おまえ。トモリをバンドに。最悪。
昨日のワンシーンが頭の中で駆け巡る。
そのことがふと気になって、隣のクラス──A組の様子を廊下から伺う。
気づけば、教室に入って、彼女の座る席に向かっていた。
「あっ!」
愛音は私に気づくと、顔を上げる。
「昨日逃げたでしょ〜」
「はい! 逃げました!」
「いや、返事はすごくいいんだけど」
「お姉ちゃんのこと、聞かれたくなかったので」
「訊かれたくないんなら無理して訊かないよ」
なんとなしに昨日の愛音の落ち込んだ顔が頭に浮かんでしまう。
あ、そうだ。愛音に昨日逃げちゃったこと、謝らなきゃ。
「昨日は逃げちゃって、ごめん」
「ほんとだよ。いきなり逃げることなくない?」
「本当にごめん」
「冬木さん、あれから結局見つからなかったし、昨日はどこに隠れてたの?」
「ずっと、トイレに隠れてたよ」
「あ、そっか、トイレに。そこまでは探さなかったな〜」
「外靴を履いたままね」
「外靴を履いたまま!? 校舎の中を靴履いたままとか、怒られるよ絶対……」
「それから、昨日のことでちょっと聞きたいんだけど……」
さすがに今は、ということでお昼休みにまた中庭で。
お昼を食べ終わってテレキャスターを鳴らしていた。
弾いてるのは昨日弾いてたのと同じあの曲だ。
「あの人、かわいかったじゃん」
「かわいい!? 私は最悪な印象だったよ〜……」
「あの人、にゃむちとか好きかな」
「えっ! 冬木さん、にゃむちって……」
愛音もにゃむちのフォロワーだったみたい。少しだけ話が弾んだ。
「やっぱメディアだよね〜。デザインもちょっと大人向けで、シックでダークだけどシンプルな感じがいいというか〜。オークル系もいいけど、やっぱ私はピンク系で明るく決める!」
「メディア系って、コンビニでもよく売ってるよね。私は洗顔フォームとか好きでよく集めてるんだけど……」
「洗顔ならこの間の動画で出してたsumimi! なんちゃって。うん、ボケちゃった!」
愛音はそんなことを言っておどけてみせた。
今愛音が言ってたスミミって、確か二人組のアイドルだったっけ。
「炭のやつ! あれ買った? 使ってみた!?」
「あれだよね。うん、使ってみたよ。でも、匂いは好きだけど、使ってみたら顔が凄いヒリヒリした! 私の顔には合わなかったのかな。でも。顔洗ったあと、お肌凄いツルツルになった! ちょっと赤くなっちゃったけどね」
「冬木さんの体質に合わないんだよ、それ。そういうのは無理して使わない方がいいよ」
「でも結構高かったし、使わないともったいないよ」
「冬木さんって、日本人離れしてるみたいな顔してるし、使わなくてもいいんじゃないかな〜。顔も凄く綺麗だし!」
「き、綺麗!? ……あ、だめ」
なんか話がだいぶ脱線してるような気がした。
にゃむちの話も、化粧品の話も面白くはあるけど、そろそろ本題に入らないと。
息を吸って吐いて、一旦身体を落ち着かせる。綺麗だって言われたもんだから、また発作が起こるところだった。
落ち着いたところで、
「おまえ。トモリをバンドに誘ったの。最悪」
「えっ……」
こんなこと、突然言われたもんだから、愛音は驚いている。
まさか私が昨日あの場にいたこともそうかもしれないけど、ましてや会話を聞かれてるなんて、夢にも思わなかったのだろうということは、想像に難くない。
「なんで冬木さんまでアイツと同じこと……」
「って昨日言われてなかったっけ」
「うん。話せばちょーっと長くなるんだけど、燈ちゃんに昨日バンドを一生やってくれる、なんて言われて……」
愛音は昨日の出来事をつらつらと語り始めた。燈をバンドに誘って、一生バンド組んでくれるなんて言われて、燈が逃げ出して、それを愛音が追いかけて……。
後は私が昨日みた黒い長髪の人に燈をバンドに誘ったことを責められた。
それはそうと、愛音は人を追いかけ回してばっかだ。
「一生バンドやろうなんて言われたら、一生やりたいって思う?」
「一生なんて、私にはちょっと無理かもです!」
「昨日声かけた時から気になってたんだけど、冬木さんのそのキャラってなんなの?」
ビィーンと返事をするかのように弾いていたギターの音が飛んでった。
またも放課後になると私はRiNGに来ていた。今日も見に来ただけ。すぐに帰ろう。ガラガラとキャリーケースを引いて歩いているような音が背後からする。
「入らないの」
「入らない。ちょっと見に来ただけだから」
「入ろ」
これまたギターケースを引いた不思議な女の子に導かれるまま、RINGのカフェに入っていった。昨日の黒髪の人に野良猫と呼ばれていたその女の子は、カフェでギターを演奏していた。
その後に、なぜか私はそのままの流れで抹茶パフェを奢ることになった。
「行こ」
「行くってどこに?」
「最近お気に入りの子がいるとこ。連れてってあげる」
キャバクラかアブノーマルプレイな風俗に連れてくんじゃないでしょうね。
「なぁーんだ。野良猫に会いに来ただけ」
この子に導かれるままに連れてこられたのはパーキングエリアだった。
みたところ野良の猫が。四、五匹は、いや六、七匹はいるかもしれない。この猫たちは毛並みはそんなに汚くないし、病気にかかってるような子もいない。
「来た」
立希曰く野良猫の少女が言うと、首元が白い毛で覆われた、三毛猫のような色合いのメインクーンという種類の猫がやってきた。
メインクーンって、野良猫ではまず見かけない種類の猫だと思うけど。
「ここなんかいいね」
「いい。だから連れてきた」
この子なりの抹茶パフェのお礼、と受け取ってもよさそう。
「さっきの茶色いギター、凄い年季入ってたね」
「これ、ずっと使ってる」
メインクーンは手を差し出すと、クルクル回ってから、飛びついてくる。
私の指に歯茎を当ててくる。これは、マーキング? 匂い付けのつもりか。とりあえずは仲間だと認識されたのかも?
「なんて言うの」
「なんて言うのって。私のこと?」
「名前、なんて言うの」
「私は、蓮」
「れん」
私が名前を名乗ると、野良猫少女はおうむ返しをしてくる。
「れん、抹茶パフェ」
「そう。私、抹茶パフェ、奢ってあげた」
異国の相手と接しているような感覚で、ジェスチャーを交えたつもりになって、自分と彼女とを交互に指さした。
「ほら、さっきは抹茶パフェ奢ってあげたし、私の名前も教えてあげたんだから、キミの名前も教えてよ」
「ん、
野良猫少女──楽奈はそれだけ名乗ると、私の耳についたピアスをいじってくる。
「れんの耳のジャラジャラ面白い」
「こら、楽奈! 私のピアスをいじるな!」
猫たちは私の声に驚き、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。メインクーンのあの猫も逃げ出した。
「あっ……」
楽奈は、猫たちが逃げ出して行ったもんだから少しだけ寂しそうな顔をした。
会話だいぶカットしたり、加筆したりとそういうのがだいぶ楽しかったりします(笑)
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