人の心がわからない怪物、死んだ魔法少女になり替わる ~生まれ持った飢えを満たすのに必要なのは、人の心でした~   作:人類の味方らしき生卵

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第7話 迫る怪物

「さて、今日こそは何か発見できるといいけれど」

 

 すっかり夜のとばりが降りきった暗闇の町。

 こんな中、出歩いているのを見られたら間違いなく補導されるだろうね。

 愛理少女はまだ成人していないのだから。

 だからと言って、やめるわけにはいかない。今後のためにも。

 

「さて……今日はどの区域を探索しようか」

 

 ここ数日の探索の結果、おそらく市街地付近には何もないことが分かった。

 天花少女の家付近も念入りに調査したけど、違和感は見当たらなかった。呪いとやらが気になるけれども、それを探るのは今度になりそうだ。

 今はとにかく、獣たちを呼び寄せていた何かを探ることに注力する。

 

 僕とて飽食の獣だ。何か発信されていれば、気が付けるはず。

 それとも、人間状態では気づけないのだろうか?

 

「いや、この間の事を考えると、ひょっとしたら……」

 

 一つ、思いついたことがある。

 手のひらの上で魔法を展開し、広く広く周囲へ放つ。

 微弱な見えない波のような魔法、魔法と言うよりも魔法の素となる力そのものを放ったという方が適切か。

 そして、仮説は正しかった。

 

「――引っ掛かった」

 

 この間、獣を捕食した際に僅かに魔法少女としての能力が増加したのを感じた。

 そこで、獣の性質と魔法少女の力の素は近いんじゃないという仮説を立てたのだ。

 仮説は正しく、魔力の波は僅かに異物を捉えた。

 同時に、向こうにも感づかれたと理解する。

 

「逃がすか」

 

 魔法少女衣装を身にまとってはいないが、魔法が使えないわけではない。

 魔法少女衣装はいわば飽食の獣と対峙するための戦闘衣装であって、日常的に使うものではないのだ。

 だから少し不安は残る。が、それを無視するだけのリターンが見込める。

 

 継続して魔力の波を発して、継続して違和感の現況を追跡する。

 エコーロケーションという電波を使った機構で思いついた方法だ。今ばかりは過去に食べた死体の情報が役立った。愛理少女を除けばろくでもない人間ばかりだったが、知識に罪はない。

 

 相手はずっと動いている。感づかれて、逃げている。つまりは生物だ。

 こうなると、抱いていた疑念が現実のものであると受け入れてよいだろう。

 ――答え合わせは、もうすぐそこだ。

 

 相手が逃げ込んだのは、古びたビル。誰も使っていないのだろうか、入り口には進入禁止のテープが張られている。

 壁の外側でなくてもこういう場所があるのだなと思った。

 ともかく、中にいるのは確実なのだから、入る以外の選択肢はないだろう。

 

 そう思い、建物の中に入る。

 ビルはところどころ崩れており、支えるコンクリートの支柱がむき出しになっている。

 中には何も残されていない。エレベーターもあるが、動いてはいないだろう。

 

「……上で待ち構えられているみたいだね」

 

 階段で上るしかないけれど、何か罠がある前提で動いた方がよいだろう。

 上に逃げてくれたということは、逆に言えば逃げ場所が少ないということだ。飛び降りることができれば話は別だが。

 

 一歩、階段に足をかけるとだけで、パラパラと頭上から塵が落ちてくる。

 今にも崩れそうだ。だから立ち入り禁止にされているのかもしれない。

 まあ、僕は潰されたとして死にはしないからどうでもいいか。

 

「……勧告します。手荒なことはしたくないです。大人しく捕まってくれると助かります」

 

 上の階へ呼びかけてみる。返事はない。期待はしていなかったけれど。

 さてさて、となると向こうは敵意があると確定で見てよさそうだ。

 罠を警戒し――

 

「おっと」

 

 階段を上りきった直後、鉄骨が頭上から降ってきた。

 潰されたら普通の人間だったら間違いなく死んでいただろう。

 これで、向こうはこちらを殺す気でいることが確定した。

 

「仕方がない、か」

 

 あまり愛理少女の姿でこういうことはしたくないのだけど。

 向こうがその気ならば、仕方がない。

 このまま階段を上っていっても、次はおそらく階段そのものが落とされるだろう。

 もう一度魔力の波を放つ。ちょうど真上の階にいるらしい。

 なら、選択肢は一つだ。

 

「【レイ】」

 

 魔法を放つ。

 光線が円を書くように飛び、天井の一部を切りぬいた。

 ズガンとコンクリートが砕ける音が鳴り響く。支えを失った天井が、そのまま落ちてきたのだ。

 その上には、当然人影がある。

 男性だ。大人の。体つきはしっかりしているが、大きな特徴はない一般人にしか見えない。

 町を歩いていれば、そのまま無視してしまっていただろう。

 

「何者かと思えば、やはり魔法少女か。いいのか、こんな時間に出歩いて」

「さてね。警察を呼ぶ? 捕まるのはそっちだと思うけれど」

「……お前、本当に魔法少女か?」

「さあ、何に見える?」

 

 はっきり言ってしまえば、僕はこいつ相手に正体を隠す気がない。

 だからこそ今の受け答えをしたわけだ。

 

「――まさか、同胞か?」

 

 ――情報が確定した。

 

「【バインドケージ】、【ホーリーレイ】」

 

 拘束魔法からの、即座に光線の照射。

 反応する隙は与えない。人間に擬態している僕たちは、その人間の体の身体能力にある程度引っ張られるのを知っているから。

 人間の反応速度で、これらを避けることはできない。

 

「ぐっ……。魔法を使える、ということはやはり魔法少女なのか?」

「君がそれを知る必要はない。そして、もう何かを話す必要もない」

 

 光線は彼の肩を貫き、人ならざる体液がにじみ出ている。

 確定だ。この町には、既に人に擬態した飽食の獣が存在している。

 彼らが何をしようとしているのかはわからないが、同族を呼び寄せているのもこいつらだろう。

 一体だけとは思えない。一体だけならそんなことをする必要がないんだ。

 

「くそ、くそ、くそ。せっかくあのクソみたいな世界から抜け出せたんだ。こんなところで――っ!」

「もう、口を開くな。【インパラーレ】」

 

 数多の光の杭が空中に浮かび、鳥かごの中の同胞を串刺しにしていく。

 この魔法は、昨日同胞を食べたことで会得した魔法だ。

 魔力量が増えたことで、少しだけ規模の大きな魔法を使えるようになった。

 

「うぐ、があああああああ!」

「まだ死なないんだ。頑丈だね。何を食べたらそんな風になるの?」

 

 死なないのなら、死ぬまで攻撃を続けるだけだ。

 こういうとき、天花少女ならば瞬く間に燃やし尽くしてしまえるのだろうな。

 

「……死んだかな?」

 

 数分の間、光の杭を突き刺し続け、断末魔の響きも収まった。

 ……周辺は静かなままだ。先ほどの悲鳴で誰かが寄ってきた気配もない。

 

 試しに、光の檻を消してみた。

 その場にどさりと崩れ落ちたそれは、灰色の液体と腐臭を垂れ流している。

 動く気配はない。確実に死んでいる。

 ふむ、僕たちが人間に擬態して死んだ場合、体液は僕たちのもとの姿のものだけれど、姿かたちは人間のままなのか。これは学びを得た。

 

「それじゃあ……いただきます」

 

 迷う事なく、僕はそれを捕食する。

 瞬時に記憶を読み取る。この死体は本当に、様々なことを知っていた。

 とりわけ重要なのは、こいつ以外にも人間に擬態した獣は多く、既にコミュニティが存在しているということだ。

 

「これは……どう処理したものか」

 

 社会性を持ち合わせていないはずの僕たち飽食の獣が、人間を捕食してコミュニティを形成している。

 人類側にとっては非常に脅威となる事実だ。

 さて、ここからどうするべきだろうか。

 

 頭の中に思い浮かぶのは、天花少女の事。

 深入りするべきか、引くべきか……。

 すぐに決められる問題ではなかった。

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