イエスタデイ   作:永嶋 誘

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#4 イナゴ少女はギター少女の夢を見て、重く横たわる

 

 

「楽奈。今日も美味しいかい?」

 

 今日も今日とてRiNGの中にあるカフェで、抹茶パフェを食べる楽奈を、テーブルの正面に座り見つめていた。

 

「おいしい」

 

 楽奈は抹茶パフェを口に入れながら小さく頷いた。

 私も、何か注文しようかな。でも何を頼むか。とりあえず店員を呼ぶことにしようと手を上げ、声を高らかに、

椎名(しいな)どの〜。椎名どの〜! 椎名どーん?」

 

 ここRiNGのバイトスタッフである椎名立希(たき)に声をかける。この人こそ、燈をバンドに誘ったとかいう件で愛音に怒ってたまさにその人だった。

 

「ちゃんと聞こえてるから。何回も呼ばないで」

 立希はいつにも増して不機嫌そうだ。楽奈につられてここのカフェに入り浸るようになってどのくらい経っただろう。ここに来る度に立希は不機嫌そうだ。

「私にも、美味しいパフェを一つ頼むよ」

「美味しいパフェってどのパフェ」

「とりあえずこの白桃パフェってやつにしようかな……」

「他には? もう後から言ってこない?」

 どこかギラギラとした目つきで睨まれる。

「ないです。睨まないでください、怖いです」

 

 立希は、いつの間にかカウンターの方に消えていた。パフェが来るまでは、まだちょっと時間がかかるかも。

 少し時間が経ってから、立希は無言のまま白桃パフェをテーブルの上に置いた。

 立希、燈。愛音が燈をバンドに誘う。おまえ、燈をバンドに誘ったの。最悪。ふと、反芻してみる。

 

「燈をバンドに誘うことの、なにがそんなに最悪なの?」

「は?」

 

 またやってしまった。うっかりポロッと出てきてしまった。立希は怒りからか、わなわなと震え出したかと思うと、深呼吸をして落ち着かせる。

 

「私は、冬木さんに野良猫の面倒見てもらってること感謝してる。抹茶パフェ奢ってくれてるし。野良猫も、冬木さんを気に入ってるのか知らないけど、最近ちょっと落ち着いてるから」

 

 褒められてるのやらなんのことやら。

 

「あの……それがどうしたの」

「でも、それとこれとは別。アイツになにを吹き込まれたか知らないけど、別におまえに話す義理なんてないよね。燈のことも、私のこともこれ以上詮索するのはやめて」

「別に燈のことも椎名どんのことも詮索なんてする気ないですぅ。愛音にも何にも吹き込まれてないですし。ほんとのほんとに口が滑っちゃっただけですぅ」

「それ食べたら、もう野良猫連れて帰って。飼い主でしょ」

「……はい、そうします」

 

 スプーンを手に取って、パフェに添えられた桃を口に入れた。

「そうして」

 

 追加で注文した白桃パフェの伝票をドンッと力強くテーブルに置くと、立希はまたカウンターに消えていった。

 

「私たち野良猫と飼い主だって。野良猫の飼い主ってなんだよ。ね、バーバラもそう思うでしょ」

 

 パフェを食べ終わってから、また楽奈とともにパーキングエリアでメインクーンのバーバラ(私命名)の頭や顎を撫でたりして愛でていた。楽奈はヘソ天している豹みたいな黒い猫のお腹を撫でていた。

 

「れん。ギター弾こ」

 ギターのケースから取り出し準備をする。

「曲調はいつものでいいの?」

 

 こんな感じのやり取りが、楽奈と出会ってからここ最近のいつもの流れだ。

 

「れんがいつも弾いてるやつ」

 

 縁石に座り込んでギターのセッションをする。楽奈と弾いてるおかげでちょっとは弾けるようになってきたかな。それでもまだまだだと思うけど。

「楽奈の飼い主なんかじゃないよ。私は、ただのイナゴ少女だよ」

「イナゴ?」

「そう、イナゴ。『イナゴ身重く横たわる』。私が今読んでる小説の話」

「小説、わかんない」

「歴史改変系の話だったけど、ちょっと難しい内容だったから、私にもよくわかんないよ」

 

 楽奈の言う、小説わかんないとは多分そういう意味ではないはずだった。

 

「れん、手止まってる」

「あ、すいません」

 

 楽奈というギター少女の指摘に耳を痛くしつつ、またギターを弾く。誰か人が近くを通るまで、私と楽奈のセッションは続く。

 

 それから何日か後の休みの日に楽奈を連れて、親睦を深めるためというかなんというか。

 とにかく私たちは、都心の方に来ていた。

 

「らーな。何食べたい?」

 時間はすっかりお昼ごろになり、楽奈にたずねてみた。

「ん、抹茶」

 

 少し考えた素振りをしてから楽奈は答えた。本当に抹茶が好きなんだ。

 

「抹茶って言ったってデザートじゃん。抹茶以外で好きな食べ物って言うと?」

「そば」

「そばか……うん」

「ゆべし、かるかん」

「はい、なんて?」

 

 更に聞き馴染みのない食べ物の名前を上げられ、どうすることも出来ない。

 

「……ほんとはそばって気分じゃないけど、別にそばでもいっか。ほんとはピザとかロコモコが食べたかったけど!」

「コロモロ?」

「ロコモコってハンバーグが載ったご飯みたいなのだよ」

 

 早い話がハンバーグとか野菜が載った丼物で、ハワイの食べ物だった気がする。私が一番好きな食べ物といったらまずはこれ。

 

「コロモロだのコモロロだの、なんのことかすっかり分からなくなってしまった」

 

 ふと、またも思っている言葉が出てきていた。やや冷ややかな楽奈の視線を感じる。

 

「イナゴ?」

「イナゴはもう関係ない!」

 

 注文したうどんと、ちくわの天ぷらを食べ終え、読書をしていた。目の前では楽奈がまだそばをすすっていた。

 

「このあとどこ行く?」

「ギター、弾く」

「ギターならいつも弾いてるじゃん。今日は、休みだしどっか雑貨屋さんにでも行こうよ!」

 

 私たちの普段使っているギターはRiNGで働いてる店員さんにお願いして、店に預けてある。

 だから、遊びに行くのに荷物になるような物はない。

 

「……じゃあ、猫と遊ぶ」

「猫カフェにでも行きたいの?」

 ううん、と楽奈は静かにかぶりを振った。

「いつものとこで、猫と遊ぶ」

 

 これじゃ、普段から楽奈と一緒にしてる事となんら変わらない。

 本当はにゃむちが動画で紹介してる化粧品とか見に行ったり、雑貨屋で特に買う予定のないものとかも物色したりしたかった。

 

「カラオケいったり?」

「しない」

「じゃあ、ゲーセンは?」

「行かない」

「私〜。あそこ行きたいかも〜」

 

 自らの頬に人差し指をあててぶりっこっぽく右に左に頭を揺らす。にゃむちや、愛音を彷彿とさせる仕草を自分なりにしてみた。

 

「それはズバリ、御殿場アウトレット!」

 こっからだとかなり遠いし、順当に着いたとしても早くて夕方ぐらいになりそうだけど。

「どこ?」

「御殿場は御殿場だよ。静岡の。山梨の河口湖とか行く方だったかな」

「よくわかんない。ひとりで行ってくれば」

「適当か」

「れん。ごちそうさま」

 それだけ言うと、楽奈は席を立ち上がり、外に出て行ってしまった。

「いや本当に適当か!」

 

 楽奈と過ごしたせっかくの休みは、楽奈に振り回されるまま早々と時間が過ぎていった。

 これはこれでなんだかんだで楽しかったけど。

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