ひぐらしのなく頃に〜後祭り編〜   作:村人A

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第五章
新学期


 

 

 

 九月三日。新学期の登校日だ。

 

 空が高い。夏の終わりの朝の空気が、肌に触れるたびに少しずつ秋の気配を滲ませている。セミの声は、もうほとんど聞こえなくなっている。

 

 

 いつの間にか、夏が終わっていた。

 とはいっても、何か特別なことがあったわけではない。当たり前の日々が、当たり前のように流れていると感じる日々だったと思う。まあ、それまでがあまりにも激動だったから、相対的にそう感じてしまうんだろうけど。

 

 

 変わったことといえば……夏休みに入ってすぐ、赤坂さんが東京へ戻っただろうか。

 もう二か月前、七月の初旬のことだ。

 

「ごめん。でも、どうしても調べないといけないことがあるんだ」

 

 それだけ言って、あの人は静かに興宮を発った。必ずまた連絡する、という約束を残して。あれ以来、連絡はないが、今は待つしかないだろう。きっとあの人のことだ、梨花ちゃんの事件について手掛かりを見つけたのかもしれない。

 因みに例のノートは赤坂さんに預けてある。あの半分以上ページが破られた、監督の記録。俺たちにできることは、今は待つことだった。

 

 

 調査が止まったぶん、夏は妙に穏やかに過ぎていった。

 詩音に買い物の荷物持ちとして何度か駆り出されたのは相変わらずだったが。花火大会も、いつの間にか「行くので来てください」という既成事実として組み込まれていたし。

 

 それから、図書館に立ち寄る用事は本格的に勉強のみになっていた。

 

 夏休み明けにすぐ定期考査があるからと、詩音も連れ出そうとしたものの、本人は露骨に嫌そうな顔で「べつに勉強しなくても大丈夫ですよ」「だって私ですし」と訳の分からない理屈で結局かわされたっけか。

 

 まあ、おおむね学生らしいといえば、らしい夏だった。と思う。

 

「……どこ見て歩いてるんですか」

 

 不意に、隣から声が飛んでくる。

 

「さっきからずっとうわの空じゃないですか」

「ん?」

 

 詩音が呆れたような目でこちらを見ている。制服姿で、ライムグリーンの髪を揺らしながら、涼しい顔で歩いていた。こいつは新学期だろうとなんだろうと、いつも通りだ。

 

「上の空って、今の意味で使われるようになったのは平安時代かららしいぜ。源氏物語で夕顔が詠んだ和歌に、使われてから一般的になったんだってよ」

「へ?いきなりなんなんですか」

「こういう何気ない会話で覚えたことって忘れにくいんだよ。暗記とかに役立つかなって」

 

 やや得意げに言うと、詩音は心底呆れたように肩を竦める。

 

「アンタ、がり勉こじらせてあーんな有様になっちまったんじゃないんです?よくまだ勉強とかしたいって思えますよね」

「……お前さ、もうちょい言葉を選べよな」

 

 ストレートもここまでくると暴力だぞ、もはや。

 しかし、詩音はにやりと不敵に微笑む。

 

「あれあれ?この前私に『罪と向き合わせてくれるから、お前が側にいると救いになる』って熱い熱い告白してくれたじゃないですかぁ。その実践をしてあげてるだけですよぅ」

「……ぐッ」

 

 痛いところを突いてきやがる。あれはこいつが言えというから言っただけで……ええい、もう考えないようにしていたのに。

 

「今度圭ちゃんが私に向けてくれたセリフを集めて語録集でも作りましょうかね。今度で朗読会でも企画しましょう」

「やめてくれ、本当に喉を掻きむしって死にかねない」

「あはは!」

 

 楽しそうに言って、詩音は前を向いた。坂道の向こうに、校舎が見え始めていた。

 

 

 

 

 公舎に入ると、夏休み明け特有の空気が一気に押し寄せてくる。

 久しぶりに顔を合わせる生徒たちの声。日焼けした顔。誰かが誰かの土産話に声を上げて、その横を別のグループが笑いながら通り過ぎていく。上履きが床を鳴らす音。鞄を肩にかけ直す音。全部が混ざり合って、廊下いっぱいに溢れている。

 

 教室に入ると、見覚えのある茶髪が、こちらに気づいて控えめに会釈してきた。

 

「おはよう、二人とも。久しぶりだね」

 

 真田さんだ。

 

「おはようございます、あかりさん。髪、切ったんですね」

 

 俺より先に詩音が反応した。真田さんの髪を見て、目を細める。

 

「うん……夏休みに、少しだけ。気づいてくれてありがとう」

「いいじゃないですか、似合ってますよ。前より大人っぽくなりましたね」

「そうかな……詩音ちゃんに言ってもらえると、嬉しいな」

 

 はにかむように笑う真田さん。二人が穏やかに言葉を交わしている横で、俺は改めてその頭を見た。確かに、少し雰囲気が変わったような気はしたが……髪なのだろうか――そうと言われればそんな気もする。いや、でも。

 

「……髪、なんか変わったのか?」

 

 その瞬間、空気が止まった。真田さんが少し困ったように微笑んで、詩音がゆっくりとこちらに向き直る。氷点下の目だった。

 

「圭ちゃん」

「な、なんだよ」

「女の子が髪型変えたのに気づかないって、最低ですよ。しかも今、私が褒めた直後にそれですか。タイミングまで最悪です」

「い、いや、雰囲気は変わったとは思ったぞ。思ったけど、確証がだな」

 

 言い訳がましく言葉を並べるも、詩音の瞳の冷たさは一層増す。

 

「確証ってなんですか馬鹿なんですか?5億歩譲って確証がなくても、今このタイミングで言うべきことじゃないでしょう。馬鹿なんですね。いっそその腐った頭斬り落として捨てた方がいいですね、手伝いましょうか?」

「いや言い過ぎだろ」

「言い足りないくらいですけど」

「大体、下手に気づいて余計なこと言うよりマシだろ。藪をつついて蛇を出すって言葉にもあるように」

「真田さんの髪は蛇じゃありません」

「比喩だろこれは!」

 

 なんでこう、女子の髪型というのは難しいんだ。気づかなければ怒られ、気づいても言い方を間違えれば怒られ――地雷原を裸足で歩くようなもんだぞ、これは。

 

 ふと見ると、真田さんが口元に手を当てて、ふふ、と笑っていた。

 

「二人とも、相変わらず仲いいね。なんだか安心するよ」

 

「仲良くはないです」と詩音きっぱりと言い放つ。

 即答かよ。いや、俺も人のことは言えないが。

 

「でもね」と真田さんが、おっとりした口調のまま続ける。

 

「詩音ちゃん、夏休み前よりもっと楽しそうに見えるよ。これも岡崎くんのおかげなんじゃない?」

「んー、どっちかっていうと私のおかげで圭ちゃんが日に日に人間らしくなってると思いますよ。きっと私のことを天使だと思い始めている頃合いですかねー」

「本人前でいうんだそれ」

 

 死神を自称してた気がするけどな……。二人して楽しそうに笑っている様子を見ていたら、そんな事はどうでも良くなった。

 

 始業のチャイムが鳴るまで、真田さんの夏休みの話に付き合った。親戚の家に行っただの、本を何冊か読んだだの、彼女らしい穏やかな話だ。こういう他愛のなさが、今はやけに心地よい気もした。

 

 

 そんなこんなで穏やかに学校の時間も進んでいき……あっという間に放課後になったのだが。

 

「園崎、ちょっと職員室まで来てくれるか」

「へ?」

 

 HRが終わってすぐ。担任が教室に顔を出る直前に、詩音の名前を呼んだ。彼女は気のない返事をして、詩音が立ち上がる。

 

「生徒会長から話があるそうでな」

「……はぁい」

 

 心当たりがないのか、首を傾げながら教室を出ていった。

 生徒会長?なんだろう、この前の授業をバックれた事でも怒られるんだろうか。いや、それなら先生か。

 

 教室は、放課後の気だるい空気に包まれている。帰り支度を済ませた生徒たちが、ちらほらと教室を出ていく。窓から差し込む西日が、机の列を斜めに照らしている。

 

「詩音ちゃん、どうしたんだろうね」

 

 近くの席で帰り支度をしていた真田さんが、職員室の方を見やりながら、ぽつりと言った。

 俺は鞄を肩にかけたまま、肩をすくめる。

 

「何かやらかしたんじゃねぇか。夏休み前は仮病だなんだって、授業サボる常習犯になってたしか」

「ふふ、そうかもね」

 

 真田さんが、おっとりと笑う。それからしばらく、二人とも黙って詩音の帰りを待っていた。西日の中で、誰かの椅子を引く音が遠くで鳴る。

 ふと、真田さんがこちらを見た。

 

「岡崎くんと詩音ちゃんって……」

 

 穏やかな声だった。

 

「二人でいるの、すごく自然なんだよね」

「ん?」

「なんていうのかな。ずっと前から、ずっと一緒にいたみたいに。見てると、そんな感じがするの」

 

 茶化すでも、からかうでもなく。ただ思ったことを、そのまま口にしているような調子だった。

 ……一緒に、か。

 

「逆じゃねぇかな」

「え?」

 

 俺は窓の外に視線を逃がした。

 

「寧ろ、アイツの側にいる事自体不自然極まりない存在だと思うぞ、俺は。本来は絶対重なることが無かった人生だったんだろうしな」

「ええ、そんなことないよ!」

「どうかな」

 

 真田さんは暫く考えるように口元に指を当てているが、やがてふんわりと笑った。

 

「あのね、岡崎くん。お昼休みにね」

 

 真田さんが、少しだけ悪戯っぽい顔をする。彼女にしては珍しい。

 

「詩音ちゃんに、聞いてみたの。『もしかして、岡崎くんと付き合い始めたの?』って」

「……は?」

 

 おいおい。なんてことを聞いてるんだ、この人は。

 

「なんだって突然また」

「だって、本当に自然なんだもの。だから気になっちゃって」

 

 悪びれもせず、真田さんが、口元に手を当ててくすりと笑う。

 

「そうしたらね。詩音ちゃん、しばらく固まっちゃって」

「あー… …」

「十秒くらい、こう……完全に停止して。それから、あり得ないってすごい勢いで否定してたんだけど」

 

 まあ、無理もない。その情景は容易に思い浮かぶ。

 

「それは怒るだろ……付き合ってるなんて失礼な誤解されたら。アイツ、そういう勘繰りとか一番嫌がるだろうからな」

 

 真田さんが、すっと真顔になった。

 じっと、こちらを見てくる。何かを憐れむような、それでいて少し呆れたような——そういう目だった。

 

「……なんだよ、その顔」

「ううん」

 

 真田さんは、ふるふると首を振った。それから、また穏やかに微笑む。しかしその微笑みの中には、やはり憐憫の色が見え隠れしているような。

 

「岡崎くんって、本当に……うん。なんでもない」

「気になるだろ、そこで止められると」

 

 答えてもらえないまま、廊下の方から足音が近づいてきた。聞き慣れた、少し乱暴な歩き方。詩音だ。

 戻ってきたその顔を見て、俺は思わず眉を上げた。げんなり、という言葉が服を着て歩いてきたみたいな……そのまま座席にちょこんと腰を下ろす。

 

「げんなり」

「擬態語をそのまま口に出すやつがあるか」

 

 そう言い残して、机の上に突っ伏す詩音。やはり何か怒られたんだろうか。

 

「どうしたんだ、葬式帰りみたいに」

「……最悪です」

 

 顔を上げてこちらを見る詩音。落ち込んでいる……というより、途方に暮れている、という表情だった。

 

「だから何があったんだよ」

「……生徒会長に立候補しないか、と言われました」

「は?」

 

 思わず間抜けな声が出た。真田さんも「えっ」と小さく目を丸くしている。

 

「立候補してほしいって。生徒会長から直々に、頼むって頭まで下げられて。あー、面倒くさい。なんで私が」

 

 生徒会長?立候補?ちょっと理解が追いつかない。多分俺も今、コイツと同じ表情になっているに違いない。

 

「いや、なんでんな事になってんだよ?生徒会長?」

「だから、生徒会長さんに直々にお願いされちゃったんですよぅ。もう時期改選の時期ですから」

 

 露骨に面倒がる詩音。話がさっぱり読めないが……

 

「嫌なら、別に断りゃいいだろ。そんで済む話」

「ならここまで悩んでませんよ。それができたら苦労しません」

 

 詩音が、はあ、と重いため息をついた。どういうこったと首を傾げる俺に、真田さんが補足してくれた。

 

「詩音ちゃんね、今の生徒会長さんに色々と助けてもらったりしてたんだよ」

 

 というのも、持ち前の要領の良さで委員長なんてやってるわけだが、お世辞にも素行が良いとは言えないのもまた事実。最近はめっきり減ったというが、入学当初は授業はへーきでサボるし、というか学校自体サボることもままあったそうな。

 教師陣には早々に目をつけられていたそうなのだが、生徒会長が色々と彼女をかばってくれていたらしい。

 

「なんでもね、入学式の日に詩音ちゃんがいじめっ子の上級生を倒しちゃったことがあったんだけど。岡崎くんも知ってるよね、有名な話だし」

「あぁ、概要だけはな」

「その様子を見ていた生徒会長さんが、とても感銘を受けたみたいなの」

 

 こういう生徒が、学校を変えていくんだ。だから少し長い目で見守ってやってほしい。そんな風に会長様は教師陣を説得していたらしいのだ。

 なんて素敵で心温まるお話なんだろうか……なんて微塵も思うまいが。

 

 ともあれ、詩音にとって今の生徒会長は単なる学校の一員という以上の存在らしいことは分かった。

 

「まぁ、それだけじゃなくて、ですね。今の生徒会長さんには、他にもお世話になったことがあるんです。だから、無下に断るっていうのも……義理ってやつです」

「じゃあ、義理立てして引き受けりゃいいじゃねぇか。それで丸く収まるだろ」

「いやいや、引き受けたくはないですよ。面倒なんですから」

「どっちなんだよ」

「だから困ってるんです」

 

 詩音が、がしがしと頭を掻いた。難儀な状況に追い込まれているな、コイツ。

 

「なら、そうだな……立候補するだけして、選挙で負けりゃいいんじゃねぇか?」

「私もそれは考えましたよ」

 

 考えたのかよ。

 

「でも、生徒会長なんて、今時誰もやりたがらない貧乏くじなんですよ。面倒ごとの押し付け合いで、毎年なり手がいなくて困ってるくらいで。まぁ、今は皆さん自分のことで精いっぱいな方も多い状況ですから、仕方ないんですけど」

「……なるほど」

「つまり――私が立候補したら、たぶん対立候補なんて出ません」

 

 ってことは。

 

「無投票。自動的に当選です」

 

 もし対立候補が出て選挙になれば、堂々と負けるという手がある。立候補はした、けれど票が及ばなかった――その体裁なら、推薦してくれた会長への義理も立つし、会長の座も回避できる。あまり褒められた方法じゃないが、けれど今できる中では一番きれいな逃げ道だ。

 だが、その対立候補が出る見込みが、限りなく薄い。

 

「逃げ道がない、と」

「……はぁ。引き受けるか、義理を蹴って断るか。その二択しかないんですよ、実質」

 

 頭を抱える詩音。珍しく本気で参っているらしい。

 すると、それまで黙って聞いていた真田さんが、ふと、ふんわりと微笑んだ。

 

「でも、詩音ちゃんが生徒会長さんか。案外似合うかも」

「もう、あかりさんまで……」

「だってほら、もし会長になったら、校則とかにも提言できるんでしょ?詩音ちゃん、嫌いな決まりとか、すぐ変えちゃいそう」

 

 おっとりした口調で、なかなか鋭いことを言うと詩音が「うっ」と言葉に詰まった。

 彼女の指摘は確かに、面白い。俺はそこに乗っかることにした。

 

「うん、ありそうだな。遅刻と早退とサボりの規定、真っ先に骨抜きにするぞこいつ。自分が一番得するように」

「ちょ」

「制服とかも私服とかにしたり?私物の持ち込み規定を甘くしたり」

 

 やりかねんな。

 

「ついでに生徒会費も使い込むかもしれねぇ。気づいたら会計報告がパフェだのスイーツの領収書だらけになってるなんてのは序の口だ、私的利用も口実はいくらでも作れるだろうからモーマンタイ」

「人を横領犯みたいに言わないでくださいっ」

 

 詩音が口を尖らせて抗議する。が、案外俺たちの想像は案外現実的なんじゃないか。さすがに横領は冗談だが……冗談だよな?

 

「お前が権力持ったら学校が私物化されかねん。生徒会じゃなくて園崎の出張所になる」

「失礼な。私がやるならもっとスマートにやりますよ」

「やる気あんのかよ」

 

 生徒会でヤクザの抗争拠点になどされたら、学校が崩壊待ったなしだ。すごいな、コイツ歴史に残る生徒会長になるかもしれないぞ。

 

 詩音は「もう、二人して好き勝手言って」と頬を膨らませている。

 まあ、しかし――本人が乗り気じゃないのは、本物らしい。妄想で散々盛り上がったわりに、詩音の顔には「面倒くさい」がべったり張り付いたままだった。

 

 

 さて、ひとしきり妄想で盛り上がって、教室の空気がようやく落ち着いてきた。

 西日はさらに傾いて、もう茜色に近い。詩音は机に頬杖をついたまま、相変わらず「面倒くさい」を絵に描いたような顔をしている。妄想会議で散々ネタにされたわりに、根っこの憂鬱は一ミリも晴れていないらしい。

 

 まあ、貧乏くじには違いないからな。同情はする。俺は鞄を肩にかけ直して、立ち上がった。

 

「ま、頑張れよ」

「……は?」

「なんだかんだ、お前は義理で引き受けるんだろうからさ。まあ、天下の園崎詩音なら会長くらい余裕でこなせるって。応援してるぞ」

 

 本心だった。もちろん、他人事として。

 だがその瞬間。詩音の頬杖が、ぴたりと止まった気がした。

 

 

 ゆっくりと、こちらに顔を向ける。さっきまでのげんなりした表情が、すうっと抜けていく。そして、代わりに浮かんできたのは――とびきりの、笑顔だった。

 花がほころぶような。それくらい綺麗な笑みだ。普段の飄々とした笑い方でも、にやりと意地の悪い笑い方でもない。心の底から機嫌がいい、とでもいうような。

 

 

 それが、たまらなく不気味だった。

 

「……な、なんだよ」

「いえいえ。なんでもありませんよぅ」

 

 詩音が、ゆったりと立ち上がる。鞄を手に取りながら、にこにこと笑っている。さっきまでの憂鬱はどこへやら、足取りまで軽い。

 

「ちょっとちゃんと考えてみます。色々なパターンを、ね」

「お、おう。そうか——」

「ええ。せっかくですから、楽しくやらないと損ですもんねぇ」

 

 すれ違いざま、詩音がぽつりと言った。表情のわりに、声がやけに冷たい気がする。

 

「ひとりより、ふたりの方が、ずぅっと楽しいでしょうし」

「あぁ……ん?」

 

 聞き返したときには、詩音はもう数歩先を歩いていた。こちらを振り返りもしない。ただ、その背中が、やけに楽しそうに弾んでいる。

 

 ぞわり、と背筋に冷たいものが走った。

 

 今の、なんだろうこの感じ。

 ふと見ると、真田さんが帰り支度を終えて、にこにことこちらを見ていた。

 

「ふふ。じゃあ私、お先に失礼するね。……岡崎くん、その、なんていうか」

 

 真田さんが、少しだけ言葉を選ぶように間を置いて。

 

「……お大事に」

「なんで俺が見舞われてんだ」

 

 ひらひらと手を振って、真田さんは教室を出ていった。残されたのは、機嫌よく鼻歌でも歌い出しそうな詩音と、嫌な予感に固まったままの俺。

 

 夕日が、燃えているかのようにやけに赤く感じたのは気のせいか。気のせいであってくれ。

 

 






学園ものよろしく、のほほんとした時がしばし続きます?
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