ひぐらしのなく頃に─後祭─   作:通行人A'

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第九章
その横顔


 

 

 六月の朝は、ひぐらしの声で始まる。

 

 カナカナカナ、と、どこか物悲しい、あの声。夏の盛りにはまだ早いってのに、こいつらは朝と夕方になると、決まって鳴きはじめる。窓の外の、まだ薄青い空気の中を、その声だけが、涼しげに渡っていく。

 

 俺は畳の上で、ぼんやりと天井の木目を眺めていた。

 

 

 ……少しは見慣れてきたかな、この天井にも。

 

 

 頭の上を這う、古い木目。寝返りを打つたび、ぎしり、と鳴く家鳴り。日に灼けて、隅のささくれた畳。少し前まで、俺が寝起きしていた場所とは、何もかもが違う。ぴかぴかのフローリングも、ボタン一つで沸く湯もない、この古びた一軒家。

 

 

 のそのそと身を起こそうとして──ふと、気づく。

 右腕が、重い。

 

 見れば、すぐ隣で、詩音がまだ寝入っていた。俺の腕を、枕がわりに抱え込むみたいにして。規則正しい寝息を立てて、この上なく無防備な顔で。

 そういや、昨日は一緒に寝ると言って聞かなかった彼女に根負けして、腕枕を献上したんだっけか。

 

「……」

 

 俺は、しばし固まった。

 いや。慣れろってほうが、無理な話なんだよ。恋人になって、まだ二ヶ月かそこらなんだから。おまけに俺たちときたら、手を繋ぐだの、肩を寄せるだの、そのへんで止まってる……傍からみれば奥手もいいところなんだろう。それが朝起きたら、こんな至近距離に、無防備な寝顔があるわけで。

 

 本当に、心臓に悪い。

 

 さらり、と。詩音の髪が、俺の腕の内側をくすぐる。石鹸の匂いが、ふわりと鼻をかすめて。……うわ、まずい。なんか、いろいろ、まずい。目のやり場に困って、俺は天井の木目を数えることに専念する。一つ、二つ、三つ……。

 

「……ん」

 

 と、詩音のまつげが、かすかに震えた。ゆっくりと、まぶたが持ち上がる。とろん、とした目が、俺を捉えて。

 

「……ふぁ。……おはよ、ございます……圭ちゃん」

「お、おう。おはよ」

 

 寝ぼけ眼のまま、詩音は、こてん、と俺の肩口に額を押しつけてくる。あったかい。というか、近い。近すぎる。

 

「んー……もうちょっと、こうしてても、いいですか……」

「……っ、お、おま……」

 

 だめだ。破壊力が、洒落にならん。普段はさんざん俺をおちょくり倒すくせに、寝起きのこいつは、なんでこう、無防備に甘えてきやがるんだ。反則だろ。反則負けだ俺の。いや俺のかよ。

 

 俺が、かちんこちんに固まっていると。

 

「……ふふ」

 

 肩口で、詩音が、小さく笑った。

 

「なーんて。……圭ちゃん、顔真っ赤ですよ。かーわいい」

 

 ……こいつ。

 

「……起きてやがったな?」

「えぇ、圭ちゃんが起きる五分前くらいですけどね」

「性格わっる……!」

 

 がばっと身を起こした詩音は、もう、いつもの澄まし顔に戻っている。寝癖のついた髪だけが、その澄まし顔と、ちぐはぐで。俺は、してやられた悔しさ半分、安心半分で、その頬を、むにっと片手でつまんでやった。

 

「いた、なにするんですかっ」

「うるせぇ。朝から人の心臓、もてあそびやがって」

「もてあそんでなんか。ちょっと、からかっただけじゃないですか」

「それをもてあそぶって言うんだよ」

 

 まったく。恋人だとかなんとか、関係に大層な名前がついたわりに、やってることは前と変わりゃしない。軽口を叩いて、くだらねぇことで小突き合って。ただ──少しだけ、以前より距離が近い。それとあと、まぁ……少しだけ、いやかなり、事あるごとに、彼女が可愛いと、思うようになった。うん。それだけのことが、なんでこう、いちいち面映ゆいんだか。

 

「……さ、朝ごはんにしましょ」

 

 詩音が、ぐっと伸びをして、立ち上がる。障子越しの光の中で、その横顔は、憑き物が落ちたみたいに、晴れやかだった。

 

 ……こいつの、この顔。

 この、なんの憂いもない笑顔を見られるようになった事が素直に嬉しい。どんな結果になるのか、一月前までヒヤヒヤものだったのだから──短いようで、長い道のりを歩いてきたんだと、しみじみ思う。

 

 

 台所へと向かう彼女の背中を見つめながら、俺の意識は、ゆるゆると、二ヶ月ばかり前へと巻き戻っていく。それはもう、慌ただしかった日々だった。

 

 まず、鵜飼のことだ。あの爬虫類みてぇな目をした男は、芝浦の一件のあと、あっという間に園崎から消えた。覚醒剤に、詩音の誘拐。あれだけの不始末をやらかして、無事で済むはずもない。竜堂会に尻尾を振って、園崎を売ろうとした男の末路なんざ、語るのも面倒くさい。悪あがきする隙もなく……あっけない幕切れだった。

 

 で、こいつが消えて、変わったことがある。跡目のことだ。

 

 園崎の跡目争いってのは、ずっと、三つ巴だった。当主代行の茜さんを推す一派。詩音を推す一派。そして、鵜飼を筆頭にした、その他の連中。この三つが、腹の内で睨み合って、綱を引き合っていた。……いや、俺みたいな部外者が、偉そうに語れるようなもんじゃないんだけど。それでも、屋敷の空気ってのは、いやでも肌で分かる。ぴりぴりと、剣呑なもんだった。

 

 

 それが、鵜飼が逮捕られて、ぜんぶ引っくり返った。

 

 あいつの一派は、頭を失って、あっけないくらい空中分解した。金の切れ目が縁の切れ目、ってやつだ。旗頭がいなくなりゃ、寄り集まってた連中も、蜘蛛の子を散らすみたいに、いなくなる。残った候補は茜さんと、詩音。二人だけになった訳だが……

 

 で、ここから少し意外な展開へと進んでいった。

 

 茜さんが、はっきりと言ったんだ。次の当主は詩音だ、と。当主代行が、自分の口で正式に。あんだけ拮抗してた跡目争いが、その一声で、すう、と収まった。まるで、潮が引くみたいに。

 

 ……後から知った話だが、あれも二人の間で話がついてたらしい。その時の俺は、まぬけに感心してただけだったけど。

 ともあれ。そういう経緯で、その日を迎えた。

 

 

 園崎詩音、次期当主へ。そのお披露目の日。

 

 

 園崎の本家。俺が、拉致だのなんだので、さんざん嫌な思いをしたあの屋敷の、いっとう大きな広間に、俺はいた。

 

 ……あの空気は、なかなかに緊張感があり、心臓に悪い。

 

 だだっ広い和室に、ずらりと居並ぶ、園崎の主だった面々。名うての古参連中が、上座を囲んで、しわぶき一つ立てずに畳へ手をついている。やたらと厳かな匂いまで漂わせやがって。俺なんざ、借り物の窮屈なスーツの襟を、何度も指で引っぱりながら、部屋の隅っこで小さくなっているのが精一杯だった。付き人ってのは、こういうとき、ほんと肩身が狭い。

 

 そして、その、一同の視線が集まる上座に。

 

 詩音が、いた。

 

 ……別人か、と思った。

 

 いや、詩音なんだけどよ。俺の知ってる、あの、けらけら笑って人をおちょくる詩音とは、まるで別の何かが、そこに座っていた。背筋を、ぴん、と伸ばして。膝の上で、指先までそろえて。切れ長の目は、まっすぐ前を見据えて、微動だにしない。

 

 こういう場所の、あいつはすごい。

 

 こう言っちゃなんだが、見惚れちまう。恋人とはまた違う美しさというか、この広間の詩音は、俺なんかが気安く触れちゃいけない、遠い何かに見える。園崎詩音って女の、俺のまだ知らない顔が、そこにあった。

 

 場の空気は、期待に満ちていた。

 

 これで、園崎は、一つにまとまる。鵜飼が引っかき回した泥沼も、これで底を打つ。若く、聡明で、肝の据わった当主のもとで、園崎は、新しく生まれ変わる──居並ぶ古参たちの顔には、そういう期待がありありと浮かんでいた。

 

 ……いや、違うな。あれは期待ではなかった。縋っていたんだ、誰もが。園崎家の再興を。

 その第一歩、めでたい席になって欲しいと言う、希望的観測。多分多くの人間は、薄々勘付いていたに違いない。この場で詩音が何を言い出そうとしているのかを。それは多分、組長や葛西さん、何より茜さんの表情を見れば……いくらなんでも、古参連中は察するだろうから。

 

 だけど、それを認めるのは、受け入れるのは簡単ではない。だから、最後まで縋っていたんだ。

 今になって振り返ると、あの場の空気というのはそう感じられる。尤も、当時俺は緊張でいっぱいいっぱいになっていて、それどころじゃなかったけど。

 

 

 やがて。

 当主代行の茜さんが、短く、目配せをする。それを受けて、詩音が、すう、と息を吸った。

 

 広間の全員が、次期当主の、その第一声を待つ。

 俺も、皆とは違った意味合いで、固唾を呑んで、その横顔を見つめていた。

 

「皆様……本日はご多忙の中、不肖この私めの為に、ご参集くださり誠にありがとうございます」

 

 詩音の、涼やかな声が、広間に通った。

 

「ただ今より、園崎の家督。次期当主の座を、この園崎詩音が、確かに拝命いたします」

 

 しん、と静まった座に、その一言は、水の滴るように、はっきりと落ちた。古参たちが、深々と頭を垂れる。厳かに、事は運んでいた。ここまでは。

 

「拝命の上で──皆さまに、お伝えしたき儀が、ございます」

 

 詩音は、一度、言葉を切った。ぐるり、と一座を見渡して。それから、静かに、こう言い放った。

 

「園崎の家は。この、私の代をもって、解体いたします」

 

 ざわり、と動揺が駆け巡るが、詩音は凛とした表情を崩して、いつものからかうような小悪魔な笑顔で。

 

「ま、ありていに言えば。皆さんが作り上げてきた“園崎”って看板をぶっ壊しちゃうって事です」

 

 堰を切ったのとは違う、力なく崩れるような、そんな動揺が、座を伝っていく。

 

「……ああ」

 

 漏れ聞こえてきたのは、驚愕の声じゃなかった。

 嘆息だ。深い、深いため息。あるいは、力なく畳へ落とされる視線。腰を浮かせかけて、けれど言葉を継げずに、そのまま黙り込む古参。天井を仰いで、目を固く閉じる老人。

 

 誰もが、最後まで縋っていた希望的観測が、たった今、当人の口から、無情に断ち切られた──そんな顔だった。声を荒げて食ってかかったのは、ほんの一握り。大半の者は、来るべきものが来た、とでもいうように、ただ、うなだれていた。

 

 その、皺の刻まれた横顔に浮かんでいたのは、怒りじゃない。もっと重たくて、やるせない、悲壮の色が大半だった気がする。

 

 上座では、茜さんが、腕を組んで、泰然と構えていた。組長も、宗石さんも、微動だにしない。葛西に至っては、いつものサングラスの奥で、何を思っているのやら。その、幹部連中の揺るぎのなさが、何より雄弁だった。これは、既に決まったこと。この場で覆るような、生半可な話じゃないのだと。

 

 そして、その一座の、まんなかで。

 詩音は、ただ、まっすぐに立っていた。

 

 降り注ぐ、困惑も、悲嘆も、ひそやかな反発も。その細い背中で、ぜんぶ、正面から受け止めて。一歩も、引かずに。

 

 こんな修羅場のど真ん中だってのに。俺はまた、不謹慎にも、その凛とした横顔に、見惚れちまっていた。こんな大事な場だっていうのに、ただただ、上座のあいつから、目が離せずにいたんだ。

 

「これから皆さんの家をぶっ壊します」なんて可愛らしい笑顔で、古参連中相手に真正面からぶつけてる詩音が、どうにもこうにもカッコよくて、誇らしくて。どうだテメーら、これが俺の最愛の彼女だぞ、とこの場の全員に宣言してやりたくなる衝動を必死に堪えてるばかりだったのだ。

 

 いやこれよく考えたらすごくみっともない宣言だけどな。俺何もしてないし。俺の父ちゃんパイロット並みにダサい。

 

 けど。皆が諦めて、目を逸らし、それでも縋りついてきた泥舟に。詩音は今、たった一人で、引導を渡そうとしている。

 

 どうして、そこまでできるのか。

 その答えを、俺は、知っていた。それは就任の場のほんの一週間前。あの、静かな夜の席で──詩音の隣で、確かに聞いていたから。彼女の想いを。

 

 

 この物々しいお披露目の場の、ちょうど一週間前。園崎の本家の、奥まった一室に詩音たちは集まっていた。

 

 広間とは、まるで違う。ずっと狭くて、薄暗い。行灯みたいな、頼りない灯りが一つ、畳をぼんやり照らしているきりだ。障子の向こうは、もう、とっぷりと夜の闇で。時折、庭のほうから、名も知らぬ虫の声が、りぃ、と細く聞こえてくる。

 

 その、六畳ばかりの部屋に。園崎の、名だたる顔ぶれが、膝を突き合わせて座っていた。

 

 当主代行の、茜さん。組長の、親父さん。古参筆頭の、宗石さん。それに、葛西さん。他にも数名の幹部の人達が顔を揃えている。園崎の屋台骨を支える、そうそうたる面子だ。そして、その中心に、詩音。……で、その隣に、俺。

 

 正直、居心地は最悪だった。こんな、園崎の一番奥の、一番大事な話し合いの席に。付き人風情が、本来のこのこ混じっていていいわけがない。けど、俺はどんな時も詩音の側にいると約束した。だから、例え追い出されることになろうとも、頑として居座るつもりだった。

 尤も、誰もそんな事は言わなかったのだけれど。

 

 部屋の空気は、ひたすらに重い。

 就任のぴりぴりと張り詰めた緊張とは、また質が違う。もっと、私的で。もっと、生々しい。これから、腹を割った話が交わされる──そのことを、この場の誰もが、分かっているみたいな。そういう、静かで、覚悟の据わった重さだった。

 

 あの、豪快に笑う茜さんでさえ。今夜ばかりは、口元を引き結んで、じっと畳の一点を見つめている。親父さんは、いつにも増して、寡黙だった。宗石さんは、気遣わしげに、時折、詩音の横顔をうかがっている。葛西さんは、相変わらず、サングラスの奥を読ませない。

 

 誰も、口火を切らない。虫の声だけが、やけに大きく聞こえる。

 

 やがて。

 

 詩音が、湯呑みを、そっと畳へ置いた。ことり、と小さな音。そして、すう、と背筋を伸ばす。その、静かな所作だけで、部屋の空気が、また一段、引き締まったのが分かった。

 

「単刀直入に、申し上げます」

 

 詩音がおもむろに口を開く。

 

「私が当主になった暁には──この園崎の家を、解体します」

 

 静かな、けれど、微塵の迷いもない声だった。

 

 その一言に、座がどう反応したか。……正直に言えば、思っていたより、ずっと静かなものだった。息を呑む音も、気色ばむ声も、ない。ただ、そうか、というふうに、幹部たちが、それぞれに視線を落とす。

 

 やっぱり、この人たちも、どこかで察していたんだろうか。

 しばらくの、沈黙のあと。口を開いたのは、宗石さんだった。

 

「……お嬢。一つだけ、聞かせてくれるかい」

 

 しわがれた、けれど、穏やかな声で。

 

「なんだって、そこまでする。園崎が憎いか」

「正直に言えば、憎いです」

 

 詩音は、即座にそう言って。しかしすぐに首を横に振った。

 

「……ただ、そんな個人的な感情でこんな提案をしてる訳じゃあありません」

 

 そこで、ほんの一瞬、言葉を探すみたいに、睫毛を伏せて。

 

「私は……もう二度と。私たちみたいな存在を、生み出したくないんです。ただ、それだけ」

 

 私たち、みたいな存在。

 

 その一言に、詩音は、それ以上の説明を、何も足さなかった。足す必要が、なかったんだろう。この場にいる誰もが――むろん、俺も含めて――それが何を指すのか、痛いほど分かっていたから。

 

 入れ替えられた、姉と妹。忌み子と呼ばれ、名を奪われた歳月。ケジメと称して、剥がされた爪。この家が、この血が、これまで幾人を、同じように磨り潰してきたのか。詩音は、その一切を「私たち」とだけ畳んで、飲み下したんだ。

 

「それは、詩音さんが当主になって、家訓や制度を変えるのではダメなのですか?」

 

 今度は葛西さんが静かに尋ねる。その口調は、とっくに答えなんて知っているといったもので。でも形だけでも聞いておかなきゃいけないという声色で。

 

「……いいえ、葛西。それではきっと意味がないの」

 

 詩音は今度は小さく首を振る。

 俺は、隣で拳を握るしかなかった。掛ける言葉なんて、あるはずもない。

 

「この家がある限り、きっと同じことは、また起こります。当主が変われば、きっと繰り返す。そういう血だからね……園崎は。だから、家という仕組みそのものを、終わらせる必要がある。血で継いでいくのを、私の代で、やめにする」

 

 顔を上げた詩音の目は、もう、湿ってなどいなかった。まっすぐ前を向いて、澄んでいた。

 

「とはいえ。ただ闇雲に、ぶっ壊すわけじゃありません」

 

 ふ、と。詩音の口調が、少しだけ、いつもの調子に戻る。

 

「当主の座は、廃します。もう誰にも継がせない。……けど組は残します。お父さんの、別の名前を冠した組織として独立させる。皆さんのシノギも、居場所も、そのまま。利権だって、取り上げやしません。きちんと、分けて、皆さんの手に渡るように。……そこは、抜かりなく進めていけるはずです」

 

 なるほど、と、葛西さんと宗石さんが、小さく唸った。

 

 そうだ。こいつは、ただ勢いで「壊す」と言ってるんじゃない。壊したあと、この人たちが路頭に迷わないように。ちゃんと、逃げ道まで、一つひとつ、用意してきてる。園崎の看板を下ろす、その手つきの、なんと丁寧なことか。

 

「園崎の名前が、なくなっても」

 

 詩音は、一座を、ゆっくりと見渡した。

 

「皆さんが、この土地で培ってきた力は、消えたりしません。そりゃ、影響力や色眼鏡で見られたことは変わっちまいます。でも、看板なんかなくたって、皆さんはきっと、どこででもやっていける。……私は、そう信じてます」

 

 言い切って、詩音は、口を閉じた。

 しん、と。部屋に、また、静けさが戻る。

 

 その、澄んだ決意が、灯りの届かない部屋の隅々まで、ゆっくりと染み渡っていくみたいだった。誰も、すぐには言葉を返せずにいる。

 

 そして。

 

 その言葉を、誰よりも深く、噛みしめるみたいに受け止めていたのは──上座の、茜さんだった。

 

 すぐには、何も言わずに。

 膝の上で、両手を組んで。じっと、畳の目のあたりを見つめている。いつもの、豪快に笑って場をかき回す、あの茜さんじゃない。言葉を、探している。いや──選んでいる、といったほうが近い。口を開きかけては、閉じて。そのたびに、細い息が漏れる。

 

 あの、口の減らない人が。こんなにも、言葉に詰まっている。

 それだけで、俺には、分かった気がした。この人が、その胸に、どれだけのものを、抱えて生きてきたのか。

 

「……詩音」

 

 ようやく、絞り出すみたいに、茜さんが口を開いた。

 

「不思議な話さね。アタシは……アンタが、いや。アンタたちがそう言ってくれるのを、待ってたのかもしれない」

 

 ぽつり、と。それは、独り言みたいに、小さくて。そして、その言葉は詩音だけに向けられているものでもない気がする。詩音と……そして。

 

「この家がしてきたことを。……見て見ぬふりして、生きてきた口だからね、アタシも。えらそうなことは、何も言えやしないよ」

 

 視線は、まだ、畳に落としたまま。

 

「アンタたちに……一番そのツケを、払わせちまった」

 

 詩音と……魅音に。間違いなく、彼女たちに、その言葉は向けられている。忌み子になってしまって、ずっと苦しめられてきた詩音であり魅音。園崎の責任を背負わされて、ずっと苦しめられてきた魅音であり詩音。

 ずっとずっと、園崎に苦しめられてきた姉妹。

 

 そして、きっと……この人も。ずっと苦しめられてきた。

 いつか詩音が言っていた。彼女は詩音と魅音が、入れ替わってたことも。忌み子の側に落とされた娘が、どんな目に遭ってきたかも。知っていて、家のために、口をつぐむしかできなかったと。

 

 実の娘たちを、この人はどんな気持ちで見ていたのか。いや、見させられてきたのか。それは罪なのか。もし罪だというのなら、その罪を。今、この人は、謝るでもなく。言い訳するでもなく。ただ、自分の言葉で、認めようとしている。

 

 謝罪の言葉ではなく……いや、きっと、要らないんだ。今さら、消えるようなものじゃない。剥がされた尊厳も、奪われた歳月も、二度と戻りはしない。それは、詩音も、魅音も、茜さんも、とっくに、分かりきっている。

 

 この人が、その罪を、ちゃんと自分のものとして、抱えていること。目を逸らさずに、背負っていること。それが、詩音に伝われば。……きっと、それだけで。

 

 詩音は、しばらく、黙っていた。

 やがて、ふ、と。肩の力を、抜くみたいに。

 

「……知ってます。お母さんが、抱えてたこと。ぜんぶ、とは言いませんけど。」

 

 それは、赦しの言葉じゃなかった。抱き合って泣くような、そんな和解でも。ただ、淡々と。長いこと胸の底に沈めてきた澱が、ほんの少しだけ、軽くなったような。そんな、静かな声だった。

 

「出来れば、その言葉は私だけじゃなく、魅音にも聞かせてあげたかったけど」

「……そうさね」

 

 茜さんが、そこで初めて、顔を上げた。何か言いかけて──けれど、言葉にはせず。ただ、くしゃりと、泣き笑いみたいな顔をして、一つ頷いた。

 

 母と娘のあいだで、それ以上の言葉は、交わされなかった。交わす必要が、なかったんだと思う。

 と。それまで、腕を組んで黙っていた親父さんが、低く、口を開いた。

 

「詩音」

 

 相変わらず、無骨で、ぶっきらぼうな声だ。

 

「解体のあとの始末は、俺たちがやる。利権の分配も、組の切り替えも、面倒な話は、ぜんぶだ。……お前は、そこまで気に病まなくていい」

 

 そう言って、親父さんは、ふん、と鼻を鳴らした。照れ隠しみたいに。

 

「お前は、道筋だけ示してくれりゃあいい。あとの泥仕事は、大人の役目だ。……こういう時ぐらい、親を頼れ」

 

 不器用で、口下手で。肝心なことは、ろくに言えやしないくせに。それでも、確かに、詩音のことを、想ってる。この家を畳むっていう、詩音の一世一代の決断を。誰一人、突き放したりせずに。皆で、背負おうとしている。

 

 詩音は、その言葉に、ぱちぱちと、まばたきをして。それから、ちょっとだけ、鼻の頭を赤くして、俯いた。

 

「……ありがとう。お父さん」

 

 と。しんみりした空気を、ぱん、と手を打って払うみたいに、茜さんが顔を上げた。

 

「さて、と。……湿っぽい話は、ここまでにしとこうかね」

 

 その視線が、ふいに、俺のほうを向く。さっきまでの、泣き笑いの顔とは打って変わって、ひどく、真剣な目で。

 

「圭一くん。あんたに、改めて聞いておきたいことがあるのさ」

 

 ……な、なんだ。急に。俺は、背筋を伸ばした。

 

「詩音が、こんな大それたことをやりゃあ。当然、恨みを買う。また、こないだみたいに、命を狙われることだって、あるだろうさ。……そうなりゃ、葛西も、もう付き人って立場じゃ、動けなくなるかもしれない」

 

 葛西さんが、無言で頷く。

 

「そんな中でね。アタシが、いっとう頼りにしたいのは……ほかでもない、あんたなんだよ。圭一くん」

 

 茜さんの声が、ぐっと低くなる。

 

「これまで以上に命をかけて、詩音を守る覚悟は……あるかい?」

 

 部屋の空気が、しん、と張り詰めた。皆の視線が、俺に集まる。詩音まで、隣で、そっと俺の顔をうかがっているのが分かった。

 

 俺は、その問いに、一呼吸だけ、間を置いて。それから、はっきりと、言った。

 

「──いえ。命をかけるつもりは、ありません」

 

 しん、と。今度は、別の意味で、場が凍りついた。

 

 茜さんが、きょとん、とする。葛西さんの眉が、わずかに動く。詩音に至っては、信じられないものを見る目で、俺を見ていた。……うん、まあ、そうなるよな。分かってる。分かってるから、待ってくれ。話は、これからだ。

 

「これまでの俺なら、たぶん、二つ返事で『命をかけます』って言ってました。だってそれが、付き人として、当たり前の返事だから」

 

 俺は、一度唇を舐めて。

 

「でも、今は違うんです。俺はもう、ただの付き人じゃない。……詩音の、恋人だから」

 

 言いながら、自分でも、顔が熱くなるのが分かる。けど、止まらない。ここで止まったら、男じゃねぇ!

 

「だから、俺は、自分の命も、ちゃんと大事にしたいんです。……だって、そうでしょう。俺が、詩音を守って死んだとして。そのあと、詩音が、どっかの別の男とくっついたりしたら──俺は、そんなの、絶対に、絶対に、我慢できないっ」

 

 なんか、変なスイッチが入ってる気がしたが、もう止まらない。

 

「もし、そうなったら。俺は、地獄の底からでも這いずってでも、この世に舞い戻ってきてやる!!ええ、死に戻りしてその男を、末代まで祟り殺す。……その自信だけは、あります」

 

 そんな事を想像しただけで、喉を掻きむしりたくなるほどの怒りが湧き出してくるくらいだ。

 

「だから、俺は死にません。死んでたまるかっ、全力で詩音を守って、それで、俺自身も、ぜったいに生き延びて、こいつの側にいます。ずっと。一秒だって離れやしない。……俺は世界で一番、詩音のことが大好きなんで」

 

 俺は、隣の詩音を、まっすぐ見て、言い切った。ぜえぜえと、全力疾走したあとみたいに、息が上がってる。

 

 その、隣で。

 詩音が、耳から首筋まで、茹でだこみたいに真っ赤になって、両手で顔を覆って、その場に突っ伏していた。声にならない声を漏らして、小刻みに震えている。……あ。やりすぎた、か?

 

 と、次の瞬間。

 

「──くっ、あっはっはっはっは!!」

 

 茜さんが、噴き出した。

 

「なんだいそりゃあ!こっちが真面目に覚悟を問うたってのに、まさか、こんな……盛大なのろけで返されるとはねぇ!!」

 

 腹を抱えて、畳をばんばん、と叩いて。目尻に涙まで浮かべて、大笑いだ。葛西さんまで、サングラスの奥で、肩を小さく震わせている。宗石さんは、もう、呆れ顔を通り越して、感心したみたいに、うんうん頷いていた。

 

 ……し、しまった。真面目に答えたつもりが。冷静に考えりゃ、俺、とんでもない宣言を、園崎の重鎮勢揃いの前で、ぶちかましたわけで。じわじわと、羞恥が込み上げてくる。顔から火が出そうだ。

 

 と、そこで。

 それまで黙っていた親父さんが、ごほん、と、一つ大きく咳払いをした。

 

「……圭一くん。君の、その、詩音への熱意は。……まあ、痛いほど、よく分かった」

 

 なんだか、妙に、言葉を選んでいる。

 

「だが、な。君らは、まだ、高校生だ。だから……その、なんだ。あまり、羽目を外さずに。節度のある、健全な付き合いを、心がけてほしい。……分かるな?」

 

 ……あ。

 

 なるほど。父親としちゃ、そりゃ、釘の一本も刺したくなるか。無理もない。

 だが、俺には、断じて、やましいところなんてない。むしろ、その逆だ。俺は、慌てて、その場に三つ指をついた。

 

「い、いえっ!お義父さん!それは、断じて!お天道様に誓って、俺はお二人に顔向けできないようなことは、一切してません!まだ、キスの一つも、してないですからっ!!」

 

 勢いのまま、俺は、床に額をこすりつけんばかりに、頭を下げて。潔白を証明しようと、つい、口走ってしまったその直後。

 

「あんだって!?」

 

 がたん、と。

 立ち上がったのは、茜さんだった。さっきまで大笑いしていた顔が、今度は、信じられない、とばかりに、目を剥いている。

 

「あんたら、付き合って、もう一月は経つんだろう!?それで、夜のことは愚か、キスの一つもしてないってのかいっ!?」

 

 ずんずん、と。茜さんが、詩音に詰め寄る。

 

「詩音っ!仮にも園崎の女が、この奥手具合たぁ!!どの面下げて園崎解体だ、出直してきな、このヘタレ娘っ!!」

 

 ──ぶちん、と。

 

 突っ伏していた詩音の中で、何かが、切れる音がした気がした。

 

「なっ、何言ってんですかっ、こんの馬鹿親っ!!!」

 

 がばっ、と顔を上げた詩音は、もう、羞恥やら怒りやらで、顔面が、完全に沸騰していた。

 

「私と圭ちゃんが、ど、どういう付き合い方をしようとっ、そんなの、こ、この解体の話とも、アンタらとも、一切関係ないでしょうがっ!!」

「関係あるさね!!そんなヘタレに園崎の命運を任せられるかってんだ!!」

「さっきと言ってることが真逆でしょうが!」

「やかましい!!なにより可愛い孫の顔が、いつになるかって話だろうがっ!」

「気が早いにも程があるでしょっ!?」

 

 気が付けば、ついさっきまで、あんなにしんみりと。母と娘の、静かな和解があったってのに。今や二人は、額を突き合わせて、けたたましく怒鳴り合っている。

 

 葛西さんが、やれやれ、というふうに、肩をすくめた。親父さんと宗石さんは、慣れたもんで、のんびりと茶をすすっている。

 

 園崎の未来を決めるはずだった、神妙な話し合いの席は。いつのまにか、賑やかで騒がしい、いつもの園崎にすっかり戻っていた。

 

 

 

 ──まぁ、そんな一週間前の夜を経て。就任の日を迎えたわけだ。

 

 解体、というひと言が落とされた直後。狼狽と、悲壮と、押し殺したため息の満ちたあの重い広間へ。うなだれる古参たちの、そのまんなかで、詩音は、変わらずまっすぐに立っていた。

 

 その、凛とした声が、もう一度座を渡る。

 

「皆さまには、長らく園崎の名の下で、力を尽くしていただきました。その一つひとつに、心から、御礼を申し上げます」

 

 深々と詩音が頭を下げる。その光景に、古参たちが戸惑ったように顔を上げた。

 

「これからは、園崎という大きな傘は、なくなります。心細く、或いは悔しく思われるかもしれません。……ですが」

 

 顔を上げた詩音の表情には、もう悲壮の色はなかった。むしろ、どこか晴れ晴れとした、いつもの顔で。

 

「どうか、忘れないでください。皆さまが、この土地に根を張って、汗を流して、築き上げてきたもの。その力は、園崎の看板がなくなったって、これっぽっちも、消えたりはしません」

 

 その言葉は、不思議とあたたかかった。突き放すのでも、憐れむのでもなく。ただ、まっすぐに信じているような。

 

「看板を下ろしたその先で。皆さまが、それぞれの場所で、それぞれの道を、力強く歩いていかれることを。私は、心から信じています」

 

 それは、園崎家最後の当主が。その、たった一日の家臣たちへ贈った、餞の言葉だった。

 

 古参たちの反応はといえば、バラバラだったように思う。

 ある者は、はっと顔を上げ、噛みしめるように、深く深く、頷いていた。長年の主家が下す、最後の言葉を。しかと受け取るみたいに。

 

 ある者は、まだうつむいたまま。膝の上で拳を握って、綺麗事だと言わんばかりに、唇を噛んでいた。看板を失う痛みは、そう簡単に、餞の一言で拭えるものじゃない。……それも、そうだろう。

 

 そして、大半の者は。受け取っていいのか、拒んでいいのか、その言葉を、測りかねるみたいに。ただ、複雑な面持ちで、詩音の顔を見つめていた。

 

 ……一枚岩にはならない。当然だ。長年の積み重ねを忘れるなんて、そんな、綺麗に割り切れるもんじゃない。

 

 それでも。

 

 詩音は、割れたままの視線を、全部真っ直ぐに受け止めていた。逃げも、隠れもせずに。誰に理解されなくたって構わない、とでもいうように。ただ、自分の信じた道を、最後まで貫き通したんだ。

 

 

 園崎詩音、園崎家当主。在任、わずか一日。園崎の家に、自らの手で引導を渡した、最初で最後の当主。

 

 

 ──こうして。園崎の家は、詩音の宣言のとおり、静かに、その幕を下ろしていった。

 

 あれから、二ヶ月。方々で様々揉めごとがなかったわけじゃない。それでも、茜さんや親父さんらの尽力もあって、なんとかその畳み方は、落としどころへと収まっていったように思う。あの晩、大人たちが約束したとおり、後始末は、ちゃんと、彼らが引き受けてくれたのだ。

 

 そして──家を失い、当主の座も、たった一日で降りた詩音は。

 自らに、勘当を課した。

 

 かつての茜さんと、同じように。園崎の家から、足を洗い。何の後ろ盾もない、ただの一人の女の子に戻ったのだ。

 

 

 あ、そうそう。俺たちが住んでたのは園崎所有のマンションだったが、形だけとはいえ勘当の身ともなれば図々しくそこに住むわけにもいかない。ということで、茜さんが個人的に持っていた、興宮の古びた一軒家に身を寄せることになったのだ。二人暮らし、にしてはやや大きい一軒家だが、茜さん曰く「孫が出来たら一軒家くらい必要だろうに」との事で。

 詩音がもの凄い勢いで何か反論していたが、それは瑣末な問題だろう。

 

 ……で。今の俺はといえば。

 

「圭ちゃーん、お皿並べてください」

 

 詩音の間延びした声で我に返る。台所では、あいつが、鼻歌まじりに、朝の支度を続けている。

 

 園崎詩音。次期当主候補でも、園崎家当主でもない。ただの一人の少女で。俺は彼女個人を守る“付き人”であり、恋人だ。

 その、憂いのない背中を眺めていると。なんだか、無性に、愛おしくなってきて。俺は、のそのそと、そっちへ足を向けた。

 

「はいはい、ただいま」

 

 俺は、食器棚から茶碗を二つ取り出して、ちゃぶ台へ運ぶ。箸を並べて、二人ぶんの膳を整える。台所からは、詩音が、皿を手にやってきた。

 向かい合って、膳につく。

 

「いただきます」

 

 二人で手を合わせて、箸を取った。

 ……が。詩音のやつ、箸を持ったきり、一向に動かない。半分閉じかけた目で、こっくり、こっくりと、船を漕いでいる。

 

「おい。寝るな。飯の途中だぞ」

「……ん。寝てません。目を、瞑って味わってるだけです」

「新手の食レポか」

 

 こつん、と箸の先で、詩音の茶碗のふちを小突いてやる。びくっ、と肩を跳ねさせて、あいつは、ようやく薄目を開けた。

 

「……だいたい、圭ちゃんが悪いんですよ」

「は?なんで俺?」

「昨日の夜、ぜんっぜん、寝かせてくれなかったじゃないですか」

 

 ……ぶっ。

 

 俺は、危うく、味噌汁を吹き出しかけた。

 

「お、おま……っ、人聞きの悪いこと言うな!一緒に寝ただけだろ!?」

「おやぁ?何がどう解釈すれば人聞きの悪いことになるんですかねぇ?」

「あのな……大体腕枕せがんできたの、そっちだろうが!」

「あら。私は『一緒に寝たい』とは言いましたけど。『腕枕しろ』とは、一言も」

 

 しれっと言って、詩音は、やっと箸を動かしはじめる。……くそ。どうにも、こいつには、口で勝てた試しがない。口先の魔術師と呼ばれていたあの頃の俺が今の俺を見たら幻滅するだろうか。

 

 それでも、まぁ。こういう、なんてことのない朝が。俺には、たまらなく、ありがたい。

 

 少し前まで、俺たちの明日は、いつだって、薄氷の上にあった。園崎だの、竜堂会だの、跡目だの。俺たちの手の届かないところで、でかい歯車が、ぎしぎしと軋んでいて。この隣で笑ってる顔が、明日も無事だっていう保証なんて、どこにもなかった。

 

 今は、ただ、寝ぼけたこいつと、くだらねぇ言い合いをしている。それだけだ。それだけのことが、こんなにも。

 

「圭ちゃん?なに、にやにやしてるんですか。気持ち悪いですよ」

「にやにやしてねぇよ。……つーか、その『気持ち悪い』ってのワンパターンだぞ」

「じゃあ、キモい」

「退化してんじゃねぇか!つーかそれ本気でへこむからやめろ」

 

 くすくすと詩音が笑う。その、なんの憂いもない、晴れやかな笑い声が、朝の光に満ちた、この古い家に、よく似合っていた。

 

 窓の外では、ひぐらしが、まだ、鳴いている。

 なんてことのない、六月の朝だった。

 

 

 





九章開幕です。独自設定のオンパレードかつ、設定的に無理がある展開も出てくるかもですが、どうか温かい目で見守っていただけると嬉しいです。よろしくお願いします!
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