やばい。神様...否。母さんと約束したことは覚えてる。
力が欲しくて、修行できる空間を作り出す箱をもらった。修行に耐えるために不老にしてもらった。この体をくれた。
で、得た力で何を為すのだったか。………不義理がすぎる!!!
ど、どうしよう。全能感なんてどっかに消えてしまった。
まて、考えろ。そもそも俺は何をしたかったのか。そう、悪いことだ。悪の親玉になるのだ。親玉ということはトップになるということだ。ならば恐らく魔族をまとめ上げ、支配するのだろう。それか皆殺しして孤高の支配者になるのか?
うーん。どっちも悪いことに違いはないか。
まぁ、間違えてたら母さんが教えてくれるか。一先ずこの世界を知るところから始めないとな。さぁ、強そうな奴はどこかなー?
………みーつけた!やっぱり魔力は嘘をつかないね。しかも2つもある!もうこいつらに決めてもらうか。皆殺しか否か。クーヘン、行きまーす!
……
…
もう、だめだ。ここまで頑張って逃げてきたけどもう逃げられない。追手はすぐそこだ。せめて、リリだけでも逃げ切らせないと…。捕まったら殺されるか、慰み者にされるかだろう。
幸い、あと1発分くらいの火炎槍を出せる魔力が残ってる。これで怯ませてるうちにリリを逃さないと。
「お姉ちゃん。それはダメ。言ったでしょ?私達はずっと一緒。それは死ぬ時までだよ。お姉ちゃんのいない世界なんていらないの。分かってるくせに」
驚いた。リリにバレているなんて。何も言ってないのにこの子は…。まったく。
「はぁ。そうねリリ。貴方は昔からずっとそうだった。いいわ。私達は一蓮托生。最後まで抗いましょう。そして華々しく死ぬの。どっちが多く殺せるか、勝負よ、リリ」
「そうこなくちゃ!私の水流槍からは誰も抜け出せないんだから!……。ねぇ、お姉ちゃん。大好きだったよ。ありがとう」
「私こそ、リリのことが大好きよ。愛してる。ずっと付いてきてくれて嬉しかったわ。だからごめんね。貴方の気持ちが分かっていながら、私はその気持ちを裏切るわ。どうか、生きて。幸せになって。私のたった一つの我儘を許してちょうだい、リリ」
そうして私は魅惑の魔眼でリリを操ることにした。魅惑の魔眼は魔力量が使用者よりも少ない者に対しては必ず効果を発揮する。腐っても姉なのだ。魔力量で妹に負ける道理はない。
「さぁ、振り返らず逃げるのよ。【呪われた大地】は何がいるのか分からないけれど、少なくとも追手が入れる場所ではないわ。大丈夫。貴方はこのララの妹よ。必ず幸せになれるわ。さようなら。私のリリ。愛してるわ」
「待って。待って待って待って。嫌っ!!やめて!!ひどいよ!一緒に死ぬって約束したじゃん!!お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!!」
酷なことを強いてしまった。恨まれるだろう。それでもやはり私にはリリを喪うことは耐えられない。私は魔眼に残り全ての魔力を送り込んだ。
「魅惑の魔眼よ。我が魔力に応え……」
魔言を言い終える瞬間に、口が開かなくなった。否、体の自由が効かなくなった。追手の仕業?
違う。この根源的恐怖は。目を離したら殺されることが嫌でも理解させられるこの感覚は。
魔王だ。
そんな筈はない。現魔王は今南東大陸にいるはずだ。こんな北の大地の端にいるわけがない。
ならばなんだ。この圧倒的な魔力は。世界が紅く染まるほどの魔力を垂れ流しているこの男は誰なんだ!!
「お話中ごめんね!ちょっと聞きたいことがあってさ!今って時間大丈夫かな?」
言葉をうまく理解できない。見上げるほどの長身。息を呑むほど美しい銀髪。鋭い八重歯。漆黒の翼に長くしなやかな尻尾。そして極め付けは吸い込まれそうなほどに紅い眼。
全てを滅ぼす、吸血鬼と呼ばれる存在が、気づいたら目の前にいた。
「あ、あれ?おーい?見つめてないで何か喋って欲しいな?てか待てよ。そもそも言葉が通じない可能性あるよな?え、えくすきゅーずみー?へるぷみー?」
ここから生き残る可能性は…ない。リリを逃がす策も…ない。万策尽きている。ならばやることはただ一つ。この吸血鬼に私達の生存を認めさせる!
「し、失礼いたしました。貴方様の美しい眼に囚われてしまい、声が出せませんでした。お見苦しいところをお見せしたこと、謝罪いたします」
「あ、良かった。言葉は通じるのね。てかまだ幼いのにお世辞が上手いね?じゃあ、早速なんだけど、この世界について知りたいんだよね。あと今後の俺の方針も出来れば決めて欲しいなーなんて。どこかゆっくりできるとこないかな?てかこれナンパじゃね?違うぞ、俺はロリコンではない。本当だ」
意味がわからない。意味がわからないが、対話の意思はある。これは勝機だ。
「貴方様の望むままに私達をお使いください。私の全てをお伝えいたします。場所もご用意いたします。しかし、誠にお恥ずかしながら私達は追われの身。矮小な私達では、貴方様の後方にいる咎人どもを掃除することすら叶いません。然るに、お手を煩わせることとなり申し訳ないのですが、貴方様の力の一端を、私達姉妹にもお見せいただけませんでしょうか」
これしかない。上位者に意見を物申し、あまつさえお手を煩わせるなど、即刻斬首ものだが、これが最善でしょう。
「もちろん。タダで教えてもらおうなんて思っちゃいないさ。そんなことで良いなら喜んで。自分の力を知る良い機会だし、肩慣らしと行きますか」
そう言って、目の前の吸血鬼は後ろを向いた。
「えーっと、29人か?随分多いね。何したの君達。まぁ、君達の方が強そうだし、なんでもいっか。えい」
……私は夢を見ているのだろうか。吸血鬼が右手を挙げた瞬間に火炎槍が29本空中に生成された。同時に29本なんてあり得ない。天才と呼ばれた私ですら10本程度しか出したことがない。おまけにほぼ無詠唱だ。
「ね、ねぇ。お姉ちゃん、私の目ってとうとうおかしくなったのかな?私には現魔王よりもこの人の方が強く見えるんだけど」
「リリの目はおかしくなんてないわ。強いて言うならこの人がおかしいわ。もう意味が分からない。私ってまだまだ弱かったのね」
リリも驚いている。そんな会話をしているうちに「えい」とかいうふざけた掛け声と共に放たれた、これまたふざけた威力の火炎槍が追手に着弾していった。
叫び声すら聞こえない。完全な絶命。灰の一掬いすら残さない。冷酷無比な攻撃はそんな結果をもたらした。
「これで君達の依頼は達成したわけだ。次は俺の番だね。この世界と君達のことについて教えてくれ」
さぁ、ここからが正念場だ。