異世界でも常にゴロゴロできる昼行灯キャラを目指した〜い! Fairies in Wonderland 作:寄りみチーズ
··········ん?
あらすじ読んだ?꜀( ꜆-ࡇ- )꜆
面倒だから次からは説明しないよ··········⊂( ⊂ _⩊_ )⊃
あらすじはもう読んだ前提で見てね。
じゃ、ほんへだよ──────え?ちゃんとやれ?
··········それではどうぞ、本編をお楽しみください。
しっかりした作りの、重厚な扉を開く。
豪奢な飾りが施されたそれは、一見するとただの金の無駄のようにも感じられるが、実の所は他の貴族や兄弟への牽制だったりするのだと。以前にこの部屋の主は言っていた。
王侯貴族の価値観なぞついぞ分からなかった彼だが、それにしてももう少しやり方はあるのでは?……と、学のない自分ではそれくらいしか思うところはなかった。いやまあ、1人を除いてパーティーの他のメンバーも同じ感想を抱いたことだろうが。
ともかく、この先にいる人物はまあそういう身分であり、自分達は今回の依頼を達成したことを報告しに来たということだけ分かっていればいい。
どうせ貴族のあれやこれやなんかに巻き込まれるつもりは無い。……今回の依頼を受けた時点で、今後は否応にも巻き込まれそうな気もするが。
そうして今後のことを思案しつつメンバーと顔を見合せた後、思い切って部屋に入る。何回入ってもこの瞬間だけは緊張するのだ。
……いや、この瞬間だけではない。
部屋に入ってすぐ、目に入るのは。
まっすぐ下ろした滑らかな黄金の長髪に、凛とした雰囲気を感じさせる立場やカリスマある人間が持つ、特有の吸い込まれるような瞳。瑞々しく柔らかな感触を思い起こさせる薄桃色の唇は、どんな果物よりも甘いだろう。綺麗に通った鼻筋は精巧な作り物を思わせる。まさに完璧とも言える
しかし、どこか幼さと可愛げも感じさせるその顔はまさに魔性であり、彼女の華奢で折れてしまいそうな細身の身体と、絢爛でありながら可憐なその身に纏うドレスが合わされば、なるほど確かに。まさしく“傾国の美女”だろう。
……いや、彼女の年頃であれば美少女のほうが適切か?
ともかく、そのような人物に自分達が依頼されたということが未だ信じきれず、半ば現実感を失って夢見心地になりながらも、首を振り正気に戻り、止めていた足を動かして一歩踏み出す。
その間決して見惚れていたとかではない。
しかし一歩踏み出して部屋の中に入れば、すぐさま非現実へと引き戻されてしまう。
何故ならこの部屋も入り口の扉と同じように、そしてここまで来た宮殿の内装と同様に豪華絢爛な装飾が施されていて、その眩しさが自分達を出迎えるからだ。
ピカピカに磨かれているであろう、輝く金色に見える床や壁に天井。整えて置かれた調度品に、綺麗に並べられた本棚。美しさを感じるテーブルや椅子に加えて、その上には優雅なティーセット。少し奥の部屋へと目をやって見れば、ありきたりすぎるだろう天蓋付きのドでかいベッド。
まさしく、窓の傍にある椅子に座っている彼女も合わせれば、「お姫様の部屋」という言葉が余りにもぴったりすぎる程の場所。それが、自分達が踏み込んだ領域だったのだから。
相変わらずの別世界に、さしもの俺も動揺してしまう。以前にも何度か訪れているというのにだ。これで彼女の部屋はまだ控えめに飾ってもらっているというのだから驚きだ。
かのバンダースナッチ相手にですら臆することなく勇敢に立ち向かったアンバー級冒険者の俺達でさえ怯えさせるとは。いや、恐ろしいものだ。高貴な方の───それも執務室ではなく私室と捉えて相違ない───部屋という場所は。
なんてことを考えている場合では無い。早く彼女に報告しなければ……
──────そう、改めて彼女に向き直ろうとしたとき。
「あら、どなた⋯⋯?──────なんて、ふふ。
もう既に会ったことがあるというのに、失礼でしたわね」
「……っあ、あー。いや」
その声は、少し言葉を発しただけで人を心まで魅了して余りあるものだった。
鈴を転がしたような可憐な姫に相応しいような声色でもあり、まるで妖精女王の調べかと思うほどの旋律を奏でる美しい彼女の声は、一つの美麗な音を奏でる楽器のようだ。話しかけられたのが急だったこともあり、思わず返答に詰まってしまう。
「ちっ……何見蕩れてんだ。薄情者め」
なんだか仲間からの盛大な罵倒が聞こえた気がするが。気にしないでおこう。俺の耳は最大600MAK先の物が落ちた音まで聞き取れるのだが、今回は上手く聞き取れなかったのだ。どうやら仲間達は特段緊張してはいなかったらしい。変にガチガチになっているのは俺だけだったようだ。
まあ、それならそれでいい。マナーも何も知ったこっちゃないがこちとら依頼の成果をめでたく持ち帰って来た冒険者だ。大手を振って向き合おうじゃないか。
彼女は俺たちの少し離れた目の前まで歩み出ると、一人一人と目を合わせ確認するような素振りを見せた後。
「改めまして。よくぞ戻ってくださいました、冒険者様方」
恭しく綺麗なお辞儀(
「フェルヴェチカ王国第2王女、リユリリィール・ハナシア・レアクルス・ライゼネスト・フェルヴェチカですわ。
全員ご無事で何よりです。皆様の無事を祈っていた甲斐がありましたわ。···············神に感謝、ですね」
そういう彼女は少し照れくさそうに言うものだから、自分はもう完全に目を奪われてしまった。だがこれは仕方の無いことだ。
こんな美少女に「よくぞご無事で」なんて言われて喜ばない男は居ないだろう。男冥利に尽きるというものだ。
「・・・・・・」じーっ.....
ましてや、竜を倒して財宝を見つけ、最後には助け出した姫に惚れられ城を後にするなんて、誰もが夢見る冒険譚だ。よく堅物と呼ばれる自分でさえ、その手の話を一度も夢見なかったかと言えば嘘になる。まあ、今回倒した魔物は竜では無いのだが。それほど危険な仕事でもあったということだ。
ゲシッ
「いてっ··········」
なんかまた、今度は後ろから蹴られたような気がするが。気にしないでおこう。
いやなんで蹴ったんだよ俺の考えてること分かったのか?闇占い師か何かかよ··········?
「・・・・・・・」ギロッ
···············あとが怖いなぁ。
「あの、どうかされましたか?」
「い……いえ。何でもありません。
自分、少し集中力が切れていました。王女様の前でこの体たらく、面目ない」
「いえいえ、いいんですよ。
皆様冒険から帰ったばかりでお疲れでしょうし。ゆっくりなさってください。ここは確かに王宮ではありますが、だからといって皆様を縛ったりはしませんわ」
ほら、おまけに人柄も良いと来たもんだ。いよいよこれでまだ婚約者が決まっていないというのだからさらに驚きだ。いや、この方に釣り合う男が居ないだけかもしれないが。
「そうですわ。丁度いい時間ですし、皆様の休憩も兼ねてティータイムにいたしましょう。メイド長、お茶の用意をして下さる?彼らの分もお願いします」
「かしこまりました」
気を遣わせてしまった。申し訳ないと思いつつ、彼女と侍従に礼を言い頭をさげる。気にしないでとはにかむ王女は、やはりどんな芸術品よりも美しいと言えるだろう。
「・・・・・」チャキッ.....
おっと、そろそろ早いとこ報告を済ませないと、うちのパーティーの堪忍袋の緒が切れそうだ。それだけは踏んではいけない竜の尾だからな。うん、気をつけよう。なるべく。
そうしてティータイムの前に軽い報告を済ませようと、先程彼女が座っていた椅子とテーブルの近くまで全員で移動し、席につこうとしたところで──────強い違和感を覚える。
バリッ、モグモグ
先程までの絢爛さなどとは比較にならない違和感。というか先程からずっと感じていたしわかっていたのだが、半ば無視していたのだ。うん。
ビリッビリッ、パキッ、ポリポリ
なんでこんな事になってるんだとか、どう考えても可笑しいだろとか。言いたいことは色々あったが、それよりも何よりも。
彼女という素晴らしい存在と、見れるだけで一生分の価値があるようなこの部屋が、
フワフワ··········ゴロゴロ
そう、それはまるで優美な絵画にひとつだけ垂らされたインクの染みのように、この部屋に不釣り合いな雰囲気を醸し出しており。
その仕草と体勢と雑音は、まさにこの素晴らしく綺麗に整っている空間をぶち壊すのに値する代物だ。
おそらく、十人中十人がその光景を見れば不審者として即刻つまみ出しているだろうそれ。しかしこの場においては、そんなことは出来ない。
なぜならば、どうにか見ないようにしようとさっきから視界の端に追いやっている
─────────この、お菓子を寝っ転がりながらだらしない顔で貪っている、
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
「ふぁ〜ぁ、..........んぅ〜。眠い、非常に眠い」
主に先日の肉体労働が大変すぎて、休んでいる今でもちょっと影響が出ている。いやぁ··········あれは恐ろしかったなぁ。
久々に全力出したからしばらく筋肉痛で動けねぇ··········
まあそんなことはさておき。
「あ゛ぁ゛〜し゛あ゛わ゛せ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛〜〜〜」
今はお気にのベットでゴロゴロできる最高で至福の時だ。
世の中いろんなことがあれど、こうやってベットでゴロゴロして寝る時間があれば人類なんてみな幸せなんだから。
···············まあその幸せすら、前世今世問わす掴むことが難しいのは一旦置いておこう。せっかくの休息の時間なのに嫌な気分にしかならない。
「………ふふっ」
そんな自分の落ち込んだ気分を知ってか知らずか。
隣の優しい手が自分の頭に伸びてくる。それを抵抗することも無く受け入れれば、その優しい力強さのまま頭を撫で始める。
「んぁ〜〜/////」
あぁあぁあぁ〜〜〜
気持ちい〜。前世ではあんまり無かったから気づかなかったけど、人に頭を優しく撫でられるのってこんなに気持ちいいんだなって思ったよね。今世から初めて知ったことの中で有意義なものの一つだ。
そんな幸せオーラがバリバリに周囲に放出されている素敵空間で、落ち込んだ気分を解消してしばらく微睡みに浸っていた。
もしかしたらこれこそが、今世での最高の状況かもしれない。
「··········ん?」
と、久々のゴロゴロタイムを噛み締めていたのだが。そこそこの時間が過ぎた所で、だらしなくぐてって横たわった顔をふと上げると、人の気配を感じる。
トロトロに溶けきっていた意識と自我が澄み渡り、段々と真面目な思考回路が働いていく。
全く………せっかく至福のときを噛み締めていたのに。
誰だ?この空間に近づこうとする愚かな人間は?
いや、おれも人間なんだけども。
──────んー?……ああ、この間の冒険者パーティーのリーダーじゃん。何しに来たんだろ?何か用あったっけ?
確かお姫様のスケジュール的に、今日はもう外部の来客は無かったはずなんだけどな。だからわざわざ私室でゴロゴロさせてもらっていたと言うのに。
「あら、酷いですわ。貴方が依頼したものを、私か仲介してさしあげたのに。もう忘れるなんて、彼らが可哀想です」
ん?そういえばそうだったかな……?
ああ、思い出した。確か、バンダースナッチが居るから討伐してきて欲しいってお願いしたんだったか。
だって、あのバンダースナッチだよ?気にならないわけなくない?
だから出来ればその姿を模写してきて欲しいって頼んだんだけど、まー無理だろうなァ〜って。
どんな姿だけでも分かれば良かったんだけど、この分じゃあ妥協案の一部の素材の持ち帰りだけかな……。
いや、話を聞いてればそれが難しいことだってのは充分認識してるんだけどね?
討伐も捕獲も、ましてや模写も。全部の話だよ。
なにせ、最初に言われた時は驚いたよ。
なんとその戦力値1120。今までも見た事はあったけど、それでも1000越えってのは中々凄い。そこら辺の中ボスくらいかと思ったら、ゴリゴリに中盤以上の章ボスレベルで笑っちゃったよね。
ともかく、そんなわけでアンバー級冒険者の彼らにお声がかかった訳だけど、ぶっちゃけ彼らでも分の悪い勝負だったんじゃないかなぁと思っている。
なにせ、彼らは第5位等級の冒険者。
勿論その辺の雑兵とは一線を画すくらい強いけど、それでも最強無敵って程じゃない。一応例の中堅の壁とやらは超えているから頼りにはなるだろうけど、こと上位の魔物(それも推定幻獣)が相手じゃあねえ。
じゃあなんで彼らに頼んだのかって言うと──────
おっと、ひとまずはここまで。とりあえず、彼等を出迎えようか。
うん…………………でも、なぁ。
今日は出迎える気分じゃなかったし、やっぱりゴロゴロしてよう。
うん、そうしよう。応対は王女様が何とかしてくれるでしょ。
という訳で、お願いしま〜ス!
「はぁ………もう。しょうがないですね。一体どうしたらこんな子に育ってしまうのでしょうか。私は今から貴女の将来が心配です」
お母さんみたいなこと言ってる……………
だがしかし。引かぬ、媚びる、省みぬぅ!!!
というわけで、冒頭のようにアンバー級冒険者君達をドン引かせつつ、ゴロゴロタイムを継続したまま依頼の報告をお姫様の横で聴くことになったのでした。
めでたし!めでたし?
──────え?全然めでたくないって?……だそうです。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
とある高貴な人物の部屋で、幾人かの人の姿があった。
一人は、その部屋に相応しい気品を纏っており、正しく部屋の主として、窓際のティーテーブルの上座に着いている。(最も、部屋が広すぎて窓際という表現は的確ではない)
この国の王女である彼女は、それだけで絵になる。人数的には圧倒的に少ない側であるというのに。
いや、正確には見えない所に護衛が居たり、使用人が控えていたりするのだが。如何せん全てを冗談みたくしてしまえる存在が傍にいる為、彼らの役割はだいたいお茶とお茶菓子の追加を持ってくる事くらいである。
それに相対して座るようにするのは、3人。その後ろに、さらに2人が控えている。これは単に上下関係を表すものではなく、単純に椅子の数が足りないのと、交渉のテーブルに着くべき人物を彼等のパーティーは決めているからだ。
よって専ら後ろの2人は、荒事が起きぬ限りは大抵は見守るのみであった。
彼らは冒険者であるからして、貴族ではない。ならば、貴人が座れとも言わないのに座る道理は無いのだ。
そして、場違いにそのテーブル付近をフワフワウロウロしている者が一人。
それは袋に包まれた茶菓子を頬張りながら、話半分に彼らの会話を聴いている。
正直冒険者達の気持ちは、“さっさとどっか行ってくれ………”であったが、生憎とその存在は彼らが胸の内に抱える気持ちなど我関せずで、ただ周囲を漂うばかりであった。
まあ居ても居なくても変わらないか………と。
とうとう諦めた彼らは、依頼の顛末を話し始めた。
「まず最初に結果から報告させていただく。
例のバンダースナッチのことだが、無事討伐はした。
………ただ、相手が相手でな。手加減が出来ず、全力で戦ってしまった。
──────すまなかった」
そう言い、リーダーと思しき男が頭を下げる。彼の正面に座る王女からしても、見事に綺麗な礼であった。しかし、依頼不達成では困るのだ。
報酬を支払う以上、何かしら成果は欲しい。
そう思った彼女は、男の冒険者に問いかける。
「それについては問題ありませんよ。
顔を上げてくださいませ 、リクセン様。
先程も言いました通り、皆さんがご無事に帰ってきて何よりですわ。
…………ただ──────」
そう言いかけた彼女の言葉を止めるように、彼は徐ろに1つの革で出来た小袋から、ある物を机に並べた。そして次のように話す。
「ああ、ご要望通りの絵に類するものは用意出来なかったが………。
最低条件である討伐の証の素材は、ご覧の通り採ってきたぞ。
まあ、これをやったのは俺ではなく俺の仲間だから、そう偉そうに言えることでもないんだがな………」
そんなことわざわざ言わなくていいのに………と彼の隣に座る仲間の女性は心の中で思いながら彼に視線を投げかけるが、やがてやれやれと首を振ってその居住まいを正した。結局、わざわざ言うことでもないだろうと考えたらしい。
その様子を見て仲間たちはいつもの光景だなぁ………と思うなどしたが、彼らも同様に口を閉ざした。彼らもまたわざわざ言うべきではないと思ったからだ。何より、王女の御前であるからして。
そんな王女であるが。
まあ、と手を口に当てて感情を表す彼女は、早速手に取って確かめ始める。
一応、偽物でないかを確認しておく必要があるからだ。
彼女は物品や素材を鑑定する技術を会得しており、数少ない王女らしくない趣味である。もっとも、周囲がそう言っているだけで、彼女自身は自分に相応しい特技だと自負しているようだが。
ちなみに。王女は勿論、素手ではなく手袋をしている。
それも、王族が身につけるような透き通った上品なものではなく、街中の鑑定士が使うような無骨な、しかししっかりとした鑑定用の手袋だ。
来る直前までそのことを忘れていた何処かのバカと違い、彼女は撫でていた時から何時でも手袋を替えられる用に椅子のすぐ傍に用意していたのだ。
用意周到である。何処かのバカも見習って欲しいものである。
そんなワンシーンから暫くしてようやく、「ふう」と息をついた王女が張っていた気を弛緩して、素材を丁寧に革袋の中に戻した後、手袋を外した。
その満足気な顔を見る限り、どうやらお眼鏡に叶ったようだと、冒険者達は安堵していた。
王女と冒険者が和やかに報酬の話をし始めた所で、隣で浮いているフワフワゴロゴロに戻っているヤツは、殊更興味無さそうにその話を聞いていた。
それでも一応話を聞こうとはしているあたり、まだ自分が大元の依頼主であるという自覚はあるらしい。まあ実際は王女を介して城からの依頼という形を取っているので、遠回りもいい所だが。
何故依頼がこんな形態になっているのか。そもそも何故城や王女はこのような依頼を仲介したのかと思うだろうが、実は割とそれをするメリットはあったりするのである。
まあそれは、また今度の話になりそうだが。
尚、冒険者達は真の依頼主がそこのフワフワしてる奴だとは知らされていない。特にリーダーらしき男は、いやもちろんパーティーメンバーは皆んなそう思っているのだが、王女の方が城を通して自分達に個人的に依頼をしていると思っているのである。まことに哀れである。
ともあれ、話しは纏まり今回の依頼については決着が着いたようだ。
冒険者達は約束通り規定の報酬を受け取る為の印付きの小切手を得た後、足早に………ではなく。きちんと礼をもって扉前まで歩いていった。
彼らに作法の知識はそれほど無いが、常識は持ち合わせていた。
それが、アンバー級の冒険者というものであり、この程度の冒険者は良識を持ち合わせているという証明でもある。
と、彼らが部屋を去るのを手を振って見送る王女。彼らはそれに気を良くしながら(若干名、気を悪くしながら)その場を後にしようとしていると。
「──────ああ、待って。……………来たね」
突如、先程まで寝っ転がった体勢でダラダラしていたとは思えないほど。
ピンと背筋を伸ばして、浮きながらも窓の外の景色を見つめる存在が一人。
急な発言に、すわ何事か!?と驚く冒険者達。しかし彼等よりも先に、その事態を重く見たのは、王女の周囲に潜む護衛たちであった。
すぐさま飛び出せる厳戒態勢を取った護衛が王女の目に入らない角度に控え、合図を待つ。一方、件の王女は目を見開き、信じられないような目でその存在を見つめていた。
「来ると言うのですか?──────貴女でも手に負えない程の相手が?」
「いんやー?でも、気をつけた方が良いかもね。ちょっと厄介そうだから」
突然の雰囲気の豹変に、冒険者達は驚きが止まらなかった。彼の一言で護衛が即座に集結した事もそうだが、何より。
普段から見る例の存在とは似ても似つかないその振る舞いに、本当に同一人物か?と疑わざるを得ない様子だった。
ゴロゴロしているのにそういうのだけはしっかり察知するのは、一体何なのか。だが察知したにも関わらず、彼(?)はその体勢のまま動く気はゼロのようで··········
「うーん。
………なんか全然来ないな。
めんどうな〜───」
次の瞬間、さっきまで張り詰めていた空気が嘘のように、その存在は蕩けた。
は?と思わず呟いてしまったのは誰だったか。
あまりの百面相っぷりに皆が目を白黒させていると、その存在はあろうことか。
──────部屋にあるソファに寝っ転がって、その上から毛布をかけ始めた。
「いや、いや。
いや───いやいやいやいや!?!?
待てーーーーーい!!!?!!?!!」
完全に寝る体勢に入っていた。
もうなんか許すとか許されないとかそういう次元じゃない振る舞いに、とうとう我慢の限界になった冒険者の1人がそう叫んだ。だが、無理もないだろう。誰だってこんなの見たらそうする。私だってそうする。
そもそも、実は彼(?)が今居るのは、普通に部外者がゴロゴロしていたら存在ごと消されるようなやんごとなき部屋だったりするのだが。
そんなの関係なく、なんかほっといたら勝手に死刑になりそうな事を連発しているのがあの存在であった。何なのだろうこいつは。
こんな場所に居ればどんな人であろうと、危機を察知すれば自然と、すわ何事か?と飛び起きるものであるが、少なくとも彼にとってはその事実さえ、今この瞬間のグータラより優先すべきものとは捉えられないらしい。
「よく死ななかったなコイツ」とは、彼(?)彼女(?)を知る友人の談である。
その後、結局襲撃やそれに類する何かは起きなかったが、薄ら寒い気配を一瞬だけ冒険者達も護衛達も感じた為、全くのホラでも無いことを知覚した王女により、しばらく厳戒態勢が敷かれることとなった。
尚、当の騒ぎの本人は呑気に眠りこけていたのだが、何故かお咎めは無しだったそうだ。
本当に、本当に。
何なんだこいつは──────。
そう、冒険者達の気持ちが1つになった瞬間なのであった。
───fin?───
壮大に何も始まらない1話。
次からは話動くから………多分。