日が登ってきて、外が明るくなってくる。
でも、登校するには、まだ少し早い。こんな時間に学校に行っても、まだ誰も来ていないはずなのに。
寝巻きから制服に着替える。青色のチェックスカートに、青色のネクタイ。
この制服に着替える度にいつも思う。二年生になったんだな、と。
もう少ししたら、三年生になるのに。
全身を突き刺すような寒さの中、身支度を済ませた私は学校へ向かう。
「おはよーございまーす! 私がいちばーん!」
「残念だったじゃん」
「ら、
「今日日直だから。あたしが先に来てたらなんかマズいの」
「今の聴いたの……」
「聴いた、かも」
蘭は私の言葉にこくりと、小さく頷いた。
まあ、聴かれて恥ずかしいものでもないから、別にどうって訳でもないけど。
「それで、なんで蘭が一番に来てるの」
「だから日直だって」
「そうじゃないよね。なにか企みがあるんじゃないの」
「うん。実を言うと、ある」
「ホントにあるの……」
「
凍える身体を震わせながら、屋上に向かう。その間私たちは話をしていた。
「柚月たちのバンド、ブルームーン。ホントに解散しちゃったの」
「……うん。もともとね、Afterglowと対バンするって為だけに結成したから」
「本当にそれで良かったの」
良かったのか、良くなかったのか、私にはどう答えることも出来なかった。
ちょっぴり、情けなくて、恥ずかしくなってしまった。
私は一人、先に階段を駆け上っていき、屋上への扉を開ける。
「そうそう。名無しちゃん──ううん。
「凪が、柚月と一緒にバンドやりたいって、ポロッと言ってたよ」
表情が強ばっていく。こぶしを握り、屋上の手すりを軽く叩いた。
「もう、私たちのバンドは終わったはずなのに、そんなこと言われちゃったら……」
「もうちょっとだけ、頑張ってみればいいんじゃない。別に頑張るも諦めるも、柚月しだいだと思うけど、燃え尽きたかなんだか知らないけどせっかくここまで練習したんだし、腐らせるのもどうなの」
嗚咽が込み上げてくる。
音楽の練習だって、楽しいことばかりじゃなかった。
全然覚えられないことだって、ベーシストとしてみんなの音を聞いてリズムを整えなきゃ行けないのに、全然理解出来なかったことも、一度や二度じゃなかった。
まともに弾けるようになった頃は、凄く嬉しかった。
なのに、Afterglowと対バンしてから、それだけでもうすっかり熱が冷めてしまっていた。
音楽の話をすると、ちょっとだけ胸が苦しくなる。
嫉妬した時みたいな、胸の奥の方が痛むようなそんな感情が湧き上がってきた。
いつの間にか、涙が頬を伝っていた。目元を袖で拭った。
袖で涙を必死にこすった。それから、ずびっと鼻水をすすった。
蘭が、私の頭をそっと撫でてくる。
なんか今日は、ずいぶん変だ、と思った。
「なんか今日はえらい優しいじゃん」
「あたしはいつも優しくしてるつもりだけど。アメとムチを上手に使い分けてるって、前に言わなかったっけ」
蘭は両手を手すりにかけ、何かを思い出したような、感慨深そうに、遠くを見つめた。
蘭と同じように屋上の手すりに体重をかける。校門の方に目を向けると、うちの生徒たちが通学してきていた。もうそんな時間になっていたのかと内心思った。
「懐かしいと言えば、柚月と初めてまともに話したのも、屋上だったよね」
「う、うん。たしかそうだったと思うけど……。あの時は『おまえを見てるとイライラする』なんていきなり言われて、ホントにショックだったんだから……」
「『おまえ』なんて、あたしは言わないけど」
「それくらいショックだったってこと! 今は私のことどう思ってるか知らないけど、どう思ってるの?」
「ちょっとだけ、イライラしてるところがある」
そう言って私の髪に指を通してくる。
「髪、やっと前と同じくらいの長さになってきたね」
「それは私が去年髪を切ったこと? 蘭ってば、私が髪を短くしたの、凄い気にしてきたことあったよね」
蘭は顔を近づけてくる。唇が、こそばゆく感じる。
あの時は「なにが楽しいの、これ」とか何にも気にしてないような冷めた言動してたけど、内心ではされっぱなしなの気にしてたんだな……。一年も、私にやり返してやろうと、その熱をずっと心の中に内包してたんだ。
朝礼が鳴った。やば、もうそんな時間。
そろそろ戻らなきゃ。
「戻ろっか」
「うん」
冗談めかして蘭の肩に手を回し、抱き寄せる。その弾みで階段を踏み外して、二人揃って転げ落ちそうになった。
「イライラしてきたかも……」
「イライラじゃなくてさー」
私が、再びベースを弾いてバンドを組むのは、もう少しだけ先の話になる。
そういえばあの子は、まだギターを続けているのだろうか。
お久しぶりですと言っていいのでしょうか。
ぼちぼち修正などをしながら連載していきたいと思っております。