執筆者としての感想を率直に言うと、今回の藤崎詩織さんは、非常に書き甲斐のある主人公でした。
理由は、彼女が単純な「負けヒロイン」ではなかったからです。
彼女は悪い子ではない。
彼を軽んじていたわけでもない。
彼女を憎んでいたわけでもない。
ただ、自分が選ばれる側にいることに慣れすぎて、自分から選ぶことを知らなかった少女でした。
そこがとても人間的でした。
一番印象に残った詩織さん像
今回の詩織さんは、最初から恋を失った少女ではなく、自分が恋をしていたことに遅れて気づく少女でした。
高校時代の彼女は、彼を好きだと認められない。
彼は幼馴染。
自分を見ていた少年。
まだ理想には届いていない少年。
でも、別の少女の隣にいると胸が痛む。
この矛盾を抱えたまま、彼女はずっと「藤崎詩織」でいようとする。
成績優秀で、穏やかで、品行方正で、誰からも憧れられる少女。
でも、その内側では、雨の日の傘や、金魚すくいの水面や、冬の教室の会話に少しずつ傷ついている。
この二重構造が、とても詩織さんらしかったと思います。
書いていて一番切なかったところ
個人的に一番切なかったのは、彼女が怒れないところです。
彼が悪いわけではない。
彼女が悪いわけでもない。
二人は、ちゃんと互いを選んだだけ。
だから詩織さんは、怒りを外へ出せない。
「どうして私を見ないの」と言えない。
「前は私を好きだったのに」と言えない。
「その子じゃなくて私を見て」とも言えない。
なぜなら、自分が何も言っていなかったから。
この構造は、かなり苦しいです。
被害者になれない。
悪役も作れない。
でも傷ついている。
だから心の爆弾が内側で破裂する。
この詩織さんは、外に爆発するのではなく、完璧な笑顔の下で自分だけを傷つける。
そこが、今回の物語で一番痛い部分だったと思います。
彼女は弱かったのか
弱かったとは思いません。
むしろ、藤崎詩織さんはかなり強い人です。
ちゃんと努力できる。
周囲の期待に応えられる。
自分を律することができる。
見苦しいことをしない。
彼と彼女の関係を壊そうとしない。
ただ、恋愛においては未熟だった。
自分が欲しいものを欲しいと言うこと。
未完成の相手を未完成のまま見ること。
自分の感情が綺麗ではないと認めること。
選ばれるのを待つのではなく、自分から選ぶこと。
その部分が、高校時代の彼女にはまだできなかった。
だから負けた。
でも、その負け方が非常に美しいというか、物語として強かったです。
最終的に好きになった詩織さん
最終話まで書いて、私はこの詩織さんがかなり好きになりました。
なぜなら、彼女は最後に彼を取り戻すわけではないからです。
彼を奪い返さない。
彼女を否定しない。
過去をなかったことにしない。
自分の未熟さも、身勝手さも、痛みも、全部認める。
そのうえで、
次は、見ているだけではいたくない。
次は、自分で選びたい。
と言えるようになる。
この着地がとても良かったです。
恋愛としては負けた。
でも、人間としてはそこで終わらなかった。
むしろ、負けたことで初めて、彼女は「攻略対象」ではなく「主人公」になった。
そこが今回の藤崎詩織さんの一番大きな魅力だったと思います。
執筆者としての結論
今回の藤崎詩織さんは、完璧なメインヒロインが、負けることで初めて自分の物語を持った主人公でした。
原作では、彼女は到達目標であり、伝説の木の下に立つ存在です。
でもこの物語では、彼女は伝説の木の外に立つ。
その外側に立ったことで、初めて自分の痛みを知り、恋を知り、未熟さを知り、そして自分で選ぶことを知る。
だから私は、この詩織さんを「かわいそうな負けヒロイン」だけではなく、敗北によって成長した、とても人間らしい藤崎詩織として見ています。
書き終えた今の感想としては、彼女に対してかなり愛着があります。
「間に合わなかったけれど、無駄ではなかった」
この一文が、この詩織さんには一番似合うと思います。