イエスタデイ   作:永嶋 誘

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#15 青さ、紙一重の危うさよ

 

 着替えとか、日用品をキャリーケースに詰め込んで荷造りを進めていく。一緒に住んでいるお姉ちゃんが心配そうに私の様子を伺ってくる。何度か脱衣場と、私の部屋を行き来していると、お姉ちゃんが声をかけてきた。

 

「蓮。どこか旅行行くの?」

 

 必要なものと、そうでないものの仕分けをしていたけど、一旦作業を止めて返事をする。

 

「しばらく柚月さんのところにお世話になる予定だから、当分の間帰らないよ」

 

 お姉ちゃんはしかめっ面で腕組みをし、小首を傾げ訊いてくる。

 

「それで、柚月は? 蓮がお世話になることをいいって言ってくれたの?」

「……うん。ぜひって言ってくれたの!」

「そうなんだ。……本当は?」

「言ってくれてない。柚月さんとバンド組むことになったけど、本当にやってくれるか分からないから、信用出来ないし、柚月さんのアパートでしばらく一緒に住んで、監視するつもりなの」

 

 いい終えたところで、慌てて自分の口を塞ぐ。

 

「蓮って、本当に後先考えないところあるよね。RiNGでのことも、訊いたよ。あんまり、私に恥をかかすようなことするの、やめてくれる?」

 

 お姉ちゃんの言葉に少し、ムッとなって、

 

「はいはい。フィッシュボーンのベーシストであり、リーダーでもあらせられる冬木花恋さんは、他人の目とか評価をとても気になさりますもんねー。問題児の私のことも、ずっとフィッシュボーンに入れてくれなかったですもんねー。……だから私の決めたことに口出ししてこないでよ」

「蓮!」

 

 お姉ちゃんは憤り、軽く足踏みをする。

 

「もう支度終わったらすぐに出てくから、お姉ちゃんもしばらく私の顔見なくて清々するでしょ」

「今日の夕飯、ハンバーグにする予定だけど」

「それは…………いただきます!」

 

 最後に学校の制服を、無造作にキャリーバックに詰め込んだ。

 

 夜十時過ぎになって、柚月の住むアパートにやってきた。一緒に暮らすと言っても、うまくやって行けるのか、思わず逡巡する。キャリーバックを引きずるように持って二階に続く階段を上り、柚月の部屋のインターフォンを鳴らした。

 

「はいはい」

 

 寝巻き用のすっかり色あせたTシャツにスウェット姿というラフな格好で、

 

「蓮、今日はずいぶん変な時間来たね」

 

 呆れたような声で言い放った。私の持ってるキャリーバックに一瞥をくれて、言い放つ。

 

「それにずいぶん大荷物で……。なに、花恋さんと喧嘩でもして、家出でもした?」

「柚月さんと私で、一緒にバンドやるために、しばらくここに住まわせてください!」

「うち、民宿とかそういうのはもうやってないので、急にそんなこと言われてもちょっと困っちゃいますねー」

 

 ドアを閉めようとする。慌てて片足を突っ込んで、こじ開けようとする。

 

「そこをなんとか!」

「うちは家出少女の更生施設ではない!」

「いいでしょ! 一生お世話になる訳じゃないんだから!」

 

 不毛な攻防はしばらく続き、最終的に柚月が折れ、ひとまず今日はもう遅い時間というこでお泊まりすること結果に、なんとか持ち込むことができた。少し暑い時期になったので、重い荷物を持って汗をかいた私はお風呂で汗を流す。

 

「さらばー、静岡よー。旅立つ少女はー、宇宙戦艦、ユヅキィー……。運命を背負いー……。地元を離れ、新宿区へ、はるばる望む……。宇宙戦艦ユ・ヅ・キィー!」

 

 拳を出してお風呂に入りながら歌ってると、突然風呂場の電気を消されてしまった。

 布団を出して、一緒に眠る。お泊まり会とか小学校の時以来でちょっとだけワクワクしてきた。柚月の飼い猫であるミルが私たちの枕元に人肌恋しそうな鳴き声を発して寄ってくるとそのまま眠りについた。

 

「柚月さん」

「もう、なに」

 

 眠たそうな柚月の声。

 

「私たち、バンドやれると思う?」

「無理かもしれないね」

 

 その言葉への答えが浮かばず、しばらく暗い天井を眺めていた。

 

「柚月さん」

「今度はなに」

「こういうの、ちょっとワクワクするよね」

「もういい加減寝なよ。明日も学校なんだよ?」

 

 そう言ってから、柚月は静かに寝息を立て始めた。

 んー、とあくびをする。そうか、明日も学校か。

 そう考えたら、確かに眠たくなってきたかも。今は柚月と二人だけだけど、ちゃんとメンバー集めもしないとなぁ。目元を擦って眠りに就いた。

 眠りに入って真夜中の時刻になって、私は目を覚ましてしまう。隣で寝ていた柚月が苦しそうに汗を浮かべ、うめき声を発している。何やらうなされている様子だった。耳元を塞いで、構わずに寝ようとする。

 ──柚月さん、柚月さん、と柚月の名前を何度か呼び、身体を揺さぶり、揺り動かして覚醒させる。柚月はハッと息を吐き出した。

「大丈夫? うなされてたよ」

 

 柚月は目元をゴシゴシと擦り、こぶしを額に当てた。

 

「ごめん。私、なにか寝言とかいってた?」

「……なんかお父さんとか、お母さんとか、あと誰かに謝ってたよ。なにかあったの?」

「……なんでもない。忘れて」

 

 柚月は布団に入り、再び眠りにつく。私も柚月に倣い、今度こそ深い眠りに就いた。

 

 はい。と借りていた本を祥子に返す。ちょうど良かったと祥子も、私が貸していた本を貸してくれた。

 

「夏目漱石の『こころ』、漱石って初めて読んだけど、なかなか良かったよ」

 

 まあ! と祥子はどこか嬉しそうに両手を合わせた。

 

「冬木さんが貸してくだすった、『同士少女よ、敵を撃て』もなかなか良かったですわ。ただ、もう少し日本国についての言及があれば……」

「まあ、独ソ戦が舞台の小説だから、日本についてはあんまり書かれるのもね……」

 

 祥子は、すっかりそよの言いなりになってしまっていた私のことを、それほどには怒っていない様子だった。

 ──またなんか本持ってくるよ。とだけ告げ、お昼を食べに学食に向かう。

 

 やっぱりバンドやるにしても、まずはちゃんとメンバー集めないとだよなぁ。いつものベンチに座り、ギターを弾きながらそんなことを考えていた。また放課後に、RiNGにでも行ってみるか。立希の顔もみたいし。

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