ひぐらしのなく頃に〜後祭り編〜 作:村人A
雪やこんこん
オーブンの中で、クッキーがふっくらと色づいていく。
バターの焦げる甘い匂いがキッチンに満ちて、私は鼻歌なんか歌っている。自分でも分かるくらい機嫌がいい。理由は分かりきっている。先週の期末考査、順位はなんと十四位。自己ベスト更新の、堂々十五位以内達成というわけだ。
ふふん。やればできる女なんですよ、私は。
これまでみたいに一夜漬けで詰め込んだわけじゃない。圭ちゃんのあの鬼のような特訓のおかげ、というのはちょっと癪だから認めたくないけれど。要領よくコツコツ積み上げれば、こうも結果が変わるものらしい。ノートの取り方から復習の順番まで、あいつのやり方は無駄がなかった。悔しいことに。
オーブンの前にしゃがんで中を覗き込む。もう少し。あと二、三分ってところか。
鼻歌の続きを歌いながら、私はもう一つのお楽しみのことを考える。
ご褒美だ。
圭ちゃんが言ったのだ。十五位以内に入れたら、なんでも好きなものを一つ、って。あのとき自信満々に胸を張っていたくせに、今ごろになって顔を青くしているのが傑作だった。何をねだられるか気が気じゃない、って顔で。
別に高いものが欲しいわけじゃない。エルメスのケリーバッグ、なんて口にしたのはただの意地悪だ。彼の目が泳ぐのが面白くて仕方ないから。
……本音を言えば。
欲しいものなんて、そんな大層なものじゃなくて。
「――っと、焼けた」
電子音が鳴って、私は慌てて立ち上がる。今しがた頭をよぎりかけた何かは、都合よくオーブンの音がかき消してくれた。ミトンをはめて天板を引き出す。
いい出来だ。四角と丸、チョコとバニラのチェック柄。我ながら綺麗に焼けている。
湯気の立つそれをお皿に並べて、トレイにマグカップを二つ。ココアもたっぷり用意した。圭ちゃんの分まで作ってやる義理があるかは微妙なところだけど、まあ一人で食べても味気ないし。
さて。あの雪ばか、まだ外にいるんだろうか。
窓の外は見渡すかぎりの銀世界。興宮の町が、朝からしんしんと降り続いた雪ですっかり白く塗り替えられている。こんなものの何がそんなに嬉しいのか、私にはさっぱり分からない。冷たいし濡れるし歩きにくいし。都会っ子ってのは、これだから。
トレイを手に玄関へ向かう。
寒いだろうけど、ちょっとだけ様子を見てやりますか。せっかくクッキーも焼けたことだしね。
中庭に出た瞬間、頬を刺すような冷気が私を包んだ。
息が白い。足元でぎゅっと雪が鳴る。トレイを傾けないよう気をつけながら歩いていくと、視界の隅で何かが動いた。
圭ちゃんだ。
中庭のど真ん中で、しゃがみ込んで、せっせと雪を積み上げている。マフラーもせずにコートの袖を雪まみれにして、それはもう真剣な顔で。半分以上できあがったそれは、どう見てもかまくらだった。
「……何やってんですか、こんな寒い中」
声をかけると、圭ちゃんがぱっと振り返る。鼻の頭を赤くして、それでも目だけは子供みたいに輝いていた。
「おっ、詩音。見ろよこれ、かまくらだ。もうすぐ完成するぜ」
「見れば分かりますよ……だから、なんでまた」
「雪に触るのなんてほぼ初めてなんだよ。かまくらとか一回作ってみたくてさ。秘密基地みたいでいいだろ」
得意げに言って、また雪の壁をぺたぺたと固め始める。
秘密基地、なんて。いい年した高校生が言うことだろうか。呆れて言葉も出ない――はずなのに、なぜだか口元がゆるみそうになって、私は慌ててそれを引き結んだ。
だって彼の横顔が、あんまり楽しそうなものだから。
病室で初めて会ったときの、あの虚ろな目を私は覚えている。焦点の合わない、生きているのか死んでいるのかも分からないような目。それが今は、雪玉ひとつでこんなに輝いている。なんだか、久しぶりに村にいた頃の圭ちゃんの顔を、見た気がした。
……まぁ。
悪くない変化だ。ほんの少しだけ、胸の奥が温かくなる。
「はい、これ。ココア。凍え死なれても寝覚めが悪いので」
「お、さんきゅ。ってかこの程度で凍死なんかするかよ」
マグカップを受け取って、彼が旨そうにひと口すする。私はかまくらをあらためて眺めた。丸い雪のドーム。入り口もちゃんとくり抜かれていて、初めて作ったにしては驚くほど様になっている。
「初めてにしちゃ、上出来じゃないですか」
「だろ?雪降るって予報が出た時から色々調べてたんだ。雪国出身のクラスメートにも作り方聞いてさ」
ふふん、と鼻を鳴らして胸を張る圭ちゃん。その用意周到さがいかにも彼らしくて、私は小さく息を吐いた。
男の子ってのは、どうしてこう妙なものに全力になれるんだろう。かまくらの何がそこまで彼を駆り立てるのか、私にはさっぱり分からない。分からないけれど。
まあ、いいか。
「中、入れるぞ。台も作ったんだ」
促されて、私は腰をかがめてかまくらの中に入る。狭い空間は思ったより風がなくて、外より幾分か暖かかった。雪で固めた台がふたつ、ちゃんと椅子みたいに並んでいる。そこまで作り込むとは、まったく大したものだ。
二人並んで腰を下ろすと、雪の壁がほんのり青白く光を通して、不思議と落ち着く。マグカップを両手で包むと、じんわりと温もりが指先に染みた。
ふう、と白い息がひとつ。
外の寒さが嘘みたいに、かまくらの中は静かだった。
「クッキー、食べます?さっき焼いたやつ」
お皿を差し出すと、圭ちゃんが「お、もらう」と一枚つまんだ。チョコとバニラのチェック柄の、我ながら自信作。彼はそれをぱくりとやって、もぐもぐと口を動かして。
「ん、美味いな。これ」
ふわりと笑う。
なんてことのない、ただの笑顔だ。褒め言葉だって、社交辞令みたいなものかもしれない。そりゃ、上手くできたって私は思ってますけどね。でも、その一言とその顔を見た瞬間、私の心臓が勝手に小さく跳ねた気がした。
……なんですか、それ。
なんてことはない一言だ、言われ慣れている言葉。なのに、どうして彼にああやって無防備に笑いかけられると、胸の奥がこんなにそわそわするのか。
うん。きっと、かまくらの中が暖かいせいだ。そうに違いない。頬がゆるみそうになるのを、私は奥歯でぐっとこらえた。
「当然です。誰が焼いたと思ってるんですか」
声が少しだけ上ずった気がして、慌ててすまし顔を作る。彼はそんな私の内心なんて気づきもせず、二枚目に手を伸ばしながら「詩音って器用だよなあ」なんて能天気に感心している。
その屈託のなさが、なんだか無性に落ち着かない。
ドキドキ、なんて言うと大げさだけど。ちょっとくらい、そっちも意識すればいいのに。一人でそわそわしているのが、なんだか馬鹿みたいじゃないか。
この妙な据わりの悪さを、どうにか彼にぶつけたくなって。私は半ば八つ当たり気味に口を開いた。
「そういえば、私。今回の期末、十四位だったじゃないですか」
「ん?ああ、そうだったな。よくやったと思うぜ」
「ええ、ええ。やればできる女ですので」
胸を張ってみせてから、私はにんまりと目を細めた。
「それでですねぇ。約束のご褒美、何にしようかなーって、さっきまでずーっと考えてたんですよ」
その瞬間、圭ちゃんの肩がびくっと跳ねた。
「あ、あー……そ、そうだったな。うん」
露骨に目が泳いでいる。二枚目のクッキーを口に運ぶ手が、あからさまに止まった。分かりやすすぎて、いっそ可笑しいくらいだ。だから、もっと慌てさせてやりたくなる。
「圭ちゃんってば、私のためになんでも一つ好きなものを買ってくれるなんて。もう、ときめいちゃいましたよぅ」
「そ、そうか……そうだっけな、ははは」
「初めての、圭ちゃんからのプレゼントですし。一生大切にする思い出になりますねぇ」
わざと甘ったるく言って、上目づかいに彼を見る。圭ちゃんの顔から、みるみる血の気が引いていくのが分かった。何を要求されるのか、気が気じゃないんだろう。その表情を眺めているだけで、さっきまでの据わりの悪さが嘘みたいに、私の機嫌はぐんぐん上向いていく。
「やっぱり……そうですねぇ。エルメスのケリーバッグかなー」
「――っ、ちょ、落ち着け、な?詩音」
とうとうアイツが慌てて身を乗り出した。マグカップの中身をこぼしかけて、あたふたとバランスを取りながら。
「そういうのは、その、もっとゆっくり考えたっていいんじゃねえか?な?急いで決めることないだろ、うん」
必死すぎる。財布の中身でも計算しているんだろうか。計算しても買えっこないだろうに。額に浮かんだ焦りを見ていたら、こらえきれずに噴き出しそうになった。
ああ、面白い。この顔が見たかった。
……なんて。本当は、ケリーバッグなんてどうでもいい。高いものが欲しいわけでも、彼を心底困らせたいわけでもない。ただ、こうして彼があたふたしているのを見ていると、なんだか楽しくて仕方ないだけ。
さんざん焦らして満足したところで、まあ、これ以上いじめるのも可哀想か。私はひとつ息を吐いて、助け舟を出してやることにした。
「ふふ。冗談ですよ、冗談。そんな高いもの、本気で欲しがりませんって。ていうか、学生の分際でんなもん欲しがる女は碌な奴じゃあないです」
「……お前、自分の発言見返してみろよな」
「だから、冗談ですってば。まあ――そうですねぇ」
言いかけて、ふと、言葉に詰まる。
なぜだか、その先が少しだけ言いにくくて。理由はよく分からない。私は視線を手元のマグカップに落としながら、なるべく何でもないことのように続けた。
「じゃあ今回は……例えば、あ、頭を撫でてもらう、とか。そんくらいで我慢しといてあげます」
可愛くない言い方だって?ええい、うるさいうるさい!いいんですよ、別に妥協してあげただけなんだから!
さしもの圭ちゃんは、きょとんとした顔をしたかと思えば、やがて表情を明るくする。
「なんだ、そんなことでいいのか」
そんなこと、とはなんだ。こっちは結構、勇気を出したのに――と、そこまで考えて、あれ、なんで私は勇気なんて出したんだっけと、内心で首をかしげる。むっとする間もなく、彼の大きな手が、ぽすっと私の頭に乗った。
わしゃわしゃ、と。少し雑に、でもやっぱり優しく、髪をかき混ぜるみたいに撫でてくる。
「よーしよし。頑張ったな、詩音は」
「だ、だから犬ですか私はっ」
ああ、もう!ずるい。ずるい、ずるいっ。
変な声なんて、絶対に出すものか。平気な顔をしてやり過ごすんだ。そう固く決意したはずなのに、彼の手のひらはあたたかくて。頭の芯まで、じんわりと熱が伝わってくるみたいで。
だめだ。顔が熱い。
きっと今、私の顔は雪の照り返しのせいなんかじゃなく、真っ赤になっている。こんな顔、死んでも見られたくない。緩みきっただらしない顔なんて、彼に見られた日には一生からかわれるに決まっている。
「――も、もう十分ですっ」
私は彼の手を振り払うようにして、勢いよく立ち上がった。頭をぶつけそうになりながら、逃げるみたいにかまくらの外へ這い出る。
冷たい外気が、火照った頬に心地いい。
冷たい空気で顔を冷ましながら、私はぱんぱんとスカートの雪を払った。
さて、逃げ出した手前、このままでは格好がつかない。何食わぬ顔で主導権を取り戻さなければ。私は咳払いをひとつして、かまくらの入り口を振り返った。
「では。今日のクッキーのお礼は、このくらいで勘弁しといてあげます」
「おう……ん?」
のこのこと這い出してきた圭ちゃんが、途中で妙な顔をして固まった。
「クッキーの、お礼?」
「ええ」
「いや待て。今のって、テストのご褒美の話じゃ……」
きょとんと目を丸くする彼を見て、私は口の端をにやりと吊り上げた。ここだ。この瞬間のために、私はさっきの甘酸っぱいあれこれを全部お膳立てしたと言ってもいい。
「あれあれ?圭ちゃん、私ちゃぁんと言いましたよねぇ。『今回は』撫でてもらうくらいで我慢しといてあげる、って」
「言った、けど」
「今日の『クッキー』を焼いてあげた、そのお礼です。撫でてもらったのは、ね」
彼の頭の中で、ようやく歯車が噛み合ったらしい。みるみる表情が変わっていく。
「……ってことは」
「ええ。期末のご褒美は、まぁるごと、まだ残ってるってわけですよ。ふふ」
してやったり。撫でてもらってドキドキさせられたぶん、きっちり利子をつけて返させてもらった。これでご褒美という名の切り札は、しばらく私の手の中だ。これから先も、この札で好きなだけ彼をびくびくさせられる。
「詩音、てめぇ……はめやがったな!」
「あははははっ。やぁだなぁ、人聞きの悪い。全部圭ちゃんの早とちりじゃないですかぁ」
「どの口が言いやがるっ」
真っ赤になって食ってかかってくるアイツが、可笑しくて可笑しくて。私は腹を抱えて笑った。
と――視界の端で、白いものが膨らんだ。
しまった、と思ったときにはもう遅い。ぱふっと、やわらかい雪玉が私の肩で弾けた。見れば、圭ちゃんが両手に二個目を握って、悪童みたいな顔で笑っている。
「よくも人をおちょくってくれたな、詩音」
「……へえ?」
この私相手に、やる気ですか。上等じゃないですか。
私はしゃがんで雪をすくい上げ、きゅっと固めた。売られた喧嘩は買う主義だ。ましてや雪合戦ごときで、この園崎詩音が後れを取るわけには──
「そぉれっ」
「うわっ、ちょ、顔は狙うな顔は!」
投げて、避けて、また投げて。かまくらを盾にしたり、回り込んだり。二人して雪まみれになりながら、私たちはしばらく子供みたいに走り回った。冷たいはずの雪が、なぜだかちっとも寒く感じない。
息が上がって、笑いすぎてお腹が痛い。
こんなふうに、何もかも忘れて誰かとはしゃぐなんて。いつぶりだろう。
「……お二人とも。風邪をひきますよ」
ふと、聞き慣れた声がした。
振り返ると、中庭の隅に葛西が立っている。コートを二着抱えて、生温かいというか、なんとも言えない優しい目でこちらを見守っていた。いつからそこにいたんだろう。ひとしきりの醜態を、まさか全部見られていたんだろうか。
……なんだか、無性に気恥ずかしい。
「別に。ちょっと運動してただけですぅ」
髪についた雪を払いながら、私はそっぽを向いた。頬がまた熱くなってきたのは、今度こそ走り回ったせいに違いない。そういうことにしておく。
部屋に戻ると、葛西が用意してくれた乾いたタオルと温かいお茶で私と圭ちゃんはようやく人心地ついた。
窓の外はまだ雪。街路樹の向こうに、気の早い家がもう電飾を灯し始めているのが見える。赤や緑がちかちかと点滅して、なるほど、そういう時期か。
「そういえば、もうすぐクリスマスですねー」
湯呑みを両手で包みながら、私は何気なく言った。カレンダーを見れば、もう数日後だ。それが終われば年末、冬休みとなっている。
「圭ちゃん、クリスマスの思い出とかあるんです?」
「思い出ねぇ」
圭ちゃんが天井を見上げて、うーんと唸る。
「……小学生の頃は、塾でな。イブもクリスマスも、缶詰で問題集解いてた記憶しかねぇな」
「うわー」
「雛見沢に来てからは、そもそも十二月までもたなかったし。去年にいたっては……病院のベッドで身動きも取れずだ。サンタどころか、来るならサタンでもいいから代わり映えのしない天井をどうにかしてくれって気分だったな」
しれっととんでもないことを言う。
「碌なもんじゃないですねぇ、圭ちゃんのクリスマス」
思わず、深いため息が出た。サンタを待つならまだしも、サタンを待つ高校生がどこにいるんだ。もはや聖夜でも何でもない。
「うるせぇな。じゃあ聞くけどよ、そういうお前はどうなんだ、詩音」
むっとしたように圭ちゃんが逆襲してくる。
私は……ああ、そうきますか。正直、人のことを笑えた義理ではない。
「私はですねぇ。ルーチアにいた頃、クリスマスってのは宗教行事だったんですよ」
「宗教行事?」
「ええ。来る日も来る日も聖歌の練習。喉から血が出るかってくらい歌わされて。少しでもサボろうものなら、それはもう情操教育の名のもとに、こう……ね」
当時を思い出して、げんなりと肩を落とす。折檻、なんて言葉を今どき使う学校があるとは思わなかった。夜な夜な、涙で枕を濡らしたものだ──大袈裟な話でもなんでもないのが怖いところ。
「毎年イブは、聖歌隊の隊列で立ちっぱなし。楽しいことなんて、これっぽっちもありゃしません」
「なるほど……それはそれで地獄だな」
「でしょう?抜け出してからは、そもそも私、魅音のフリして過ごしてましたからねぇ。詩音としてのクリスマスなんて、あってないようなもんです。去年に至っては──」
言いかけて、少し口をつぐむ。去年の暮れは、大災害の後始末で、それどころではなかった。組の中がひっくり返って、私はただ走り回っていた。クリスマスがいつ来て、いつ過ぎたのかも覚えていない。
「……まあ、色々ありまして。クリスマスの記憶なんて、とんとないわけです」
「なんだよ、似たようなもんじゃねぇか」
圭ちゃんが、ちょっと救われたみたいに笑った。自分だけじゃなかった、とでも言いたげな、その自虐まじりの顔が、なんだか可笑しい。
「一緒にしないでもらえます?私のはスケールが違いますので」
「どっちも碌でもねぇって話だろうが」
「あら、失礼な。私のは由緒正しい地獄です」
「地獄に由緒とかあるかよ」
違いない。
考えてみれば、おかしな話だ。私も彼も、この年までまともなクリスマスってやつを一度も過ごしたことがない。聖夜だ何だと世間が浮かれる横で、二人して灰色。思い入れなんて、持ちようがない。
だから、別に。クリスマスなんて、私にとってはどうってことのない、ただの一日で。だから──
「今年のクリスマスは──」
ふと、そんな言葉が胸の内からぽろりと口から出てしまって。
──って、今、何を言いかけたんですか私は。
あわてて、ぶんぶんと頭を振る。何でもない。何でもないったら何でもない。湯呑みのお茶を一気にあおって、変な考えごと諸共、胃の中に流し込んでやった。
「……詩音?」
「な、なんでもないですっ。ま、要するにアレですよ。今年のクリスマスはのんびり過ごせそうでいいですねー、って話です」
圭ちゃんが怪訝そうな顔をしているけれど、気づかないふりを決め込む。
「あ、そうだ圭ちゃん。ケーキくらいは買っといてくださいよ。クリスマスなんですから」
「へいへい。……あと、チキンくらいは用意するか。クリスマスってやつらしく」
ぽつりと付け足されたその一言に、私はなんだかむずむずして。窓の外の、ちかちか光る電飾を眺めるふりをして、やり過ごすことにした。
雪は、まだ静かに降り続いていた。
気がつけば六章、折り返しも過ぎてきました。
不定期な更新ではありますが、何卒よろしくお願いします。