蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
思考が渦巻く。
ユーヤは黙ったまま視線を落としていた。
仮に、七体の上位個体を倒したとして、
それで終わるのか?
違う。
(終わらない……)
答えはすぐに出る。
餌がある限り、ギアノイドは来る。
次元粒子。
それが存在する限り、この星は狙われ続ける。
ユーヤの脳裏に戦場の記憶が蘇る。
統率を失った残党。
指揮系統すら崩壊していた個体群。
それでもなお、
地球を目指して進軍していた。
まるで本能のように。
「……っ」
しかも戦力が足りない。
絶対的に。
人類は疲弊しきっている。
これ以上戦争が長引けば、いずれ滅ぶ。
そして、エリスも戻らない。
救済の方法は存在しない。
行き止まりだった。
(どうすればいい……)
拳を握る。
(どうすれば――)
そこでユーヤは、一度思考を止めた。
吸う。
吐く。
深く息を整える。
感情に呑まれるな。
考えろ。
その時、不意に違和感が浮かぶ。
そもそも、なぜ。
ユーヤはゆっくり顔を上げた。
「……なぜ対話を望んだ」
イブを見る。
「お前たちは今も侵攻しているはずだ」
「話す必要なんてないはずだ」
わずかな沈黙。
そして。
「……実は」
イブが静かに口を開く。
「少し困ったことになっています」
「……困っている?」
思わず聞き返す。
「はい」
イブは淡々と頷く。
「感情を獲得した結果、我々上位個体に、新たな概念が発生しました」
「新たな概念?」
イブは静かに告げる。
「一言で言いますと哀れみ」
「つまり、人類がかわいそうという思考が」
――時間が止まった。
「………なんだと…?」
ユーヤの理解が完全に止まる。
イブはそのまま続けた。
「この星の次元粒子を食べ尽くすことに対し抵抗が生じています」
「抵抗……」
「はい」
イブは頷く。
「そのため、我々は協議しました」
「人類との戦闘」
「その停止か継続を」
ユーヤの目が大きく見開かれる。
それは、初めて見えた可能性だった。
停戦。
終戦。
人類が生き残れる未来。
だが同時に、疑問が浮かぶ。
「……なら、なぜ」
ユーヤの声が低くなる。
「攻撃は続いている」
イブは即座に答えた。
「それが問題です」
そして、
核心を告げる。
「現在、人類へ攻撃を行っているのは」
一拍。
「サタン配下の個体のみです」
「――っ」
ユーヤの瞳が揺れる。
世界がぐらりと歪んだ気がした。
「…つまり…7分の1だけが、敵対しているのか?」
「はい」
イブは続ける。
「現在の上位個体の意思は以下の通りです」
空間に静かな声が響く。
「イブ・アダム、戦闘停止を提言」
「カイン・アベル・セト・ヤハウェ、判断保留」
「そして、サタン、人類殲滅を主張」
「……内部分裂か」
ユーヤが呟く。
「肯定します」
イブは淡々と答えた。
「そして」
声がわずかに重くなる。
「サタンは現在、勢力拡大を試みています」
「勢力拡大……?」
「他勢力の同胞を取り込み、攻撃個体数を増加させている」
ユーヤは息を呑む。
理解した。
これは、ギアノイド同士の内戦だ。
人類を巻き込んだ。
思想戦争。
「……なんてことだ……」
ユーヤの額に汗が滲む。
敵は一枚岩ではなかった。
むしろ今、分裂し始めている。
イブは静かに続ける。
「……さて」
一拍。
そして。
「ここで提案があります」
その声に、空間の空気が変わる。
「いえ――取引です」
ユーヤの瞳が鋭くなる。
理解した。
これこそが、
対話の本当の理由。
戦争は、
終わるかもしれない。
あるいは。
もっと歪んだ形へ変貌するのかもしれなかった。