蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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3章⑨集結する意志

答えは、

最初から分かっていた。

それでも、

聞かずにはいられなかった。

イブは静かに口を開く。

「……不可能です」

白い空間に、その言葉だけが重く響いた。

ユーヤは何も言わない。

ただ、拳を握り締める。

「取引には応じたい意思はあります」

「ですが、その方法が存在しません」

イブは続ける。

「まず肉体について」

「人間個体エリスは、私と完全に融合しています」

そして、

「分離は不可能です」

ユーヤの瞳がわずかに揺れた。

「…不可能な理由は?」

イブは説明を続ける。

「人の言葉で説明します」

「水に塗料を加え、完全に混ざった状態」

「さらに容器にも色が残存する状況」

「これを混ざっていない元の状態に戻すことは、我々にも不可能です」

「…………」

ユーヤは絶句した。

だが、

理解はしていた。

見た瞬間から、

分かっていた。

あれはもう、完全な人間ではない。

エリスであり、

イブでもある。

別の存在へ変質してしまっている。

ユーヤは静かに視線を向ける。

エリスの顔。

エリスの声。

エリスの身体。

だが、その中身は違う。

胸が痛む。

脳裏に、かつての記憶が蘇る。

(どんな形でもいい)

(戻ってきてくれるなら)

そう願った。

そう誓った。

だから、

ユーヤは顔を上げる。

「……わかった」

低い声。

「意識だけでいい」

イブの瞳を真っ直ぐ見る。

「それさえ戻れば」

一瞬だけ、イブが沈黙した。

そして。

「……困難です」

「意識は既に、無数に広がる情報の海、量子ネットワーク上に拡散」

「存在は極めて希薄」

静かな声。

「回収は不可能かと」

その瞬間。

空気が軋んだ。

ユーヤが一歩踏み出す。

「……やりもしないで」

怒気を押し殺した声。

「無理だと決めつけるな」

イブが沈黙する。

「お前らがやったことだろ」

ユーヤの拳が震える。

「なら最後まで責任取れ」

そして、

言葉を叩きつけた。

「協力しろ」

「エリスの意識を取り戻すために」

白い空間が静まり返る。

イブは動かない。

だが、

わずかに。

本当にわずかに、その表情が揺れた。

「……承認します」

静かな返答。

「協力いたします」

ユーヤは目を細める。

イブは続けた。

「では、取引成立ということでよろしいでしょうか」

「いや、もう一つある」

「なんでしょうか」

「現在人類はサタン一派に攻められ防衛中だ、そして戦局は良くない」

「……」

イブは沈黙した。

ユーヤは続ける。

「俺たちがこうしている間にも、サタンは次元リアクターを目指している」

「もし人類の防衛戦を突破された場合、人類もサタン一派以外のギアノイドも滅ぶことは確実」

イブはじっとユーヤの提案を聞いていた。

「つまり、人類の防衛にも協力して欲しいと?」

「そうだ、人類に対しお前たちは絶滅を望んでいないはず」

「取引が成立する前に人類が滅んでは、俺がサタンと戦う理由もなくなる」

イブは即答した。

「ワタクシは承知しました、我々の戦力を人類防衛に回すように進言いたします」

「最終判断は他個体との協議の必要性を要しますのでご了承を」

「…いいだろう」

迷いはない。

イブは想定していたと言わんばかりだ。

「では、これで取引の内容はよろしいでしょうか?」

「ああ…構わない」

「ありがとうございます」

イブが頭を下げる。

その仕草が人間らしくて、逆に不気味だった。

そして、

「では、仲間を招集してもよろしいでしょうか」

「……仲間?」

「量子ネットワークを通じ、他上位個体は、本対話を既に共有しています」

ユーヤはゆっくり息を吐いた。

「……構わない」

その瞬間。

空間が揺れた。

白い世界に波紋が走る。

「――っ」

ユーヤが身構える。

歪みの中から、影が現れた。

一つ。

二つ。

三つ。

次々と。

静かに降り立つ。

人の形。

だが人ではない。

異様な存在感。

それぞれが違う気配を纏っている。

五体。

並ぶ。

 

五体の人型ギアノイドを差し、イブの声がユーヤに告げる。

「アダム」

長身の男型。

静かな威圧感。

「カイン」

鋭い視線を持つ影。

「アベル」

穏やかな表情。

だが底知れない。

「セト」

無機質な瞳。

「ヤハウェ」

最も人間に近い微笑を浮かべる存在。

ユーヤは息を呑む。

自分一人。

そして、

六体の“ギアノイド”。

対峙する。

敵ではない。

だが、

味方でもない。

ここは戦場じゃない。

もっと危うい場所だ。

これは、

未来を選ぶ場だった。

 

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