アッハの笑みは世界を超える―――。幻月遊戯の一幕が終わりアハトピアの開拓に励むナナシビトにアッハは視線を注がぬまま微笑んだ。ドアを開けた灰色の開拓者が見た空は透き通るように青かった。

 

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透き通る開拓者

 透き通るといっても別に透明になっていくわけではない、と灰色の髪の彼女は大きなわっかが浮かんでいる空をなんとなしに見上げてそして視線を戻し後ろを振り向いた。そこには彼女が通ってきたピンク色をしたドアは影一つなくただの路地裏の壁(落書き付き)に変わってしまっていた。

 

「なの~~丹恒~~、姫子~~ヨウおじちゃ~~ん、デーさ~~ん、パム~~!此の際花火でも火花でもサンポでもいいから~~」

 

 手当たり次第に仲間と若干仲間か怪しい友達と怪しいやつのを呼んでみるものの誰も何も反応しない。スマートフォンを見てみれば電波が繋がらない。共感覚ビーコンは作動しているけど何の解決策にもなっていない。あとそこら中から銃声が聞こえる。次元を飛び越えるどこでもド、もといアー門はヤリーロや仙舟にも繋がる不思議なドアだが通ってきたドアが消えるのは彼女にとって初めての体験であった。

 

 黙っているときは物静かな印象を受けるがその実真反対、思いつく限りの行動を開拓の精神の名のもと躊躇わず慣行する星穹列車のナナシビト、その名は星。彼女がこんな路地裏にいるのも開拓の精神に基づいてアー門を開けた結果である。自業自得といえば聞こえはいいが彼女にとっては見ず知らずの土地に放り出されたのである。どうにか二相楽園にいる仲間に連絡をとれないものかとしばし考え込む彼女の傍に忍び寄る機械音。

 

「おうおうおう、ここはオレらの縄張りだぜ!何様だテメェ!」

 

「銀河打者、星だよ」

 

「そういう事聞いてんじゃねえ!使用料払えって言ってんだよ!あぁ!?」

 

 ……ここのオムニックは喧嘩っ早いんだね。パールとかスクリューガムとかを見習えばいいのに、と星はマシンガンらしきものを構える特徴的な機械でできた人物たちに相対する。使用料、とは言うがどう考えても彼らのものではない路地裏だ。とどのつまりカツアゲという奴だろう、そこまで判断した星の右手にはバットが現れる。

 

「ここはオレ等の縄張り!ルールは俺たちが決める!勝手に使ったヤツはヤキを入れて財布を奪え!それが俺たちのルールだぁ!」

 

 その言葉と共に不良ロボットたちが見せつけるようにわざとらしく構えていた銃をきちんと構え治す。その姿を見た星は脅しじゃなくて本当に発砲する気があるのだと理解した。だがこれも開拓の精神、新たな世界に来ればトラブルはつきものだ。故に星はいつもと同じセリフを唱えてから銀河打者としての力を振るうことにする。

 

「ルールは、破るためにある!」

 

「なんだとぉ!!」

 

 バットを構えてそう言えば逆上したオムニックたちはこちらに銃を向けて全くの躊躇なく発砲する。だが星はこれまでの開拓の旅路で様々な経験を積んできた。極寒の星を救い、仲間の故郷を救い、夢の星を救った。挙句の果てには33550336回の輪廻を次に進めて新しい神話を開拓してきた。さっきまでいたところでは神様を笑わせる祭りに参加して3分間光を信じ打ち勝ってきたばかり。今更銃で星穹列車のナナシビトはひるまない。

 

 弾丸を射線を読んで躱し、振るう。顔面に入ったバットが嫌な音とともにオムニックを壁に吹き飛ばす。キチンと手加減した一撃だ、たぶん死ぬことはない。仲間をやられたオムニックたちは激情を隠さずに発砲を続ける。だがしかし、星に当たることはなかった。

 

 バットで弾き、打ち返し。身を翻して射線を逃れ猫のように素早く距離を詰めて振るう。一撃必殺のバット捌きによってみるみるうちにオムニックたちは行動できなくなっていく。3分後、呻くオムニックたちと無傷の星がその場には残っていた。カツン、とバットを地面に着いて満足そうに鼻を鳴らす、どんなもんだいと彼女の顔に書いてあることだろう。

 

「ところでここ、どこ?」

 

「クソ、強い……!キヴォトスにまだこんな強いやつがいただなんて……!」

 

「キヴォトス?それがこの星の名前?どこの星系にあるの?アスデナ?」

 

 星の問いに答えは帰ってこなかった。オムニックたちはみな気絶、あるいは機能停止と呼ばれる状態に陥ってしまったのだ。代わりに聞こえてくるのは聞きなれないが直感で理解できるサイレンの音だった。この世界にも警察組織があったのか、ありがたいと星は考えるがどうやってこの惨状を説明すればいいのかわからなかった。こんな時に丹恒とか姫子とかヨウおじちゃんとかいてくれたらなぁ、と遠い眼をする。

 

「ヴァルキューレ警察学校だ!全員手を挙げて銃を捨てろ!」

 

「バットは?」

 

「バットもだ!銃声があったと通報を受けている。ここで何があった」

 

「ここは彼らの縄張りだから入ったら財布を置いていけと言われた。嫌だったからこうなった」

 

「……正当防衛か。被害者、と言っていいかわからないが調書をとる必要がある。すまないが局まで来てもらおう」

 

 現場に飛び込んできたのは拳銃を構えた大きな犬の耳と金色の髪の毛が特徴的なちょっと強面の少女だった。どこかすっとぼけたというか場に合ってない冗談を飛ばす星に対して律儀に突っ込みを入れるものの現場の制圧状況を見てすぐに拳銃を仕舞い生真面目な顔で星に協力を求める。

 

 大体警察系の組織にいい思い出はない星ではあったが初めての場所に一人っきりという不安もあり少女の提案を受けることにした。オムニックたちがぎゅうぎゅうに警察車両に詰め込まれていくのを横目に星も別の車両に乗る。犬耳の少女も運転席に座って車は発進する、途中で犬耳を後ろから鷲掴みにしたい衝動に駆られた星であったが、何とか我慢に成功するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、お前は宇宙を開拓する列車に乗っている乗組員でここには空間を超えるドアを使ってやってきたと?ハァ、薬の検査追加するか。ほら、これに息を吹き込め」

 

「いたって真面目。私はこの世界からみて天外からやってきた星穹列車のナナシビト。どうしたら証明できる?写真でいい?」

 

「……悪いがそれじゃ証明できない。画像なんてキヴォトスじゃいくらでもリアルに作れる。お前のスマートフォンがキヴォトスの技術で作られてないのは分かったから外から来たのは理解した」

 

「外?キヴォトスにも外があるの?」

 

「あぁ、その人はここの先生だ。お前も外から来たというならあの人なら証明できるだろう」

 

 尾刃カンナ、と名乗った犬耳の少女は大きなため息をついてポリ袋を星に向かって差し出した。星核は体の中に入ってるけど薬なんてやったことない星は憤慨し思いっきり息を吹き込んでポリ袋を破裂させる。それでまたクソデカため息をつかれる無限ループに突入した。

 

「おい、何処を見てるんだ。そこには何もないぞ」

 

「頭の後ろの浮いてる輪っか。デーさんと同じヤツかな?」

 

「ヘイローのことか。そんなこと言ってもお前にだってあ……ないな。ないな!?」

 

「いろいろな神様にチラ見されてきたけど流石に輪っかは浮かなかったな。仮面でいい?ほらこれ」

 

 かぽ、と近未来的なアライグマの衣装の仮面をかぶった星に対してキヴォトスの住民にあるべきものがないことに対して破裂したポリ袋を片付けながら驚くカンナ。いろんな星へ開拓の旅に赴いた星にとって頭の後ろに浮いている光る輪っか程度は興味を引く対象になりこそすれふーん、そんなものがあるんだ程度の認識だ。

 

 そもそもさっきのオムニックには浮いていなかったし。だけどそういえば一緒に来たお巡りさんや彼女、すれ違う女の子たちには全員光る輪っかが浮いていた。だけどサンデーやロビンのように物理的に存在しているわけではなさそうだなぁ、が星から出てくる感想だ。

 

「それで、お前の今の目的は?」

 

「早く二相楽園に戻りたい。幻月遊戯の途中だし仲間もそこにいるから」

 

「聞いたことない場所だな。やはり連邦生徒会に任せた方がいいか。先生は?」

 

「もうご到着されたそうです。あ、来られました」

 

”やあ、私に用だって聞いてきたんだけど……彼女のことかな?”

 

 取調室に綺麗なノックの音を響かせて入ってきたのは普通の男性であった。ただ、星の頭をよぎったのは列車組の大人たち……ヴェルトや姫子だ。物理的な強さで言えば星にはかなわないであろう彼の姿はそれでもスゴイ人だ、と星が判断するには十分な一種のカリスマを備えているように見えている。

 

”こんにちは、私はシャーレという組織で先生をしているんだ。どうか気軽に先生と呼んでほしい。ヘイローがないところを見るに君も私と同じように外から来たのかな?”

 

「私は星、宇宙を開拓する星穹列車に所属するナナシビト。ここには空間を飛び越えるドアの誤作動……多分誤作動でやってきたんだ」

 

”星穹列車……ナナシビト、ごめんね。聞いたことがない。そもそもここの外は宇宙を開拓できるくらい気軽に行き来ができるほど発達してないんだ。詳しく聞かせてもらってもいいかな?君のことについて”

 

「大丈夫……だけど私は仲間みたいにうまく説明できないかもしれない」

 

”あはは。そこはほら、私は先生だからね。生徒の話をうまくくみ取るのは得意だよ”

 

 大人の余裕を見せて笑う先生を信用することにして星は元居たところと目的について語ることにした。星神の存在、その中でも開拓のアキヴィリが作った星穹列車の目的。星と星を開拓してレールをつなげることで未知の星をつなげることができること。

 

 今は今は惑星アハトピアに停車し幻月遊戯なる愉悦の星神アッハを愉しませるゲームに参加しておりそのゲームが落ち着いたところでこのキヴォトスにアー門を通じて飛ばされてしまったこと。とりあえず何とかして帰りたいという話を終えた星は先生をしっかりと見据えた。

 

”アイオーン、開拓、それに星穹列車かぁ……”

 

「先生、もしかしてこういう冒険譚好きなの?叙事詩でよければ聞かせてあげるけど」

 

”是非ともお願いするよ!いや、スゴイんだね星は。私もそれなりに修羅場を超えてきたつもりではあるけど君はスケールが違うよ”

 

「そう?先生はきっと私かそれ以上にスゴイことを成し遂げてるように見える。世界でも救った?」

 

 星の説明を聞いていくうちに先生は瞳を輝かせ前のめりになっていった。特に宇宙をかける列車の話になるとそれはもう興味深そうであった。カンナは無言で先生の悪い癖が始まったとばかりに頭が痛そうにしている。

 

 真顔で救世主ジョーク、とそんなことを言う星に先生は苦笑いをする。星も先生も正しいことを述べている。星は実際銀河の危機をいくつも乗り越え、救世主扱いまでされているし先生も先生で生徒のために各地を奔走し実際にキヴォトスを救った救世主である。違いがあるとすれば星は調子に乗れる年齢で先生は自制を覚えた大人であるということくらいか。つまりは世界を救ったことがあるもの同士である。

 

”うん、君のことは理解したよ。この世界とはまた別の世界から何かが来るっていう前例はないわけじゃない。だからきっと君にも何か手段があるはずだ”

 

「ありがとう。とりあえず……泊まるところとご飯何とかしないと」

 

”うん、君の身柄はシャーレで預かる。衣食住はそれでまかなえる。仕事を手伝ってくれたらアルバイト代もだそう”

 

「本当?よかった。流石は先生」

 

”はは、じゃあ行こうか。カンナ、ありがとう”

 

「いえ、公務ですので。先生もお気をつけて。お前も変なことをしてここに来るなよ」

 

 一応監視として残っていたものの会話に口をはさむことはなかったカンナは先生に丁寧に頭を下げて星にも軽く口元をあげて釘を刺した。星もここは変なことを言うべきではないと判断して素直に感謝の言葉を口にして取調室を出る。

 

 先生が運転する車に揺られて少し、大きなビルに入って上階のオフィスに案内された星はここに座っていてと示されたソファに座るものの既にいろいろ弄りたい衝動に駆られていた。あのパソコンの前においてあるタブレット端末めちゃくちゃ気になる。絶対弄ったら面白いと腰を浮かせたところで先生が姿を現した。その両手には紙コップにコーヒーが淹れられていた。

 

”コーヒーは苦手?”

 

「あんまりいい思い出がない」

 

”そっか、ごめんね。別のに変えようか”

 

「いや、人が飲めるものなら大丈夫。先生、私は何したらいい?」

 

”そうだねえ、実は今あまり仕事がなくてね。だからさっき言ってた叙事詩を聞かせてもらえないかな。私も男の子だからね、英雄は大好きさ”

 

 先生はきっとヨウおじちゃんとものすごく仲良くなれるんじゃないだろうか、と彼がここにいないことが残念に思えてならない星は紡がれた物語を取り出す。33550337回の輪廻のすべてが納められ、大切な仲間が遺してくれた『種』でもある。

 

 どの叙事詩がいいだろう、とページをめくって考える。そうだ、初めから話せばいい。そう考えた星はページをめくって止める。そこにある挿絵は赤い髪の小さな女の子が3人。懐かし気に、一抹の寂しさをもってそれに星が触れた瞬間にその挿絵が光る。一瞬の閃光に目がくらんだ星の上に重さが加わった。子供3人分くらいの。

 

「グレーちゃん、こんにちは!雨でも晴れでもごきげんよう!」

 

「オンパロスを駆けるボクたち、呼ばれて参上だぞ!」

 

「……あ、お邪魔して、ます」

 

”……なにごと?”

 

 先生が目を白黒させて状況を把握しようと努めるものの、星にも何が何だかわからない。だけど一つだけわかるのはとても嬉しいことが起こったという事だけ。星は自らに寄りそう3人の英雄を思いっきり抱きしめることにするのだった。




 コラボイベント風小説です。イメージとしては星とオンパロスの黄金裔たちがキヴォトスを観光して帰る一夜の夢みたいな感じで行きたいなあ。幻月遊戯でアッハがちょっと噴き出したせいとでも思ってください。ほらだってこう、いつか星の海に再誕するとしても会える話があってもいいんじゃないでしょうか……!

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