イエスタデイ   作:永嶋 誘

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#5 彼女は言ったんだ。僕が注目を浴びて歌うことになると

 

「アシュラの心臓は……弱い弱い弱い弱い……」

 

 お昼休みを利用して、またいつものベンチに座って、ギターを弾いていた。

 

「C、Aマイナー……過去を思い出して、戻れないの、知っていて……」

「蓮ちゃん? 冬木さーん?」

「あ、はい。ちょっと今話しかけないで」

「ひどっ!」

 

 気づけば隣に来ていた愛音は私の態度に狼狽する。仕方なく彼女の言葉に耳を傾けてみることにした。

 

「どうしたの? 話なら訊くよ。……まったく、今集中してるところだったのに……」

「なにその二面性。優しいのか厳しいのかわかんないから、どっちかに統一しなよー」

 

 愛音をからかうのはこのくらいにして、

 

「いや、本当に。どうしたの?」

「蓮ちゃんは今日もRiNG行く?」

「楽奈の連絡先も知らないし。会うならRiNGに行くしかないから多分今日も行くけど……」

「良かった!」

 

 愛音はいつも通りのやや掠れた声で答えると両手を合わせて頷いた。

 

「ほら、そよさんって、私とバンド組んでくれたって言った人!」

「えっと、そよさん。確か月ノ森に通ってるっていうふわふわなお嬢様みたいな人だっけ」

「うん! おおむねその通りだけど……。それで、そのそよさんがね、蓮ちゃんに一回あってみたいんだって」

 

 というとお姉ちゃんたちのバンドの、

 

「ファンってことだよね、きっと」

 

 どうやら早とちりだったらしい。私が突然ファンと言ったものだから、「ファン?」と愛音は首を傾げる。

 

「お願い! そよさんをがっかりさせたくなくて……。ここは私の顔を立てると思って、放課後一緒に来てくれないかな!」

 

 あれだけ愛音に頼まれたものだから、つい来てしまった。

 放課後、RiNGに。

 紅茶を注文した愛音と、後からやってきた長崎(ながさき)そよに続いて私も立希に注文をする。

 

「椎名殿。私はメロンソーダね」

「メロンソーダ一つ」

「……あっ。じゃあなくて、やっぱりクリームソーダで……」

「冬木さん。注文するのはいいけど、ちゃんと最初になに頼むかはっきり決めといて」

 

 それだけ言って、立希はカウンターの裏に消えていった。

 私は頬杖をついて、消えていく立希を見つめていた。そよは上品に口元に手を添え、ふふっと笑んだ。

 

「クリームソーダ、好きなんだ」

「うん。好きなんだ。クリームソーダってメロンソーダの上にアイスも乗ってるし、お得感あるよね」

 

 うんうんと相槌を打って聞き耳を立てている。

 仕草や立ち振る舞いから本当にお嬢さまなんだと感じさせるけど、あまりそのことを鼻にかけるような気取った感じはなくって。

 

「なんか包容力とかありそう、だよね」

「包容力?」

「あーそよさん。気にしないで! 蓮ちゃんってたまに、というかだいぶ? 突飛なところがあって……」

「愛音、突飛なところってなに? 思ったこと言っちゃうの、私割と気にしてるんだけど?」

「ちょっと! なにその態度? 私はフォローしてあげたんじゃん!」

「そんなの、誰も頼んでないですぅー」

 

 私と愛音のやり取りを見ていたそよが再び笑みをこぼした。

 

「愛音ちゃんの言う通り、本当に二人とも仲がいいんだね」

「長崎さん。それ、マジで言ってる? これをみて本当に仲がいいと思う?」

「うん。仲が良くなかったら、そんなに言い合うこともないでしょ?」

 

 喧嘩するほど仲がいい、と。そよの目には今の私と愛音の姿がまさに体現しているように見えたらしい。

 

「そういえば長崎さん。私に会いたいとかなんとか言ってたって、愛音から訊いたけど」

「そよでいいよ。えっと、冬木、蓮ちゃん?」

「うん、冬木蓮。フユキも蓮も、どっちも名前みたいで面白いでしょ? 変かも知れないけど。私ね、自分の苗字も名前も気に入ってるんだ」

 私は、どこかとぼけたように、はにかんで見せた。

「変な意味はないの。愛音ちゃんから蓮ちゃんの話を訊いてね、私もぜひ蓮ちゃんと友だちになれたらいいなって思って」

 

 なんだ。そよは、お姉ちゃんたちのバンドのファンでも何でもないのか。

 てっきり、お姉ちゃんのバンドのファンだから私と関係を取り持ちたいとかそんな魂胆だと勝手に思ってたけど、お姉ちゃんのバンドのこと、一切話題にも出してこない。

 これは信用しても良さそう? 

 

「うん! 友だちになりたいのは私もだよ!」

 

 解散してから、帰る方向が一緒だと言うそよと途中まで一緒に帰ることになった。

 一歩離れて歩いていたそよがいつのまにか私のすぐ隣に来ていた。

 

「私ね、本当は愛音ちゃんよりも、蓮ちゃんに期待してるんだ」

 ポツリと小さな声で、さながら独りごちるように呟いた。

「期待してるって?」

「蓮ちゃん、お姉さんに追いつきたいって、ずいぶんギターを練習してるんでしょう?」

 

 愛音ちゃんから訊いたの。と付け加えた。

 お姉ちゃんが担当してる楽器はベースだけど。

 追いつきたいというか、肩を並べたいというべきか。

 

「私、蓮ちゃんはね。きっと、もっと今よりもギターがうまくなって、蓮ちゃんのお姉さんや、お姉さんのバンドよりも、もっと注目されて、輝けるようになると思ってるの」

「ちょっと、そういうこと言うのやめてよ〜。照れちゃうじゃん! その気になっちゃうじゃん」

 

 思わず三つ編みに結んでない方の髪をさする。そよも、私と同じように、自らの髪をさすった。

 

「本当だよ。私は、本当にそう思ってるの。愛音ちゃんから、訊いたの。お昼休みにいつも練習しているんでしょう?」

「そうやって、褒めても、なにも出ないよ? てかなにか、魂胆があったりする?」

「魂胆なんてそんな、人聞きの悪いことなんてなにもないよ。でも、うん。実はね、蓮ちゃんにお願いしたいことがあって……」

 

 そよは自分の口元を手で覆う。カフェにいる時も思ったけど、今も見ていて思う。この人は指使いがなんか独特だ。

 

「私ね、友だちと些細なことで喧嘩別れしちゃってね……」

「友だちと喧嘩別れ……? それは確かに辛いね」

「私は、またお話出来れば嬉しいと思っているけど、私からその子に直接お話を訊くのはちょっと気が引けちゃって……」

「まあ喧嘩別れしたっていうなら、それはそうだよね。確かに気が引けちゃうかも」

「でしょう? だから、私が蓮ちゃんにお願いしたいのは……」

 

 そよの口から出てきた人物の名前には、聞き覚えがあった。私と同じクラスの人だ。





読んでくださり、ありがとうございます!
今更ですけど、今作の1話はまんま前作最終回を持ってきてます!会話などだいぶカットしましたけどね。
彼女たちの出番はもうちょい先になります。
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