あーだこーだ言ったって。
もう遅いんだって。
ほっといて。
アシュラの心臓で突き動かした。
校庭にあるベンチに座ってギターを鳴らす。Eマイナー。Eマイナー。Eマイナー。Eマイナーってやっぱ難しい。
先輩同級生たちは私に奇異の目を向けてくる。ここって、バンド組んでる人が大勢いるって話だし、ギターの練習をすることはなにもおかしいところはないはずだけど。
いや、奇異の目を向けず、羨望の眼差しで見つめる生徒が一人。
私と同じ一年生ということを表明する緑のネクタイにスカート。同級生か。
「あの〜」
やや掠れがかったその声。その同級生の子は手をスリスリしながら擦り寄ってくる。
「
「はい。冬木です。冬木
「いや、それは訊いてなかったんだけど……あれ、お姉ちゃん? ちょっとまって! よくよく考えたら冬木って聞いたことあるかも! 季節の冬に植物の木って書くよね、たしか……」
「はい! 季節の冬に植物の木って書きます!」
「そっか〜」
彼女はスマホを取り出して何かを確認する。
ポケットアンプを静かに回収して、ギターを持ち上げると、抜き足差し足、忍び足でこの場を去る。
静かに静かに、距離を取っていく。一気に走り去ってしまったら、気づかれると思うと息が詰まる。
「あー! やっぱり!」
恐る恐る、距離を取っていく私は、彼女の大きな声が聞こえて、ビクッと大きく反応してしまった。
「あれ、冬木さん? いなくなっちゃった……」
辺りをキョロキョロと見回している。
声を高らかに、主張をするように私は叫んだ。
「ここにいます!」
「あ、そこにいた!」
ある程度距離を取ったところで全力で走って教室まで逃げる。彼女は追いかけてくる。絶対に逃がさない! という意思を彼女から感じた。
「冬木さんのお姉ちゃん!」
必死で逃げる。息が切れてきた。
「バンド!」
尚も彼女は追いかけてくる。さっき食べたお昼を戻しそう。
「やってたでしょ!」
「やってない! 人違いです!」
足がもたれつく。右耳に付けてるタッセルピアスが激しく揺れる。
「さっき弾いてたのって!」
「弾いてません!」
転びそうになる。ギターを落っことさないように必死で掴んだ。
「阿修羅の心臓とかって曲でしょ! その曲好きだよ!」
「ありがとう! でも、その曲カバーだから!」
右側を片方だけ編み込んだ三つ編みが、解けそうな勢いで走った。
靴を履いたままトイレの個室に駆け込んで、鍵をかける。ギターを抱き抱えて必死に呼吸を整える。
早鐘を打つ心臓の鼓動を止められない。気分はさながらホラー映画の登場人物。塹壕で身を隠す兵士。
来るな。来ないで。来るな。来ないで。念を送る。声に出していたかも。出していた。
昼休み終了を告げる予鈴が鳴ったことによってほんの少しだけ寿命が伸びた気がした。
さっき追いかけてきたあの人は、たしか
「にゃむちー、にゃむちー。にゃっむちーの動画ーが更新されたー。たの、しみー。その前にあの曲弾けるように……」
「ふ、冬木さん……? 今授業中……」
「ご、ごめんなさい! またやっちゃった……」
私の思ったことをそのまま言葉に出してしまう悪癖。
高校生になったしそろそろ治さないと。
逃げちゃったことも、千早愛音に謝らなきゃ。
「Eマイナー、C、D。Eマイナー、C、D。Eマイナー、C、D。Eマイナー、C、D。Eマイナー、Eマイナー、Eマイナー。あーだこーだ言ったって……もう遅いんだって……ほっといて……C、ここでAマイナー……アシュラの心臓で突き動かした衝動……」
学校終わりに私は、新しくオープンしたライブハウスに向かっていた。
でもスタジオを借りたい訳じゃなくて、ただちょっと覗きに行きたいだけで……。
「音楽をやめる気はない、誰になんと言われようと」
気づけばまた独りごちていた。
私、一回、病院で頭の中でも見てもらった方いいかな。
人がごった返す雑踏の中。ライブハウスRINGの前にたどり着いた。店の前に愛音の姿が見えた。
帰ろうか……いや、さっき逃げちゃったこと、謝らなきゃだよね。
愛音は、誰かと言い争っている様子だった。
言い争っている相手は、黒い長髪にRiNGの黒いTシャツのユニフォーム。
「おまえ……