

静かな声が続く。

「これ以上に“美味しいご飯”は」

「全宇宙を探しても存在しないでしょう」

「……っ」

ユーヤは息を呑む。

単純だった。

あまりにも単純すぎた。

侵略でもない。

憎悪でもない。

まして思想でもない。

ただ――捕食。

それだけだった。

「……だから」

ユーヤは低く呟く。

「次元リアクタープラントを狙うのか」

「その通りです」

迷いのない返答。

悪意すらない。

まるで人間が食卓のパンを取るような感覚。

その価値観の違いに、ユーヤは背筋が冷える。

沈黙が落ちた。

そしてユーヤの中で、何かが決まる。

言うべきか。

隠すべきか。

ほんの一瞬、迷う。

本来なら知られてはいけない情報。

人類の根幹。

最大級の機密。

だが、

「……なら、この情報は持っているか?」

ユーヤは覚悟を決めた。

ここで止める。

この終わらない戦争を。

「次元リアクターの核は」

ゆっくりと言葉を切る。

「活動を停止したギアノイドの核だ。その大きさから、相当巨大だったと推測できる。」

その瞬間。

空間が凍りついた。

完全な静止。

白い世界から、音という概念が消えたようだった。

ユーヤは続ける。

「地球に飛来したお前たちを、人類はエネルギーとして使っている」

言ってしまった。

本来なら絶対に秘匿されるべき事実。

だが今は関係ない。

重要なのは、対話を成立させることだった。

やがて、その存在が静かに口を開く。

「いいえ、その情報は初めて取得しました。なるほど」

声にわずかな変化が混じる。

それは初めて感じる“思考”の気配だった。

「理解致しました」

「過去に活動を停止した、我々の同胞の核」

淡々とした声。

だがその内容は重い。

「推測になりますが、巨体となりすぎたことにより自らを維持できなくなり自壊」

「ギアノイド群から切り離された個体と推測します」

「その後、量子ネットワークから切り離されており経時変化による情報の希薄化、結果的にその情報を認識できませんでした」

再び静寂。

空間そのものが重く沈み込んでいく。

ユーヤは目を細めた。

そして核心部分を問いただす。

「…つまりこの状況において…お前たちの目的は」

低く問う。

「返却という事になるのか?」

さらに踏み込む。

「同胞の亡骸の」

エリスの姿をした存在は答えない。

沈黙。

それが逆に、言葉以上の意味を持っていた。

ユーヤの喉がわずかに鳴る。

対話は、もう後戻りできない場所まで来ていた。

人類とギアノイド。

互いの価値観。

互いの生存。

その根幹へと。

対話はさらに深い領域へ踏み込んでいく。

 

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