なんか、違うところに来たみたい。いつも来るRiNGじゃないみたい。
これはもしかしたら、夢? とにかく、こことは違う世界なのは確かだ。
「蓮、こっちこっち」
私が人混みに酔って萎縮していると、柚月が手招く。
「人がいっぱいなんだから、はぐれないでよ」
柚月は慣れた様子で、スラスラとライブハウスに入っていく。
あ、待ってよ! と声をかけ、私は柚月の後を追いかけた。
「これがライブ……」
ざわざわと他の観客の声が聴こえてくる。なんとなくの雰囲気は映画が始まる前みたいな。
「まだ始まってないよ」
隣に立つ柚月は、ステージの方を見ながらそれだけ言った。萎縮してる私なんかと違って、妙に余裕ぶっててそれがちょっとムカつく。
「余裕ぶっててムカつくのは分かるけど、終わるまでは我慢しててね」
はっ、と自分の口元を抑えた。またうっかり声に出てたみたい……。
「柚月さん、私ライブ観るのなんて初めてで、人がいっぱいで、ちょっと不安だよ……なんか心細いよ……」
ずっとステージの方を見ていた柚月は私の顔を見ると、にっと笑った。
「じゃあライブの間、お姉さんがずっと手繋いでてあげよっか」
広げた手をひらひらと振りながら柚月は言った。
「『お姉さんが』って、私さらっと子ども扱いされてるし……。まあ、お願いしますけど……」
「はいはい」
差し出された柚月の右手を握り、手を繋ぐ。思ったよりも冷たい手だった。
「始まるよ」
ライブが始まった。そういえば誰のライブを見に来たのか、知らないままだった。
ライブの間中、ずっと柚月と手を繋いだままだった。時折背伸びしたりして、もっと間近に感じようと試みたりもした。
「蓮、ライブは、どう?」
「なんでか知らないけど、嫉妬で気が狂いそうです。最悪な気分になりました」
あの時感じた頭のモヤモヤは、もしかしたら嫉妬だったのかな。自分で言っててハッとなった。
「その気持ち、分かるなー。歳近い子がこんなに頑張って注目されて、めっちゃキラキラしてるのに、私は一体何してんだろって思っちゃうよね」
「柚月さんだって、めっちゃキラキラした側の人でしょ。私の気持ちなんて、分かるわけないよ」
私の声は演奏が終わったあとのファンの歓声にかき消された。
次のバンドの順番になった。ステージにはよく知った五人が上がってくる。愛音、立希、そよ、楽奈、燈の五人だった。またあの頭のモヤモヤが私を襲った。思わずステージ上の五人から、目を背けたくなる。
初めてのライブだったのか、五人の演奏はグダグダだった。歌い出した燈の声が小さく、愛音が演奏を間違え、そよがサポートに入ってMCに近いことをし始める。正直、観てる私も恥ずかしくなって、見てられなかった。
「柚月さん、ライブはもういいよ。行こうよ」
柚月の手を引こうとする。柚月は繋いだままの手を決して離そうとはしなかった。
「ダメだよ。ちゃんと最後まで見なきゃ」
「『生きて、虜囚の辱めを受けず』ですよ」
「『死して、罪過の汚名を残すことなかれ』蓮、難しい言葉知ってるね」
「柚月さんこそ」
ライブ演奏の流れが変わった。さっきまではグダグダだったのに。曲名は知らない、なにか言ってたかもしれないけど、聞いてなかった。演奏してる五人を直視出来ず、ずっとみんなが演奏してる間、私は俯いたままだった。
演奏が終わったと思ってたら、また新しい曲が始まった。演奏中、ちらと出入口の扉に視線をやった。涙を流した祥子が、出て行くのが見えた。柚月の手を引く。やはり柚月は動かない。
「ライブ、ちゃんと観てるの」
「うるさいな。ちゃんと見てますってば」
ライブが終わる。終わってから、どうして柚月が私を誘って観にきたのか全然分からなかった。私を最悪な気分にさせるつもりだったのなら、それはもう大成功を収めたと言ってもいい。
繋いでいた手を離す。
扉を出て、すぐにライブハウスの中を走り出す。私を制止する柚月の声が聞こえてきたけど、無視をした。人がいても構わずに突っ切って、みんながいるステージの裏に向かっていった。ステージで演奏していたバンドメンバーの人たちともすれ違う。スタッフに呼び止められる。
息を整えながら、どうしたらいいのかと悩んでいたら、
「ごめんなさーい。私たち、『迷子のバンド』の関係者なんですー。差し入れするって、約束してたんですけど、入っても構いませんかねー?」
頼んでもないのに柚月が助け舟を出してきた。当然、関係者パスとかそういうのなんて持っていなかったので、柚月がスタッフと話している隙を付いて、この場を切り抜けた。
みんながいる所までやって来ることができた。
息を整えながら、そういえばどうしてみんながいるところに来ようと思ったんだっけ。後で、怒られるかなとか考えていた。
その場には緊迫した空気が漂っていた。
「なんで春日影やったの!?」