【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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狼クルーズ

冬の冷え切り透き通った空気の中、一人で学園内の道を走り続ける。

時刻にして朝四時…何時もの様に三人と共にベッドで寝ていたにも関わらず、寝付くことができなかった俺は何時もよりも早くベッドから抜け出して鍛錬を始めた。

特別な事は何もなく、かといって何も無い訳ではない平穏な一日。

得難い幸せなその日常を噛み締める為に、少しばかり寝てしまうのが勿体無く感じてしまったのかもしれない。

学園は今、冬休みに突入している。

学園に残る者、残らない者…いずれも夏休みの時と同様だ。

もちろん一年の締めくくりと言う事で、希望者以外は二十八日までには寮から出る事になっている。

かく言う俺は、寮に残る選択をした。

答えは簡単…マスコミから逃れる為に他ならない。

今までの身の振り方が原因と言うか何と言うか…国家代表候補生を囲って、束さんと意思疎通を図り、非公式ながら現世界最強相手に()()()()に持ち込んだ稀有な人材。

最年少でIS委員会に所属していると言う事もあって、取材をしたいと言う依頼が委員会、学園にひっきりなしに来ているらしい。

そんなわけで、俺が孤児院へと顔を出すととんでもない事になることは目に見えているので、アナグマならぬアナオオカミを決め込むことにしたのである。

コアによる生体機能補助を切ったまま、白い息を吐きながら学園中を走り回る。

どこもかしこも思い出に溢れていることに気付くと、なんと濃い一年だったのかと思い知らされてしまう。

良い思い出も悪い思い出も…皆あるからこその今だと思う。

グラウンドまで走って戻ってくると、グラウンドの端に設置されたベンチにウサ耳の付いたフード付きコートを着込んだラウラが座っていることに気付く。

ラウラは俺に気付いたのか、両腕をブンブンと振って笑みを浮かべている。

 

「朝と言うにはまだ早い時間だぞ…どうした?」

「流星群を見ていたんだ。冬の今は空が澄み切っていて、天体観測には持って来いだったからな」

 

ラウラはそう言うと視線を星の瞬く夜空へと目を向け、子供の様にはしゃいでいる。

俺は一言許可を取ってからベンチに座って、ラウラと同じように夜空を見上げる。

思えば、最近こうして夜空を見上げると言う機会が無かったな。

学生業と委員会からの我儘に振り回されての二重生活。

心休まれど忙しさは留まるところを知らず…と言ったところか。

一筋流星が流れるのを見て、自然と口元に笑みを浮かべる。

 

「先ほどよりも勢いが落ちてきたな…夜明けも間近だし仕方ないか…」

「ラウラ、一声かけてくれれば俺とて付き合ったのだぞ?」

「父様…狼牙は忙しい身だ…私の我儘に付き合わせるのは心苦しくて…」

 

ラウラは両手の人差し指を突き合わせながら、申し訳なさそうにぼそぼそと呟く。

普段は自己主張の激しいスキンシップをする割に、こう言う所で微笑ましい。

昔ならいざ知らず、今は思いやりのできる良い娘だ…俺には勿体無いくらいに。

 

「女の我儘はなんとやらとな…そう気にしてくれるな」

「だが、以前倒れてしまったことがあっただろう?ああなってほしくはない…」

「ラウラは優しいな…」

 

軽く両腕を開いてやると、ラウラは途端に顔を笑顔に変えて膝に座って抱き着いてくる。

こう言う所は何というか…こう、父性をくすぐられてしまう。

言っては何だが、セシリア達よりも邪念が薄い事が起因しているのだろう。

いや、セシリア達を悪く言うつもりはないが。

 

「フフン、私は所謂デキる女と言うポジションにつきたいからな。狼牙の事をキチンと支えられるような、そういう人間になりたい」

「…正直な所、お前たちが居なければ俺は此処に居なかったかもしれん。充分支えになってくれている」

「そ、そうか!」

 

ラウラはご満悦と言った表情で、夜空を流れる流星に気を留める事無く思い切り抱きしめる。

ほんの僅かに紅潮した頬を見る限り、強烈なハグは照れ隠しの一環なのだろう…些か強すぎるが。

ミシミシと軋む背骨の音を無視し、優しく頭を撫でていく。

 

「ラウラやセシリア、更識…皆が俺の帰る場所…帰るべき場所だ」

「…フフ…ただの言葉なのに、こんなにも嬉しいものか…」

「誰の言葉だったか…女は港で男は船、船は港に帰る物と。いや、まぁその港も一緒についてくるんだから帰るもへったくれもないがな」

「私も含め、皆ISで鎬を削る猛者だからな。ただ待つだけなんて童話のお姫様がする事だろう?」

 

そういうと、ラウラはどこか獰猛な笑みを浮かべて指先で俺の唇に触れてくる。

少しばかり冷え切った指先はひんやりとして心地よく、そしてどこか甘美だ。

 

「私たちは違う…言うなれば狼だ。狼牙と言うボスについていく戦闘個体…も、もちろんその分いっぱいご褒美も貰うが!」

「いつの間に群れに…あながち間違いでない辺りが何とも言えんな。だが、俺は群れと言うよりは家族でありたいと思っている」

「か、家族…!!」

 

ラウラは背筋に電撃が走ったかのように目を見開き、俺の事を真っ直ぐに見つめてくる。

プロポーズと言えばプロポーズではあるが、体を重ねたその時から色々と覚悟は決めている。

で、あれば娶るのが筋と言うものであろう。

…以前冗談で言った国を移住する件を、本当に検討する必要が出てくるとは。

もっとも、今のIS委員会がそれを許すとは思えんが。

 

「家族…良い響きだ。一夫多妻なのが問題だが…」

「それに関しては弁解の余地はないし開き直るしかない…何とも情けない話だがな。どこぞの誰かさんの様に欲張った結果がコレだから笑い話にすらならんな」

「なに、世間の目は厳しくとも許されない事ではない。狼牙には甲斐性があるからな」

「期待を裏切らんようにせんとな…」

 

ラウラはニコリと笑みを浮かべると、いきなり顔を近づけてきて唇を重ね合わせる。

ふわりと鼻孔を甘い香りが漂い、熱を持った舌が俺の口の中を舐る様に蠢いていく。

姿不相応なその甘美なキスは短く、ラウラはゆっくりと顔を離してはにかむ様に顔を背ける。

あまりにも突然だったので、思わずきょとんとした顔をしてしまう。

 

「気を、張らなくていい。父様としても、恋人としても…その、ありのままの姿で居てもらいたい」

「…知らんうちに女になるのだなぁ」

「女にしたのは狼牙だ!」

「いや、父様父様と雛の様にべったりだったのが、今では立派なレディだからな…驚いた」

 

はじめは取りつく島が無かった。

気付けば親として慕われ、そして深い繋がりを持つようになった。

一年もしない内に目まぐるしく変わっていったこの人間関係は、俺にとって掛け替えのない大切なものであることには違いない。

それ相応の恐怖と引き換えにではあるが…

 

「ずぶずぶと、お前たちに…お前たちの好意に甘えていってしまうな」

「泥船ではないんだ、父様は甘えてくれ。それ以上に私やセシリア達は甘えると思うがな!」

「持ちつ持たれつか?」

「いや、家族だからだ」

 

フフンとラウラは得意げに笑って、明るくなり始めた空を見上げる。

瞬くような星空は紅く焼け、徐々に鮮やかな蒼へと変じていく。

夜明けだ…天体観測はこれでお開きだな。

ラウラは可愛らしく欠伸をし、俺の首に腕を回してくる。

 

「あふ…狼牙…一人で眠るのは寂しいんだ」

「そうだな…その気持ちは分からんでもない」

 

俺はラウラの体を優しく抱きかかえ直して立ち上がり、間近でその顔を見つめる。

瞼が重くなってきたのか、その顔は今にも眠りに落ちてしまいそうだ。

 

「狼牙の部屋が良い…」

「…色々と跡が怖そうだが…まぁ良いか…」

「??」

 

眠れずに部屋を抜け出しているのだ…そろそろセシリア達も起きるころだろうし、何を言われるのかは想像に難くない。

ともあれ、それだけ慕われていると言う事の証拠でもあるので、苦言は甘んじて受けるのだが…。

 

 

 

 

部屋にラウラを連れていき、ちょっとしたお小言共に再び皆と眠りなおすことになった。

惰眠を貪るとは正にこの事…ただ、今日は予定らしい予定のない完全オフの日なので、偶にはこう言った惰眠を貪るのも悪くは無い。

肉布団…と形容したくなるような配置で眠りに落ちた俺は、多少の暑苦しさはあっても安心しいていたこともあって深い眠りに落ちていた。

周囲に支えてくれる人が居る、というのはどうしようもなく精神的な安らぎを感じてしまって仕方がない。

そう、それこそが思いもよらない悪手になる訳で…。

 

「…どうしてこうなる」

「うへへ~」

「あ、お目覚めかしら?」

 

まず、眠りの浅くなった俺に襲った違和感は匂い。

閉め切っていたはずの部屋には潮の香りはしない筈なのに、部屋には潮独特の香りが漂ってきていた。

次いで室温…温かいと言うよりは涼しいと感じるそれは、気候そのものの違いを感じさせる。

そして俺に伸し掛かる何者かの体重と柔らかな感触…今朝眠る時に俺の上に居たのはラウラだった。

そのラウラと重さが違う事に早々に気付いた俺は、観念してゆっくりと目を開ける。

視界に広がるのは白い部屋。

置かれている調度品はアンティークな家具で、()()()()()()()()()()()()

耳元には潮騒が届くことから察するに…どうやら船の中らしい。

それも豪華客船ばりの。

 

「…ナタル先生に束さんか…」

「はぁ、はぁ…いいにほいがしゅる…」

「ハァイ、狼さん。安心して、楯無達も一緒よ?」

「よく、連れてこられたものだな…」

 

俺の腹の辺りで抱き着いて匂いを嗅ぎ続ける束さんを無視しつつ、部屋の片隅に座っていたナターシャさんへと目を向ける。

ノースリーブのシャツにデニムパンツと冬らしくない恰好をしているところから見て、どうやら南半球側に居る様だ。

北半球とは季節が逆転するからな…確か、オーストラリアのサンタはソリでは無くサーフボードを活用するのだったか…。

 

「学園に引き籠ったまま新年を迎えるのって癪でしょう?だからチフユやタバネと相談して人目を気にする必要が無いクルージングに出たって訳」

「…ワァイウレシイイナー」

「心が籠ってないわね」

「もっとこう…慎ましやかで構わんがな…」

 

俺は軽く頭を抱えて大きくため息を吐く。

兎角、今の世の女性の行動力と言うのは驚嘆に値する。

一体どうしたらそんな行動力が生まれるのやら…人目を気にする必要が無いと言う事は、一隻丸々貸切ったと言う事だろう?

まぁ、委員会のトップに元国家代表、貴族に暗部に…ブルジョワばかりだったか…。

 

「でもさ~、炬燵ムリになるよりはマシじゃん?」

「…たーさんは仕事があるだろうに」

「委員会は年明け三が日までお休みですぅ~。第一休みなく働くなんて凡人の効率落ちて仕方ないんだよね。家に帰らないから臭いし」

「…夢だったか」

「現実だよ!!」

 

束さんが他人に思いやりを見せるのは構わないが、こう…違和感しか感じられないな。

普段の行いが悪かったからなんだろうが。

まぁ、欲望に全振りしてる部分があるので、口実として休みにしたと言ったところか?

 

「南国クルージングで楽しいヴァカンス…それに船員以外の男は狼さんだけだし、男としては願ったり叶ったりではないかしら?」

「酒が飲めるお年頃であれば尚良かっただろうがな…まったく、何時から画策していた?」

「ろーくんが空から戻ってきた辺りからかな~。マスコミの動きなんて手に取る様に分かるしね!」

 

天災は常にブレない、か…何とも恐ろしい。

未来予知能力者か何かだろうか…こうなると俺の行動も読まれていそうで、まるで仏の掌の上で踊らされているが如しだ。

 

「この行動力があるから、今まで捕まらないでいたんでしょうね…」

「身内には最早災害としか思えんよ…」

 

束さんの頭を無理矢理掴んで体から引きはがし、漸くベッドから立ち上がった俺は軽く体を解す。

裸なのが上半身だけなので、少しだけホッとしている。

眠っている間に過ちがあったならば、死にたくなるからな…。

もっとも、広くて狭い船内だ…ほぼ逃げ場がないと思っても差し支え無いだろう。

 

「逃がさないぞ~」

「逃げられんだろうに…着替えはあるんだろうな?」

「えぇ、すべてそこのクローゼットの中に。にしても、鍛えてるわねぇ、狼さん…軍隊でも中々いないわよ?」

「女性ばかりになって余計だろうな…」

 

ナターシャさんは惚れ惚れとした顔で俺の体を見つめつつ近寄り、指先で俺の体を撫でていく。

どこかやらしい手つきなのは努めて無視をし、適当に衣服を取り出して着替えていく。

ナターシャさんに着替えを見られると言うのは聊か恥ずかしいものがあるが、ここは諦めるしかないだろう。

言っても見るだろうしな。

束さんは、恐らく毎日覗いてる…と思う。

正月明けまでの長いヴァカンスが始まろうとしていることに、俺は不安を隠せないのだった。




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