リムルside
俺達はあの後、オーガ達の集団を連れて村に戻ってきた。
今日は宴会の予定で、かなり豪華な食事が用意されていたのだが、ボロボロなリムルドを見た村の皆は唖然としてしまい、宴会ムードでは無くなってしまった。
「すまない…。俺達のせいで折角のめでたい機会を台無しにしてしまって…。」
「…お気になさらず、お客人。我々の宴を存分に楽しんで下さい。」
そう言いながら、酒がなみなみ注がれた盃が砕ける程に強く握って怒りを抑えるリグルド。
他の皆はオーガ達の事情を察して受け入れてくれているが、やはり自分の娘を傷付けられたリグルドだけはまだ割りきれていないようだ。
「リグルド…少しだけ席を外してくれ。」
「…お気遣い感謝致します…。」
リグルドは曇った表情のまま、この場を後にした。
「それで、お前達の里の話だが…。何があった?」
「…オークが…突然現れて俺達の里を襲撃した。」
「なに!?オークがオーガを?」
赤オーガの言葉に、一緒に酒を飲んでいたカイジンが驚きの声をあげる。
「そんなに珍しいことなんスか?」
「そりゃ、オーガとオークでは強さのレベルが違う。格下のオークがオーガに戦いを挑むことなんてまずあり得ない。」
ゴブタの疑問に答えるように、カイジンはオークとオーガの力関係を解説する。
「だが、奴らは来た。それも数千やそこらの数じゃなく数万もの軍勢で、しかも人間が装備するようなフルプレートアーマーを身に付けていた。」
「うーん、オークがそんな高価な物をそう簡単に用意できるとは思えん。それにあのオークがオーガの里を襲撃したのも引っ掛かる。裏で糸を引いている奴がいるかもしれんな…。」
裏で糸…。
上位の魔人か…それとも魔王か…。
いずれにしても面倒な状況には変わりないな…。
「それで、お前達はこれからどうする?」
「どうとは?」
「逃げるにしても、復讐するにしても、行く宛はあるのか?」
「…っ。」
ノープランか…。
なら…。
「お前達オーガ全員、取り敢えず俺の配下に加わらないか?」
「は?…しかし、それではあなた達を俺達の復讐に巻き込んでしまうのでは…。」
「裏で誰かが暗躍している可能性が高い以上俺達も無関係とは言いきれない。そのうち俺達の村にもオークが襲ってくるかもしれない。それなら今のうちに戦力を補充しておいて損はないだろ。俺はお前達をいつでも歓迎するぞ。」
「少し…考えさせてくれ。」
そう言って、赤オーガはその場を後にして森の茂みに消えていった。
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赤オーガside
俺は夜の茂みの中であのスライムに言われたことを脳内で反芻する。
「配下にならないか…か。」
正直、主として仕えるには十分な器だと考えている。
俺達6体を同時に相手にして完封する程の技量と勘違いで仲間を傷付けた俺達を受け入れる程の寛容さを併せ持っている。
あの方ほどお仕えするに能う存在はこの先出会うことはないだろう。
しかし、配下になると言うことは、我らオーガは新たな頭領を得ると言うこと。
今まで俺の家系の出のオーガが納めていたオーガの一族の統治を他の魔物に譲ると言うことになる。
そんな重要な事を果たして俺の一存で決めて良いものなのか。
「悩んでいるな、若。」
「青…。」
「俺達はお前の忠実な臣下であり、仲間だ。お前がどの様な選択をしようと例えそれが修羅の道であっても、俺達はお前の意思に従う。」
それだけ言って青は何処かに消え去っていった。
「くそ!」
俺はやるせなさのあまり、近くの樹木を殴る。
「俺にもっと力があれば…。」
俺はただ自責の念に駆られてそう独り言を呟くことしか出来なかった。
「…。」
たった一人、夜の闇に紛れて俺を静かに見つめる一体の
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翌朝、俺はあのスライム…いや、リムル様のもとを訪れた。
「リムル様。」
「答えは決まったか?」
「ああ、オーガは戦闘民族だ。強者に仕える事が出来るのならこれ程の誉れはない。…何卒我らの忠誠をお受けとり下さい。」
こうして俺はリムル様に忠誠を捧げた。
「うむ、苦しゅうない。お前の忠誠を受け入れよう。他の5人を呼んでこい。配下の証に名前を付けてやる!」
「何!?」
それからリムル様は本当に俺達6体全員に名前を付けてくださった。
我らオーガに…しかも6体も名付けが出来るとは流石リムル様だ。
しかし、俺達への名付けを終えた瞬間にリムル様は突然倒れてしまった。
「「「「「「リムル様!」」」」」」
その場にいるオーガ達が騒然とする。
当然だろう。
自分達がこれからお仕えする主が突然倒れたのだから。
「リムルは心配いらない。いつもの事だから。」
その時、俺達以外のこの村唯一のオーガ リムルド殿が現れて、リムル様の体を優しく抱きかかえた。
「いつもの事?」
「名前を付けると一時的に魔素量が減って意識を失うんだよ…。でも、三日もあれば回復するから気にしなくても良い。」
三日?
名付けで失った魔素を三日で回復だと?
…改めてリムル様のデタラメ加減に脱帽だ。
「…名前を付けて貰えたと言うことはもうすぐ進化が始まる筈だ。それまで好きに過ごすといい。」
それだけ言って、リムルド殿はリムル様を抱えて何処かへ行こうとする。
俺はそれを必死に呼び止めた。
「待ってくれ!リムルド殿!」
「…何?」
俺に呼び止められて振り向いたリムルド殿は心底嫌そうな目で俺を睨んでくる。
…うっ。
やはり、俺の事を恨んでいるのか…。
しかし、これからは同じお方を主とする仲間。
確執があるままの関係でいるわけにもいかない。
「その…先日は悪かった。あの様な知った風な口を聞いて…あなたを傷付けて…。あれはただ俺達オーガなりの死者への敬意を…。」
「もう良いよ…。分かってる。俺にはあんたの言う通り覚悟が足りないんだろ…。でも、俺はあんたらみたいに心も体も強くない。覚悟を背負えるだけの土台が俺にはないんだ…。」
そう言って、リムルド殿は今度こそこの場を去って行った。
「若…。」
「…。」
詳しい事は分からないが、リムルド殿には何か大きなトラウマがあるらしい。
それも先日の戦いで俺の炎を食らった時に取り乱していた事から炎に関係する何かである事が伺える。
「フッ若…いや、紅丸は早速先輩に嫌われたようだな。まあ、あんな事があれば当然か。」
突然、青…蒼影がからかってくる。
人が本気で悩んでいるのに…。
コイツは相変わらずだな…。
「どうするのですか?お兄様、リムルド殿の心にはかなり大きな傷があるようです。打ち解けるのは至難の業なのでは?」
妹…朱菜の言う通り、心の傷とは繊細な物。
リムルド殿のトラウマを対処する術など俺にはない。
「簡単です!一度真っ正面からぶつかれば良いのです。昔若様と兄じゃがやっていたではありませんか!喧嘩して殴りあって仲直り…の男の友情と言うものです。」
…懐かしいな…。
兄じゃ…。
血の繋がりはなかったが、俺達は皆兄じゃの事を本物の兄のように慕っていた。
だが、その幸せもオークどものせいで…。
「…うむ、紫苑の言うてることは極端過ぎる様な気もするが、中々に核心を突いているやもしれません。若、あなたには強力な炎がある。そしてリムルド殿には炎へのトラウマがある。一見相性の悪い様に見えて、そこに解決の糸口があるやもしれません。」
炎に…糸口…。
「鉄は何度も熱して叩いて強くするんだべ。それは魔物も一緒だ。何度も困難に立ち向かって打ちのめされて運命と言う金槌で叩かれ続けて強くなるだよ。」
打ちのめされて強く…か。
確かに白老と黒兵衛の言う通りかもしれない。
「ありがとう皆。俺なりにリムルド殿とのぶつかり方が分かった気がする!」
そうして俺達はこの日の夜に無事鬼人への進化を果たす。
そして俺は1日掛けてリムルド殿の情報を村中からかき集めて、二日後リムルド殿に決闘を申し込んだ。
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リムルドside
オーガ達が仲間になって今日で二日。
リムルはまだ目覚めていない。
あいつが起きるで後1日掛かる。
しかしそんな時、突然皆の前でベニマルから決闘を申し込まれてしまった。
「リムルド殿、どうか俺と再び一戦交えて貰いたい!」
「え?」
戦うだと?
今から俺とベニマルが?
「進化してから昨日1日あなたについて村の者達から情報を聞いて回った。過去のある出来事を切っ掛けに炎がトラウマになってしまったそうだな。」
「それが何か?」
「今から俺と炎系のスキルのみを使った決闘をして貰う!」
「なっ!」
「勿論炎以外を使った時点で負けだ。ただしあなたの場合、コピーしたスキルを使うには、一度ユニークスキルを使用する必要があるだろう。その場合は例外とする。」
…何が目的だ…?
よりによって炎だなんて…。
そんなの絶対に嫌だ…!
「ベニマル殿!お辞めください!娘に炎を使わせるのは!」
「悪いがリグルド殿、それは出来ない。あなたの娘を苦しませる事になって申し訳ないが、俺も同じオーガとして今のリムルド殿は見過ごせん!」
ベニマルは手に【黒炎】を纏って臨戦体勢を取る。
あの炎は…リムルのスキル【食物連鎖】によってリムルと魂の系譜で繋がっているものに与えられているギフトの一つだ。
俺も同じくあの【黒炎】を使うことが出来る。
ただし俺の場合は【受愛者】でコピーしている形であるが。
「何をもたついている!戦場で隙を見せる行為は死を意味するぞ!お前は戦で何も守れずに犬死にしたいのか!」
「っ!嫌だ!」
俺はなんとか我慢して【黒炎】を発動する。
炎…焦げ臭い…。
ああ…この匂いだけで、息がつまりそうだ…。
嫌だ…早くこの炎を解きたい…。
解放されたい…。
「何をしている!炎を出すだけか?掛かってこい!ただその場で突っ立ってるだけでは敵は殺せないぞ!」
「殺したくない!」
「何を甘ったれた事を言っている!殺さなければお前の家族が!友人が!仲間が!…殺されるだけだ!」
「それでも…俺には無理だよ…。」
俺は【黒炎】を解除して、力なく膝から崩れ落ちる!
「っく!この腑抜けが!」
ベニマルは激昂し、【黒炎】を纏った手で俺の胸ぐらを掴む。
「あがっ!」
…熱い痛い…。
「熱いだろう痛いだろ。それがお前の仲間が死に際に感じた苦しみだ!…そして、俺の同胞達も感じたものでもある。」
その瞬間、少しだけベニマルの手の力と【黒炎】の勢いが小さくなった気がした。
「俺の同胞はオークどもに襲撃されて命を落とした。昨日まで仲良く遊んでいた者達、切磋琢磨してきた好敵手達、母上、父上皆俺達にオーガの未来を託してその命を散らして逝った!お前はどうだ!お前の兄、お前の仲間、お前の前で散って逝った者達はお前に何を託した!お前は何を託された!」
「お…俺は…。」
ベニマルの瞳と俺の瞳がかっちりと合う。
ベニマルの思いが、悲しみが、怒りが、そして決意がその目を通して伝わってくる。
「俺もお前と同じ様に目の前で仲間を大勢失った。燃え盛る焦土の中で息絶える者達の最後を数えきれない程看取ってきた。それでも…俺は止まる訳には行かない!託されたからだ!仲間に未来を託された。だから、止まる訳には行かない!立ち止まれば俺に未来を託した同胞達の命を侮辱する事になる。俺は…俺達はこれからもずっと看取った命、奪った命、奪われた命に責任を持って生きていかなければならない。もう一度聞く、お前は何を託された?」
その質問に俺の口は自然と開き、答えを口にした。
「兄…ちゃん…に大きくなれって…。シズさんに…子供達を…。」
「なら、立ち止まるな!託された物を背負って命の責任と向き合え!」
そう言って、ベニマルは俺の胸ぐらから手を放す。
「さあ、リムルド!覚悟が出来たなら俺に【黒炎】を打ってこい!」
そう言われて俺は再び【黒炎】を発動させる。
…ありがとうベニマル。
ずっと迷ってた。
命の迷宮に…。
そしてごめんなさい兄ちゃん、シズさん。
二人の死を言い訳にしてた。
命の責任から逃げための都合の良い言い訳に…。
もう俺は迷わない!
逃げもしない!
二人に託された思いをこの先ずっと背負って生きていく!
「うあああ!」
ーーーブオォ!
次の瞬間、ベニマルの体を俺の【黒炎】が包み込んだ。
しかし、ベニマルは無傷の状態で難なく俺の【黒炎】を耐えきる。
「悪くない…。少しだけへっぴり腰な気もするがな。」
「ベニマル…。」
「リムルド、約束しよう。俺はお前の側を離れない。焦土に焼き尽くされたくらいでは死なない。だからお前も約束しろ。もう命の責任からは逃げないと。」
その言葉に俺は涙を流しながら答える。
「う゛ん゛!約束す゛る゛!」
俺はもう、負けない!
自分にも運命にも!
もっと強くなって…今度こそ皆を守る!
《確認しました。ユニークパッシブスキル【"
おっ、新しいスキルだ。
《条件を満たしました。個体名リムルドは酒呑童子に進化可能です。》
え?