蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.” 作:フルス・シュタイン
静かな空間。
白い世界の中で、イブがわずかに首を傾けた。
「……味方だと、理解していただくために」
そして淡々と言う。
「あなたの色にしてみました」
ユーヤが眉をひそめる。
「……俺の色?」
「はい」
イブは頷いた。
「人類側データベースを参照」
「あなたは“蒼”のイメージと強く結び付いていました」
少し間を置き。
「問題はありませんか?」
一瞬。
沈黙。
そして、
「……ははっ」
ユーヤは思わず吹き出した。
肩を震わせながら笑う。
「たぶんな」
外宇宙へ視線を向ける。
「伝わってると思うぞ…」
宇宙。
蒼い光が広がる。
黒に覆われた戦場の中で。
その色だけが、異質だった。
人類はそれを呼び始める。
管理局オペレーターは、それをこう名付けた。
「…じ…人類に敵対していない個体…人類の防衛にまわっている青いギアノイドを…便宜上…ブルーギアノイドと呼称します…」
――ブルーギアノイド。
かつての敵。
だが今は、
人類を守る盾。
黒いギアノイドが襲い掛かる。
蒼いギアノイドが立ちはだかる。
激突。
閃光。
爆発。
言葉などない。
それでも、
確かに伝わってくる意思があった。
――これ以上、傷つけさせない。
蒼いギアノイドが前へ出る。
砲撃を受ける。
装甲が砕け散る。
それでも。
退かない。
人類の前に、
壁として立ち続ける。
ヴェスペリオン艦橋。
誰もが言葉を失っていた。
モニターに映るのは、信じ難い光景。
ギアノイドが、
ギアノイドと戦っている。
しかも、
人類を守るために。
「……なんだよ、これ……」
オペレーターが呆然と呟く。
「夢……じゃないよな……?」
誰も答えられない。
その中で。
ゲンゾウだけが。
静かに笑った。
「…はっはっは!…ユーヤじゃ…」
低い声。
だが確信に満ちている。
「こんな芸当ができるのは…アヤツしかおらん」
ナツキが振り向く。
「お父さん……」
ゲンゾウはモニターを見つめたまま続ける。
「ギアノイドを…味方につけおったか……!」
感嘆が滲む。
「まさかのう…」
肩を震わせ。
「ギアノイドに救われる日が来るとは…」
そして豪快に笑った。
「はっはっは…わからんものじゃな、人生とは…!」
艦橋にざわめきが広がる。
混乱。
困惑。
だが、
徐々に、連合艦隊全体にも理解が広がっていく。
「……青い……」
誰かが呟く。
「この色……」
別のクルーが目を見開いた。
「蒼の英雄だ……!」
一気に空気が変わる。
「やったのは彼だ!」
「蒼の英雄が帰ってきた!」
「また奇跡を起こした!」
「今度は……!敵を味方に……!」
絶望が塗り替わっていく。
沈みかけていた心へ、
熱が戻る。
「まだ終わってない!」
「戦える!」
「生き残れる!」
連合軍が再び前を向き始める。
その中で、
リョウイチだけが静かにモニターを見つめていた。
「……予測外だ」
ナツキが隣を見る。
「何が?」
リョウイチは小さく息を吐く。
「ユーヤの選択だ」
静かな声。
「私は…中枢撃破による統率崩壊」
「その後の生存確率の最大化」
「それしか想定していなかった」
だが、と続ける。
「……あいつは違う」
モニターに映る蒼い光を見る。
「ギアノイドと……共闘した」
「相互理解という選択を取った」
ナツキは黙って聞いていた。
信じ難い。
普通なら不可能だ。
だが、
現実として、目の前にある。
リョウイチは小さく笑った。
「……すごいな…ユーヤ」
するとナツキは即答する。
「当たり前よ」
誇らしげに。
「私たちの息子よ」
蒼い光が。
戦場を塗り替えていく。
これは奇跡じゃない。
誰かに与えられた救済でもない。
ユーヤが選んだ。
その結果だった。