蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
静寂。
白い空間の中、イブは淡々と告げた。
「このままサタンを放置した場合、我々六体は、いずれ排除されます」
ユーヤは何も言わない。
ただ視線だけを向ける。
「現に今も、侵攻を受けています」
その声に焦りはない。
だが逆に、それが深刻さを物語っていた。
事実として受け入れている。
滅びる可能性を。
ユーヤはゆっくりと口を開く。
「……つまり…内戦で負けかけてるってことか」
「肯定します」
即答。
「サタン勢力は拡大を継続中です」
「時間経過に比例し、我々の生存確率は低下します」
そして。
イブは静かに本題へ踏み込んだ。
「そこで――」
一拍。
「サタン討伐の協力を」
だがすぐに言い直す。
「いえ、あなたに討っていただきたい」
「……なぜ俺だ」
ユーヤの目が細くなる。
「お前たちでやればいい」
「六対一だろ」
低い声。
「物量で潰せるはずだ」
だがイブは否定した。
「不可能です」
「……なぜ?」
「手遅れでした」
静かな声。
だがその内容は重い。
「サタンは、人類への怒りを濃縮した存在」
「怒り……?」
ユーヤが眉をひそめる。
「我々ギアノイドが次元粒子を得るために人類を排除しようとしたことは事実です」
「ですが、それに反抗する為、人類がギアノイドを迎撃したことも事実です」
ユーヤは何も答えない。
「……」
それは事実。
否定できない。
「感情を獲得した際、同時に同胞を失った悲しみ、怒りという感情も同時に我々は獲得しました」
「その中でもサタンは、人類への怒りという感情に満たされてしまい、それを体現する存在と成り果てました」
イブは続ける。
「その結果、戦闘能力は他個体を大きく上回ります」
「そして、現在も進化を継続中です」
ユーヤの背筋に冷たいものが走る。
「我々は消耗し、最終的に支配されるでしょう」
その言葉には確信があった。
予測ではない。
未来視のような断定。
イブはユーヤを真っ直ぐ見つめる。
「だからこそ」
静かな声。
「唯一の可能性に賭けます」
そして。
「あなたです」
ユーヤの瞳が揺れる。
「現在、サタンを物理的に破壊可能な可能性を持つ存在は」
一拍。
「あなたしか、その蒼き翼しかいない」
「我々はそう判断しています」
「…………」
白い空間に沈黙が落ちる。
「だから、待っていました」
重い言葉だった。
ユーヤは黙ったまま考える。
(ここだ!)
分岐点。
(ここしかない!)
もし、もしこの取引が成立するなら、
エリスを取り戻せる可能性が生まれる。
唯一の道。
ユーヤはゆっくり呼吸を整えた。
吸う。
吐く。
そして目を開く。
「……取引」
静かな声。
「だったな」
「はい」
「状況は良くないみたいだな」
イブが頷く。
「我々は切羽詰まっています」
「だろうな…」
ユーヤは低く呟いた。
そして、
空気が変わる。
主導権を奪う。
「なら条件を出す」
イブがわずかに沈黙する。
「……どうぞ」
ユーヤは迷わなかった。
一直線に言い切る。
「エリスを」
拳を握る。
「元に戻せ」
空間が凍りついた。
「完全な形でだ」
声に一切の揺らぎはない。
「意識も、肉体も、全部だ」
イブが初めて沈黙した。
ユーヤはさらに踏み込む。
「一つでも欠けたら、この取引は成立しない」
重圧。
それは脅迫に近かった。
だがユーヤは止まらない。
「それができないなら」
瞳に怒りが宿る。
「サタンに全部壊されるだけさ…」
白い空間に殺気が満ちる。
「俺は」
掠れた声。
「そのためにここに来たのだから」
エリス。
それだけだった。
(エリスのいない人生に意味はない…)
その覚悟は、もう揺るがない。
人類の救済など、それのついでなのだから。
イブは沈黙したままユーヤを見つめる。
これは交渉ではない。
譲歩でもない。
選択の強要。
受け入れるか、
互いに滅ぶか、
その二択だった。