蒼翼のフリューゲル“Two beyond dimensions.”   作:フルス・シュタイン

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3章⑬呼び声

静かな宇宙。

戦場の喧騒から切り離された領域。

遠くでは、蒼と黒の閃光がぶつかり合っている。

だがここには、音がない。

ただ静寂だけが漂っていた。

 

ユーヤは静かに呼吸を整え気持ちを落ち着かせていた。

疲労は限界を超えている。

それでも、やらなくてはならないことがある。

その為にここまで来たのだから。

視線を前に向けた。

その先に、

彼女がいた。

エリス。

いや。

エリスの姿をしたイブ。

静かにこちらを見ている。

動かない。

何も言わない。

それでも、

確かに“そこにいる”。

ユーヤはゆっくりと宇宙服のポケットを確認した。

取り出す。

赤いリボン。

エリスがいつも付けていたもの。

震える指で握り締める。

「……今から行くよ」

小さな呟き。

 

アダムが前へ出る。

「ユーヤ」

低く静かな声。

「脳への接続は、私が担当する」

「異論はあるか」

ユーヤは頷く。

「……ない」

一瞬だけ笑った。

「頼んだ」

「承知した」

 

ユーヤは深呼吸をした。

そして、自分に言い聞かせるようにつぶやく。

「やっとだ…ようやくここまで来た…やっと会える…」

 

「では」

アダムの瞳が淡く発光する。

「接続を開始する」

その瞬間。

アダムの“手”が伸びた。

金属とも生命ともつかない何か。

液体のように揺らぎながら、ユーヤの頭部へ接触する。

本来なら。

恐怖で逃げ出してもおかしくない光景。

だが、

ユーヤは目を閉じた。

躊躇はない。

次の瞬間。

――落ちた。

     

意識が弾ける。

流れ込んでくる。

光。

音。

記憶。

概念。

感情。

無限。

「――ッ!!」

脳が悲鳴を上げる。

理解不能。

処理不能。

情報量が桁違いだった。

ズキン。

ズキン。

頭が軋む。

砕けそうになる。

「ぐっ……ぁ……!」

ユーヤは歯を食いしばる。

「……ここが……」

境界のない空間。

終わりがない。

人間の言葉では説明すら困難。

上下左右すら存在しない。

「量子ネットワーク……!」

無限。

その一言だった。

無限とも思える漆黒の空間に飛び交う無数の光。

光の一つ一つが高密度の情報の集合体。

宇宙空間とも錯覚するその空間でユーヤは自我を認識する。

自我を認識したことで無意識に量子の海に自身の形を成形していた。

通常の人間には不可能な現象。

ギアノイド達の補助とユーヤ自身の揺るがない決意と、

強靭な精神で成立した奇跡とも呼べる現象だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ユーヤは周囲へ意識を伸ばす。

一つの情報へ触れた瞬間。

脳が焼ける。

「ぐっ……!!」

激痛。

理解した。

無理だ。

探すなんて。

こんな海から、一人を見つけるなんて。

不可能だ。

「……こんな中から……」

息が荒れる。

「見つけられるかよ……」

思考が止まりかける。

漂う。

(どうすればいい…どうすれば見つけられる…)

ただ流される。

そして、

ふと気付いた。

「……そうだよな…」

小さく笑う。

自嘲気味に。

「最初から、俺にできることなんて」

静かに目を閉じる。

「一つしかないか…」

探さない。

理屈もいらない。

解析もしない。

ただ、

想う。

エリスの笑顔。

エリスの声。

手の温もり。

一緒に過ごした時間。

全部。

全部。

胸に抱き締める。

ユーヤは息を吸った。

そして。

「エリス……!!」

叫ぶ。

漆黒の空間へ。

「エリス!!」

響く。

届くはずのない場所へ。

何度も。

何度も。

叫ぶ。

「エリス……!!」

ただ届けと願って。

     

 

暗闇。

果てのない漂流。

エリスはそこにいた。

一人で。

ずっと。

涙を流しながら。

「……ユーヤ……」

声は震えていた。

「どこ……?」

誰もいない。

何もない。

終わりも始まりもない場所。

「ユーヤ……」

呼び続ける。

「ユーヤ……」

だが返事はない。

永遠。

漂流する。

心が削れていく。

そして。

エリスは静かに目を閉じた。

「……もう……いい……」

涙が零れる。

「会えないなら……」

小さく。

「消えたい……」

そう思いずっと漂っていた。

どれくらい時間が過ぎたかもわからない。

時間の感覚すらない。

永遠に思える漂流だった。

 

ふと、何かが聞こえた気がした。

幻聴にも思える。

だが、

微かに。

本当に微かに。

声が届く。

「……エリス……」

エリスの目が開く。

「……え……?」

聞き間違えるはずがない。

彼の声。

ずっと探していた声。

もう一度。

「エリス!!」

今度ははっきり聞こえた。

エリスの瞳が震える。

ゆっくりと顔を上げる。

暗闇の中。

小さく。

本当に小さく。

光が灯った。

 

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