イエスタデイ   作:永嶋 誘

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#13 相変わらずオマエは冷たいね

 

 

 柚月と行ったあのライブに出演してた愛音たちのバンド、迷子のバンドとかって言ったっけ。

 カラオケボックスで一人、次に歌う曲を何にしようかと、電モクで探すも、何を歌うべきか決めあぐねていた。

 コップに入ったコーラが溶けた氷のせいですっかり味が薄くなっていた。

 

「どんな名前なんだよ」

 

 柚月と私が組んだバンド名はウルトラヴァイオレット……?

 うん。そっちの方がどんなバンド名だよと思う。どんな必殺技の名前なんだろうと気になって、スマホで検索をかけてみる。意味は紫外線。なんだそれ。

 ふっと耳を澄ますと。隣のカラオケボックスから利用客が曲を歌っている声が漏れだしているのが私の部屋にも聴こえてくる。

 

「いや、待って!」

 

 隣の利用客の歌声には、どこか聞き覚えがあった。私は部屋を飛び出す。

 

 隣の利用客の様子を、扉のガラスからそっと覗く。やはり聞き覚えのあった通り、立希の歌声だった。

 しばらくその様子を外から眺めていた。マイク片手に曲を歌っていた立希が私に気づくと、みるみるうちに顔が青ざめていく。そのまま扉を開ける。ガツン! と私は頭をぶつけた。その場にしゃがみこむ。

 

「おまえ、覗いたりしてなんなの」

 

 ぶつけられた頭を抑えている。

 

「いやね……椎名どんの声が聴こえたから……」

 

 しゃがんだまま、頭を抑えている。

 

「私の声が聴こえたら覗くの、おまえは」

「椎名どん、カラオケ来るんだ……」

 

 頭を抑えながら、立希の顔色を伺ってみる。

 

「来ようが来まいが私の勝手だよね」

 

 すっかり興が冷めた様子の立希は部屋に戻って、グラスを手にドリンクバーへ向かっていった。私も慌ててグラスを取りに戻って、いそいそと立希の後を追いかける。

 

 グラスにドリンクを注ぐ立希を横目に私もドリンクを注ぐ。短く舌打ちをした。

 

「プライベートに干渉されたくないんだけど」

「干渉したっていいじゃん。こっちは仲良くしたいって思ってんだから……」

 

 ブツブツと愚図る子どもみたいになっているかもしれない、今の私って。愚図ってるのは事実だから。

 

「冬木さんの趣味とか知らないし、知りたくもないけど、楽しいことしてる時に今私がされてるみたいに邪魔されたら、どう?」

「邪魔って言うけど、私がいつ邪魔したの?」

「今してるって、自覚はないわけ?」

 

 立希の言葉の答えに、しばしの逡巡。

 

「……ないね」

「……なら、今度冬木さんがなんか楽しそうなことしてる時、絶対邪魔してやる」

「うん、いいよ。ぜひ、邪魔して! この後とかどう? カラオケ終わった後とか、時間ある?」

 

 食い気味に立希の手を握る。立希は困惑し、ため息をつくと舌打ちをするだけだった。

 

 私と立希の二人は、池袋駅周辺にある池を回遊する目当てで、目白庭園という場所に移動していた。

 不機嫌な立希とは正反対に、ふんふんと私はすっかり上機嫌で鼻歌を歌っていた。

 

「どう、いいでしょ、ここ」

 

 首を傾け、精一杯、コケティッシュな仕草を作ってみせる。

 

「で、ここで何すんの」

 

 腕を組みながら横目で池を眺めている。

 

「お菓子食べながらお茶飲んで、ただ池を眺めながらボーッとして、音楽聴いたり、本読んだりとかして……」

「そんな定年迎えたサラリーマンみたいな趣味してんの」

 

 はぁ、とため息を一つ。立希の元から、一体いくつの幸せが逃げていくんだろう。

 

「おー、定年迎えたサラリーマンと来たか。それいいね! 大人になったら、今言った中に、お酒を呑むって言うのも追加したいよね」

 

 両腕を広げながら天を仰ぎ、その場でぐるりと一回転して見せた。立希は腰に手を当てると、また一つため息をついた。また一つの幸せが立希の元から逃げていく。

 

「着いてきて損した。帰る」

「いいのかな、そんなこと言って」

「え、なに」

 

 ウエストポーチのファスナーを開けると、中から双眼鏡を一つ取り出す。

 

「椎名どんと一緒にバードウォッチしようと思ってたのに」

 

 二人で一つの双眼鏡を持って、覗く。息が合わない私たちで右往左往しながら池に向けてみるが探せど探せど鳥は、どこにもいない。

 

「顔、近づけないで」

「無理言わないでよ。近づけなきゃ見えないじゃん」

「体もくっつけないで」

「あ、鵜がいた!」

 

 本当はいない。

 

「どこ?」

 

 本当はいないのに、立希は必死に双眼鏡を覗いている。

 

「ほら、あそこ!」

 

 そう言って、ウなんかいやしないところを指さす。

 

「どこにもいないじゃん。だいたい池にいるわけなくない?」

 

 本当にいないので、立希の言うことは至極もっともだ。

「ウが魚丸呑みした!」

 

「ウって、冬木さんがウルサイの『ウ』?」

 

 うるさいと来たか。

 

「なわけなくない?」

「ウザイの『ウ』?」

 

 今度はうざいと来た。

 

「ウットウしいの『ウ』か」

 

 う、うっとうしい……。

 

「どんどん離れてくね。私はうるさくも、うざくも、うっとうしくも、ないから」

「上っ面」

「ずいぶんとうがつく悪口のレパートリー豊富だねー……」

「内弁慶」

「もういいから……それ以上言わなくて……」

「見て、あそこでカラスが行水してる」

「あ、本当だ」

 

 池に向かって建てられたあずまやで、一休みをする。立希は寝転がりながら耳にイヤホンを装着して、音楽を聴いていた。

 向かい側で私も寝転がり、うたた寝をする。

 

「そういえばさー」

 

 音楽を聴いていた立希からの応答はない。今度は大きめな声で、

 

「そういえばさ!」

 

 立希は体を起こし、イヤホンを外す。

 

「そよ、あの時すごい怒ってたよね」

「おまえは、あの時スタッフの人にすごい怒られてたよね」

「売り言葉に買い言葉……」

「『う』のレパートリー、また増えたじゃん」

 ひとまず無視して、勝手に続ける。

「なんで春日影やったの。春日影って最後に演奏してた曲?」

「私たちのバンドのこと、おまえには関係ないから」

「じゃあ私と柚月さんのバンドのことも、椎名どんとは関係ないから」

 

 なんだよ、と言いたげに立希は再び椅子の上に横たわる。

 

「柚月さんって、岡村先輩のこと?」

「お、知ってる?」

「……知ってる。Afterglowの先輩方の周りを馴れ馴れしくウロチョロしてた」

 

 柚月、酷い言われよう……。

 これは立希はきっと、柚月のことあんまりよく思ってないんだな。

 

「あの人って、ブルームーンとかって名前のバンド組んでたと思うけど、そっか。やっぱり辞めてたんだ」

 

 ブルームーン? 初めて訊くバンドの名前だった。Afterglowと対バンするために、柚月が組んでたっていうバンドのことだろうか。





どうかこのお話の最後までお付き合いいただけたら幸いです。
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