イエスタデイ   作:永嶋 誘

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#18 ドラムが欲しい。絶対手に入れてみせる!

 

「いやー、暑いねー」

 

 天文部室に入っていく。燈の視線が私に向く。燈は私に軽く会釈すると、またノートと向かい合う。

 私はそのままソファの上にどかっと座り込んだ。

 カリカリと物を書く音が天文部室に響く。燈はシャーペンをノートの上で走らせていた。

「なんとなく」

 

 後ろを振り向いた燈と目が合う。

 

「ここに来ることも多くなったかな」

「そ、そうだね」

 しばしの無言。部屋を一通り見回すと、ソファの背もたれに腕を載せる。

「あのっ、ふ、冬木さんが、バンド、組んだって訊いた……」

 

 無言を破ったのは燈だった。短く切った言葉でそう訊いてきた。ソファから立ち上がり、燈の両肩に手を乗せた。

「いやぁ〜。実はそう、そうなんだよね〜。羽丘の二年生と、三年生の人と一緒にバンド組んでるんだよね〜」

 

 燈の肩を揉み揉みする。小さくて、柔らかい肩だった。

 

「凪さんがキーボードで、柚月さんがベース!」

「冬木さん、は……?」

「私はそりゃもちろん、ギターだよ!」

 

 燈の頭をポンポンと撫でる。燈はどうすればいいか分からず、ただ困惑していた。

 

「あとは、ドラムかな」

「そうだよね! あとは、ドラムだよね」

 

 柚月がアテがあるとか言ってたけど、一体アテってなんだろう……。

 一つ、考えられるのは、柚月と凪が組んでいたというバンド、ブルームーンのドラマーの人、とか? 

 

 その時、天文部室のドアがノックされる。ガチャと開かれた。

 

「ともりーん」

「あ、あのちゃん」

 

 というのは、この二人が付けあったあだ名らしい。

 

「いるじゃん! 練乳ちゃん!」

「う、うーん……ともりんとあのちゃんっていうあだ名に便乗して、私がそう呼んでって言っといてなんだけど、やっぱりそのあだ名は色々とマズイかなぁ……」

「またブツブツ言ってる……そんなことより、はい!」

 

 買ってきたよ! と愛音は一冊のファッション雑誌を見せてくる。

 

「ハルさんって、やっぱ黙ってれば美人なんだけどなぁ〜」

 

 放課後になり、RiNGのカフェスペースで愛音と一緒になってファッション雑誌の端と端をお互いに持って読んでいた。

 

「青海波瑠さんって、ちょっと悪っぽい所がいいよね〜」

「うん。それは否定しない」

 

 フィッシュボーンのギターとして、活動してたハルは今年大学生になり、新宿でモデルとしてスカウトされ、今現在、ファッション雑誌に載るなどの活動をしている。

 

「でもモデルというものが、一体どういうものなのかは、ちょっと私には詳しくは分からないのだった……」

 

 顎に手を添え、宙空を見ながら言った。

 

「れんれんのそういうの、なんか久々に見た気がする」

「はい? え、れんれん?」

「そ、れんれん!」

 

 愛音が感心したような、呆れたようなどっちとも言えない目で私を見てきた。

 

「おまえら。雑誌なら家で読めない? なんでわざわざここ来て読むわけ?」

 

 アイスココアを二つと、抹茶パフェを持ってきた立希が雑誌をめくる私たちにすっかり呆れた様子で言い放つ。

 

「そりゃ、りっきーに会いに来たんじゃん!」

「立希どんの顔見ないと一日が収まらないし!」

「ねー!」

 

 と愛音と顔を見合せ、声を揃えた。

 

「なんでよりにもよって、こんな奴らにばっかり好かれてるんだろう、私……」

 

 思わず頭を抑えながら、私たちのテーブルに手をついた。

 

「りっきー、今日も抹茶パフェ、うめぇ」

「はいはい」

 

 抹茶パフェを食べ始めていた楽奈が立希に言った。私たちに呆れ返っていた立希は満更でもなさそう。

 

「あのんとれん、さっきからなに読んでる」

「あっ! 楽奈ちゃん……」

 

 パフェを食べていた楽奈が、突然机上で手を伸ばしてきて読んでいたファッション雑誌を奪われる。

 

「ロンと愛音がうるさくてかなわないから、それ、勝手に捨てておいて」

「ちょっとぉ! 私が買ったんですけど〜!?」

 

 楽奈は立希と愛音のやり取りには、一切構わずに雑誌をパラパラとめくっていく。やがて興味が無くなったのか、雑誌を放って、またパフェを食べ始めた。

 その所業には、柚月が飼っている猫のミルを彷彿とさせる。

 ……あとはバーバラ──こなつも、凪の家では普段、こんな感じなのか? 

 

「そうそう! あと、この人!」

 

 再び雑誌を読み出した愛音の声につられて、私も雑誌を見やる。

 

「この人、かほりん! この人も、かっこかわいいんだよね〜」

 

 愛音にかほりんと呼ばれた人物には、見覚えがあった。アイスココアを一気に飲み干す。

 

「ごめん、愛音。ちょっと今日、この雑誌借りてくね」

「あっ! 蓮ちゃん!」

 

 私は、雑誌を持ってカフェを後にした。

 

「柚月さん!」

 

 家に帰ってくると、柚月にファッション雑誌を見せる。

 

「あ、それ。ハルさんが出てるファッション雑誌だよね? わざわざ買ってきてくれたの?」

「うん。ハルさん、めっちゃ良かったよ! いやそうじゃなくてですね!」

 

 雑誌をめくって、かほりんとやらが載っているページを柚月に見せる。

 

「この人!」

 

 以前部屋の押し入れにしまってあったブルームーンの集合写真と、雑誌とを照らし合わせて見せる。

 

「この人と」

 

 集合写真のかほりんと思しき人物と雑誌のかほりんを比較するように指で示す。

 

「同じ人、ですよね?」

「うん、同じ人だよ。このかほりんって人、夏帆ちゃん、来栖夏帆(くるすかほ)ちゃんって言うんだ。ブルムのドラムでリーダーだった人だよ」

 

 ブルムとはさしずめ、ブルームーンの略称のことだろうか。

 

「そして、蓮にはもう察しがついてるんじゃないかな。うちのドラムになってくれるんじゃないかって、私が宛にしてる人でもあるんだ」

「いえ、察しなんてついてませんでした……。ただ、見たことあるなぁってぐらいしか……」

「えええ! だからあんなに血相変えてたんじゃなくて!? せっかくちょっと、ドラマとか漫画みたいにかっこつけて見たのにぃ〜……」

 

 すっかり落胆してしまった柚月に、てへへとなんだか恥ずかしくていたたまれなくて、引きつった笑みを浮かべながら、頭をかいた。





ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
原案から、だいぶ簡略化されてるかも?
もしかしたら、クライマックスが近いかもしれない……。
私の力量では、バンドリ二次界隈では生き残れないようだ。
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