イエスタデイ   作:永嶋 誘

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#8 どこを探しても見つからない迷子たち

 

 音楽の授業の課題を終えて、音楽室から教室に戻るところだった。

 

「なんとか、終わったね」

 特に話しかける言葉もなく、そのまま音楽の合唱の課題を終えたことを隣にいる祥子に水を向けた。

「ええ。終わりましたわね」

 

 祥子も小さく頷いて答えるだけだった。

 

「そういえば祥子。なにかあったの?」

「なにかあったの、と申されますと?」

 祥子は私の言葉に小首を傾げた。

「祥子の友だちって人が、祥子と喧嘩しちゃったとかなんとか……」

「友だち……。差し支えなければ、どなたのことか、教えていただけないでしょうか」

「ほら、あの、日本が鎖国してた時に、オランダとは貿易してたところってどこだったっけ」

 

 それだけ言うと、祥子の歩く足が止まる。

 

「長崎……でしたわね。なるほど。わたくしの友だちと言うのは、そよのことですのね……」

「今度は絶対離さない。祥ちゃんとも……睦ちゃんとも、みんなとも……とか、そよが言ってたよ」

 

 祥子は苦い表情を浮かべる。眉根にしわを寄せて、更に表情は険しくなっていく。

 

「それってどういう……あっ」

 

 言ってしまってから気づいた。私は、また口を滑らせてしまっていた。祥子が私に送る視線がキツくなっていくのを肌で感じる、気がする。

 

「冬木さん、あなたは、そよの言いなりということですの?」

 

 ──アイツになにを吹き込まれたか知らないけど、別におまえに話す義理なんてないよね。燈のことも、私のこともこれ以上詮索するのはやめて

 

 前に立希に言われた言葉を思い出して、胸がチクりと、針で刺されたように痛くなった。

 

 放課後。愛音と燈と一緒に、RiNGに向かう。燈とは、やっぱりなんとなく距離がある。

 

「蓮ちゃん。SNS見てたらね、気になるの見つけちゃってね〜」

 

 愛音はスマホを操作し、SNSのとあるユーザーのアカウントを見せてきた。そのユーザーのアイコンに使われている猫には見覚えがある。

 

「バーバラだ!」

 

 楽奈とよく一緒に行くパーキングエリアにいるメインクーンのバーバラだった。

 同じ種類の、よく似た猫かも知れないけど、首元の白い毛、鼻の下のところが黒くなっている特徴は、完全に長毛種のバーバラと一緒だった。

 

「やっぱりこの子、バーバラちゃんだよね〜」

「誰かが、飼ってる猫だったのかな……」

「『小夏なつ子』さん! って人のアカウントなんだけど、更に気になる投稿見つけちゃって……」

 

 更にスマホを操作して、そのアカウントの投稿されている画像を見せてきた。見覚えのある人物が映り込んでいた。

 

「ハルさんだ……」

「そのハルさんって、『フィッシュボーン』のギターの青海波瑠(あおみハル)さんのことだよね?」

「うん。青海波瑠なんて、他にいないでしょ」

 

 背中に背負ったギターケースを強く握った。小夏なつ子という人物について考えてみる。

 ハルの言っていたユヅルの顔が思い浮かんだ。確か、あの人も猫を飼っていたはず……。ハルに画像を見せられたことがあった。

 でも、彼女が飼っている猫は、メインクーンではなかったと思う。

 キジトラってやつだっけ。よく野良でいるような。

 確か名前は……ミルだったかな。

 

「それはそうだけど……」

 

 視線を逸らした私の顔を愛音が半歩近づいて、伺おうとしてきた。

 

「愛音ちゃん……フィッシュボーンっ……て?」

 

 燈は愛音の顔を見つめ、訊ねる。

 

「蓮ちゃんのお姉さんのバンドだよ」

「そっか。冬木さんのお姉さん、バンド、やってたんだ」

「燈。あんまり、お姉ちゃんと私を比べないで、ね。ね、ね」

「……なんかお姉さんにコンプレックス感じてるみたいだよ」

 

 燈は私の顔に一瞥をくれると、気まずそうに頷くだけだった。燈が私のことを冬木さんと呼んだことで、以前のことを思い出してしまった。

 

「そういえば、愛音。よくも、嘘ついてくれたよな!」

「ええ!? 嘘!? なんのこと!?」

「燈に、私のピアスが可愛いとかなんとか、嘘言わせたでしょ!」

「あれは……だって、本当のこと言うわけいかないと思ったから仕方ないと思って……」

 

 ええ? ええ? と私たちを見て狼狽する燈を見ていたら、すっかり怒る気持ちも冷めてしまった。

 なんとなく、昔のお姉ちゃんと重ねてしまっている燈を、困らせたくないと思ったから。

 

「本当にそれだけだから」

「うん?」

 

 困惑する表情を、愛音と燈は浮かべた。愛想笑いを浮かべ、首を傾げてみせた。

 

 変なことを言うか。そんなことは百も承知。

 あの後、バンドを組んでた愛音たちとは別れて、一人でいつも楽奈と来るパーキングエリアに来ていた。バンド練習に向かうみんなを見てたら、なんか私だけ仲間はずれみたいだった。

 

「バンドか……興味なんて、なかったはずなのに。なんか胸がザワザワして気持ち悪い。やだな、この感じ……」

 

 やってみたらどうなんだろう? でも、うまく行くかな。第一、メンバーはどうするの、そもそもどうやって集めるの。逡巡する。バンドなんて、興味ないし!

 私は、かぶりを振った。

 それよりも、フィッシュボーンのカバー曲、いい加減弾けるようにならなきゃ。

 でも、早鐘を打つ心臓を抑えることなんか出来なかった。

 

 その時、パーキングエリアにバイクの走る音が近づいてくる。この近くで、そのバイクは止まったみたいだった。バイクの持ち主と思われる人がこちらに向かって歩いてくる。

 髪を肩まで伸ばした、女の人だった。この女の人には以前に見覚えがある。

 

「あ、れ。もしかして、ユヅル……さん?」




ここまで読んでくださりありがとうございます!
最後に出てきた人は一体……。
ということでまた次回!
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