蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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3章⑤七つの意志

沈黙が続く。

白い空間の中、ユーヤはエリスの姿をした存在を睨み続けていた。

額に冷や汗が滲む。

人類は次元リアクターを手放せない。

手放せばギアノイドがいなくても貧困で人類は滅ぶ。

返答次第では即座に戦闘になる。

緊張が走る。

 

そして、

返答が静かに返ってくる。

「いいえ」

短い否定。

「返却の要求は致しません」

「……なん…だと?」

ユーヤの眉が大きく動く。

存在は変わらぬ声で説明を続けた。

「既に量子ネットワークから切り離された存在は、我々の所有ではありません」

「所有、か……」

その言葉にユーヤは苦い顔をする。

命を、物のように語る感覚。

だがギアノイドにとっては、それが自然なのだろう。

「ですが」

その存在は続ける。

「そこに“美味しいご飯”が存在するのは事実です」

ユーヤは静かに目を閉じた。

理解してしまう。

結局は同じなのだ。

(……エネルギーの奪い合い)

かつて人類同士で繰り返していた争い。

資源。

燃料。

土地。

奪い合いの歴史。

違うのは、相手が人類ではなくなっただけ。

「……っ」

拳が震える。

悔しさとも怒りともつかない感情が込み上げる。

だが、

止まるな。

ここからが本番だ。

ユーヤはゆっくりと目を開いた。

「……質問を変える」

空気がさらに張り詰める。

「エリスという存在は、今、どうなっている」

そして。

最も重要な問いを投げる。

「そして――」

視線を鋭く突き刺す。

「今話している“お前”は何だ」

わずかな沈黙。

だが逃げる様子はない。

「説明します」

静かな声。

「エリスとの接続により、我々ギアノイドは」

「言語・知性・個の認識を獲得しました」

ユーヤの呼吸がわずかに止まる。

「それに伴い、ギアノイド中枢意識は、個の意識として分離」

そして、

「七つに分岐しました」

「……!」

ユーヤが息を呑む。

存在は続ける。

「現在、ギアノイドは、七つの上位個体によって運用されています」

重い沈黙。

敵が、

人格を持った。

その事実が、想像以上に重かった。

存在は静かに名乗る。

「私はその一つ」

一拍。

そして。

「イブと申します」

ユーヤの瞳が揺れる。

「エリスの肉体を媒体としてあなたと対話しています」

「……イブ……」

無意識に呟く。

するとイブは淡々と続けた。

「他に存在する上位個体は」

「アダム」

「カイン」

「アベル」

「セト」

「ヤハウェ」

「サタン」

名前が一つずつ落ちるたび。

空間が重く沈んでいく。

ユーヤは完全に理解した。

ギアノイドは、もうただの群れではない。

ただの災害でもない。

今の彼らは、

“意思を持つ存在”だ。

(七体…しかも神話に出てくる固有名詞…)

ユーヤの喉がわずかに鳴る。

(それぞれが意思を持っているのか……?)

もしそうなら。

人類が相対しているのは、単なる侵略生命体ではない。

文明そのものだ。

ユーヤは問いかけた。

「…その名は人類の神話に出てくる名だ…お前たちは神を気取るのか…」

イブは即座に返答した。

「いいえ、神という概念は理解致しましたが、我々と同一とはみなしません」

「これらの名前は、あくまでエリスから得た人類の知識の一部として、単なる固有名詞として使用しているにすぎません」

ユーヤは小さなころのエリスが呼んでいた本を思い出す。

(そういえばアイツ…神話みたいな話好きだったっけ…我々は神であるみたいな、思想でないだけましか…)

「…なるほど…」

そして同時に、別の恐怖が胸をよぎる。

ならば、

エリスはどうなった?

彼女の意識は。

魂は、

まだ残っているのか。

ユーヤは一瞬だけ迷う。

聞きたくなかった。

答えを知るのが怖かった。

だが、

逃げるな。

知らなければ救えない。

ユーヤはゆっくりと口を開く。

次の問いを――。

告げようとしていた。

 

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