蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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3章⑫量子の海へ

蒼と黒が交錯する戦場。

閃光が宇宙を裂き、砲火が幾重にも重なる。

そこから遥か彼方の座標。

音すら存在しない静寂の領域で、ユーヤは六体の上位個体と向き合っていた。

アダムが静かに口を開く。

「……これで」

一拍。

「人類側に時間が生まれた」

ユーヤは小さく息を吐く。

「……ありがとよ…」

その言葉に、

六体が、わずかに沈黙した。

互いに視線を交わす。

まるで今の発言を解析しているようだった。

最初にアダムが呟く。

「……今のが、感謝、という概念か」

カインが腕を組む。

「なるほど」

アベルが穏やかに微笑む。

「悪くない」

ユーヤは苦笑した。

「そうかよ…」

ほんの少しだけ。

空気が緩む。

だが次の瞬間。

ユーヤの目が変わった。

 

感情を切り替える。

本題だ。

「サタンを討つ前に」

全員を見る。

「やることがある」

真っ直ぐに。

迷いなく。

「エリスの意識を取り戻す」

そして言い放つ。

「手伝ってくれ」

六体が静かにユーヤを見る。

 

最初に頷いたのはアダムだった。

「……承知した」

その声を合図にするように、空気が再び張り詰める。

「では、次の段階へ移行する」

 

議題。

――エリスの意識サルベージ。

アダムは淡々と現実を述べた。

「結論から述べる」

「現状、方法は存在しない」

ユーヤは眉一つ動かさず聞く。

「量子ネットワークは無限に広がる情報領域」

「その中から、単一個体の意識の断片を特定することは、不可能」

普通なら、

そこで終わりだった。

だがユーヤは即座に問い返す。

「……消えてないんだよな?」

イブが頷く。

「はい、存在は確認されています」

「ただし、極めて希薄です」

ユーヤは静かに息を吐いた。

そして、

決断する。

「だったらいい…」

六体がわずかに反応する。

「俺が迎えに行く」

空気が凍った。

アダムが即座に確認する。

「……意図を確認する」

ユーヤは迷わない。

「俺を、量子ネットワークに接続しろ」

アダムが即答する。

「不可能」

「理由は?」

「通常の人間にアクセスは不可能」

ユーヤは一歩踏み込む。

「……なにか方法は?」

沈黙。

ほんのわずかな間。

そして、

アダムが静かに告げる。

「一つだけ存在する」

「――局所的ギアノイド化」

ユーヤの瞳が細くなる。

アダムは続けた。

「人間個体ユーヤの脳領域の一部と、我々を半融合させる」

「その状態で、量子ネットワークへ接続する」

「……半融合、か」

イブが返答する。

「はい」

だが、

次のアダムの言葉は重かった。

「ただし、量子ネットワークの負荷により」

「脳細胞・神経は焼損」

「意識は消失」

「二度と目覚めない可能性が高い」

白い空間に静寂が落ちる。

さらに、

「そもそも人間に、個体名エリス以外に適性は本来存在しない」

「成功確率は極めて低い」

そして結論。

「別案の模索を推奨する」

ほんの一瞬。

沈黙。

だがユーヤは即答した。

「……構わない」

六体が目を向ける。

「それで行く」

「再考を提案する」

アダムの声。

だがユーヤは首を振った。

「時間がない」

強い声だった。

「人類も」

「ギアノイドも」

「犠牲が出過ぎてる」

そして、

少しだけ視線を落とす。

「……それに」

小さく呟く。

「俺がもう待てない」

胸の奥から溢れる本音。

「そこにいるんだろ」

震える声。

「エリスが」

拳を握る。

「だったら」

顔を上げる。

「俺が探して連れ帰る」

「それだけの話さ…」

沈黙。

六体は理解した。

これは合理性ではない。

覚悟だ。

アダムが静かに頷く。

「……了承した」

するとイブが一歩前へ出る。

「では、我々六体は、あなたの補助に回ります」

「補助?」

「脳細胞への負荷を、極限まで分散・軽減します」

だが、

「それでも、脳幹焼損の可能性は残る」

カインが低く言う。

「だが」

アベルが続ける。

「彼の、蒼き翼の協力なくして」

セト。

「サタン討伐は成立しない」

ヤハウェが静かに締めくくった。

「我々もまた、リスクを受け入れる」

そしてギアノイドの結論をアダムが告げる。

「共に賭ける」

ユーヤは静かに頷く。

人類とギアノイド。

敵同士だった存在が、

初めて、

同じ覚悟を背負っていた。

 

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