機動戦士ガンダム~一年戦争なき世界線で~ 作:ミノフスキーのしっぽ
蒼穹の魂外伝~タツミヤの勇士たちの魂の行方~
「白も黒もありません。灰色もです」
とても肩幅が広くて立派な地蔵菩薩さまは、その魂たちの判決を下すことを拒否した。
楽園の閻魔様曰く。
「あなたたちは白黒つけません。どうせ困っている誰かの苦境を知れば、見捨ててはおけずに助けに行ってしまうのでしょう………ふぅ」
(何も生まれ変わってまで死地に飛び込むこともないでしょうに…因果なこと)
そのように諦めの溜息を吐いた閻魔様は、生前の世界線で戦い、生き抜き、そして、その一生を終えた魂たちにお説教はせず、ただ語り掛けた。
「ですから、天国行きか地獄行きかの裁判は無意味です。どうぞお好きな世界線の時間軸に転生なさって下さい。別に愚かでも良いのです。あなた達は自らが望んだそこにお行きなさい」
あなたはそこにいますか? 自ら望んでそこに向かいますか?
そんなお地蔵さまから閻魔様に昇格した地獄の裁判官の判断に礼を言い、件の魂たちは、自分たちが進むべき世界線へと向かった。
たとえ新たな生を送るその場所が地獄であろうとも。助けられる者たちの魂を救うために。
おしまい
追記
本編の戦闘中に、イザナギ/イザナミ・オブジェクトの影響により彼等が覚醒するニュータイプ力は以下の通りだ。
ワタツミノミヤノヒメカミ ワタツミノシラベ
アメノヌボコ
さざ波のようにそれぞれの命の調べを響き渡らせ、まるで一体化したかの様にユニゾンできる互助の力。最終的には互いの境界すら消失させ命の響きをシンクロさせる。搭乗機体を次々と融合させ一体化。
生命の源のワタツミ(海)のミヤ(竜宮、胎盤)のヒメ(女性、子宮を持つ者)の三乗に、アメノヌボコの混沌をかき混ぜ、その形を整え定める力。
これでザルヴァートル化できるね。
シャア子のこと。
シャア子は元々男性だったおにいちゃんはおしまい娘です。
ジンバ・ラルお爺ちゃんがザビ家から逃がすために「完璧にキャスバルさまをザビ家からお逃がしするには、性転換しかない!」と、性転換薬をキャスバルに飲ませてしまった世界線出身です。
性転換した後、自分が元々男性であった記憶は封印され、母トアのことも、妹アルテイシアのこともすべて忘れ、シャア・アズナブル(♀)として成人。その後、色々と面倒な人生を送っていました。
ですから、アムロ・レイやララァのことは知りません。
ちなみに、シャア・アズナブルさん32歳(♀)の身体年齢は、年齢一桁で強力なオーラ力に目覚め、そのアンチエイジング効果で14歳くらいの容姿のままです。発育不良とも言います。
なお、性転換の時、その後遺症で視力が著しく低下し、ほぼ失明状態に。
宇宙線などの外部刺激によって、眼球がさらに損傷を受け、完全に失明する危険性があったため、常に両眼を保護するマスクが必要な身体になっています。
ザビ家に正体を隠すための嘘、仮装のために仮面を装着している訳ではありません。
しかし、これが功を奏して完璧なザビ家への隠れ蓑になりました。
アムロ・レイ
機動戦士ガンダムテレビ版以降からアクシズ落としでのシャアとの決着を経て、突如、消失し別世界線へと移動した。
地球と共にスパロボめいた世界線に召喚されたのだ。その後、数多の世界線で戦い抜いた歴戦の勇士なアムロです。
本作の主役の一角であり、最終的にラスボスの依り代となるアムロとは別人。
まあ、別世界線なので何でもアリです。
今回は別世界線の勇士たちによる共闘ということで、シャア子はナイチンゲールさん、アムロは見た目片翼の映画版νガンダムさんを駆っています。
イザナギ/イザナミ・オブジェクトを主軸にして執り行った実験の第一段階…ニュータイプのテレパス能力を一般人たちにも付与し、投票行動を実施する…は無事終了した。
その結果を受けて、第一次実験に参加した多くの被験者たちは、当実験宙域を速やかに離れることとなった。
何しろ次の第二次実験は、どのような予想外の事態が生じるかまったく解らない未知の領域でのこと。史上初のワープ実験だ。
ニュータイプの時空間を超越する能力をイザナギ/イザナミ・オブジェクトによって増幅。時空間に干渉して点在している極小ワームホール(空間の虫食い部分の穴)を無理矢理拡大。
対象をその先の指定座標へと送り込むという、これまでの人類の常識を超えた実験だ。
最悪、イザナギ/イザナミ・オブジェクト暴走の結果、すべての研究者含む実験参加者全員が空間ごと消失してしまう可能性がある。
そうなってしまえば、おそらく無事に帰還することは誰一人不可能。
そんな危険な実験に一般人を巻き込めはしなかった。
一隻、また一隻と、当該宙域から被験者たちの艦が離脱していく。
その最中、フラナガン博士やオーカザキ博士の座乗艦クロスストロベリー艦内で、ちょっとした騒動が起きた。
クロスストロベリーより小型船に乗って当該宙域から離脱する者たちに対し、直々に謝意を示すため、ミナノ・ユメ・オーカザキ博士が見送りにきたのだ。
「サエ様、ウラヤスの先代の巫女様方、お助けくださりありがとうございました」
「あっ! ミナノちゃんだ~! これでお別れなんて寂しいよ~!」
「はわわっ!」
「あらあら。お二人は本当に仲良しさんね」
「微笑ましいこと」
「わたくしも、もう少し年若ければ、同じように抱き締めましたのに」
「あら、姉さんも自重できるようになったのね」
「もう! 流石に私も何時までも子供ではありません!」
その別れ際、楽師様ことサエ・キリンと、ウラヤスの先代の巫女様方の許へと、第一次実験参加への礼を言うべく赴いたオーカザキ博士は、突然サエに抱き着かれて仰天、身体を硬直させてしまった。
こうも率直かつ大胆に好意を寄せられると、どう反応してよいのか判断が付かない。
様々な研究実験という己の活動範囲内でこそ経験豊富であっても、こと友人関係や、異性や同性との恋愛経験は不足している。
こういった場合、単に同性の友人による濃密なコミュニケーションであるのか、同性による愛の告白も同然の行為であるのか、まるで判断がつかないのだ。
固まるのも当然といえよう。
(はわわっ、サエさん! どういうことなのです!?)
答えの出せない事態に混乱し、オーカザキ博士はお目々グルグル状態だった。
無論、この胡弓奏者サエ・キリンの行動は、尊い百合などではなく単なる感極まった末の親愛表現であった。彼女はかなりの感激屋であり、ちょっとオーバーなくらい先の歴史的な実験に参加できたことに感謝していた。
これまで磨け上げてきた感性、遥か過去から受け継いだ楽曲の演奏技術。その研鑽は人類の未来においても必要不可欠なものだったのだ。そう先の実験結果は示してくれた。
(嬉しい! もう自分を押さえられない! 抱き着いちゃえ!)
そんな感動は、ウラヤスの先代巫女たちも同様であった。波風立たぬ静謐なものであったが、四名の巫女は内心感激せずにいられなかった。
(嬉しい…ちょっと泣きそう)
(ですがこの涙、目尻から落とすまい)
(私たちはウラヤスの先代巫女。波風は立てはしない…平常心、平常心)
(この想い、ただ胸の内でそっと大事に燈し続けよう…ミナノさん大好き)
彼女たちも、自分たちの神楽舞が清浄なものであるという絶対的な証明、お墨付きを、先の実験成功で頂いた。
本来は交じり合うことのない他分野の権威からの、圧倒的な存在肯定。ウラヤスの神楽舞は人類の宝と面と向かって言われたようなものだ。
その達成感は凄まじく、湧き出ずる感動も生半なものではなかった。
感激屋のサエならば、思わずミナノに抱き着いてしまうのも無理からぬことだったし、ウラヤスの先代巫女たちが涙ぐむのも当然だった。
「えへへへ、ほっぺぷにぷに!」
「はわわっ、サエさまの頬っぺたもぷにぷにで柔らかいです」
サエはミナノのぷにぷにな頬っぺたに、自分の頬っぺたをスリスリさせて、さらなる親愛のコミュニケーションを取る。
その光景を先代の巫女たちは微笑みながら見守っていた。
当然、見送りの時間は事前に決められていた出発時間を超過してしまい、発着場の周囲は笑い声に包まれた。
この様に微笑ましい騒動を起こした、オーカザキ博士とサエ・キリン、ウラヤスの先代巫女たち。
彼女等がこの良縁を結んだのは、半年前に地球上で開催された地球圏総合文化研究博覧会北米エクスポの折であった。
何分ミナノは、国家より多額の予算を裂いてもらい、ニュータイプ能力含むオーラ力など人類の隠された能力研究を、大規模に実施する身である。
そんなフラナガン機関の代表として、ミナノはフラナガン博士の代理という立場でエクスポに参加した。
そうして、何気なく立ち寄った文化会館内でミナノは驚愕した。
ミナノは他者のオーラ力の輝きを視覚的に捉えることができる稀少な能力者だ。
サエの演奏、先代巫女四名による神楽舞に触れた多数の人々のオーラ力の輝きが、見る見るうちに淀み穢れた昏さから、清浄な輝きを放つように変化していったのだから。
この時から、サエと先代巫女たちはミナノの推しになった。
ミナノは立場も考えずに、すぐさまフラナガン機関での実験に協力してくれと、自ら楽屋裏に訪れ勧誘した程である。
サエも先代たちも、当初は突然の勧誘に身構えたものだが、次第にミナノの熱心さに絆され、その勧誘を受け入れた。
なぜなら彼女たちは分野は違えど、それぞれの進む道でそれ相応の結果を出した者同士であったからだ。
違う分野に進んだ本来なら交じり合うことなき立場ながら、困難な道を選び、その正しさを世間に証明した経験を共に持っていた。
そういった者たちは、お互いを色眼鏡ではなく清らかな眼で真っ直ぐ見詰め合うことができる。
たまたまその道程が今回のエクスポで交差しただけとはいえ、忌憚なく話し合えば、彼女たちはお互いに感じ入ることばかりなのであった。
そのため、ニュータイプならずともお互いを深く理解し合い、僅かだが共に過ごした時間で中で、非常にお互いへの好意を抱いていた訳である。
かくして、ミナノの要請により今回のような仕儀となった次第だ。
「それじゃあ、また後で会いましょう!」
「グラナダで待っています。一緒にお喋りいっぱいしましょうね」
「慌てず焦らず正確にね。ミナノさんたちの成功を祈っています」
「貴女の進む道に幸せがあることを」
「今度はミナノちゃんがギュっッとしてね!」
「そうですね。正直、抱き着かれて悪い気はしませんでした。再開の抱擁もいいかもしれませんね………では、また」
「うん!」
「それでは皆様方、出発致します。速やか且つお気をつけて乗船致しますようお願いします」
添乗員のアナウンスが響く最中、サエとの別れの抱擁、先代巫女たちとの別れの挨拶を交わし、ミナノは分離し離れていく小型船を手を振り見送った。
サエも先代巫女たちもそれぞれ、ミナノに応えて手を振り返す。
こうして、第一次実験の後始末も終わり、フラナガン機関による全精力を傾けた実験は、いよいよ第二段階へと移行していく。
「たいへん申し訳ございません! かなり遅れてしまいました!」
「何、少々の遅れは構わんさ。想定内だ」
所変わってクロスストロベリー艦橋でのこと。オーカザキ博士は姿勢を正して頭を下げ、自分の遅れを同僚たちへと謝罪した。
すでに艦橋には、これよりの実験に参加する多くのスタッフが集まっていた。実験前最後のブリーフィングということだ。
「さてオーカザキ博士もこうして戻られたことだし、最後のブリーフィングだ…うぉっほん!」
そういうと、フラナガン博士は咳払いをして眼前の研究員たちをキッと睨む。
「では諸君。それでは第二次イザナギ/イザナミ・オブジェクトの機能実験を開始しよう。もちろん諸君は承知の上の事だろうが、これからの実験は非常に危険だ。あえて最終確認を執り行う」
クロスストロベリー艦橋のメインスクリーン前で、フラナガン博士は眼前に屯する弟子たち、志を同じくする同士、同僚たちの貌を見回した。
「最後のチャンスだ。実験から離れたい者は名乗り出られい!」
その質問を最後に、しばし艦橋は沈黙に包まれた。だが挙手し、この場を去る研究者はいなかった。すでにこの場の全員が覚悟を決めていた。
「諸君ありがとう。すまん」
「所長、安心してください。我々がこの世から消失しても、天才的な頭脳を持っている人物ならば、各所に密かに施して置いたデータを解析し、再びイザナギ/イザナミ・オブジェクトを生み出すでしょう。そのくらいの仕掛けは残してありますよ」
謝意を示すと共に詫びるフラナガン博士。そんな同僚にに対し、苦笑して善後策を語って聞かせたのは、フラナガン機関で同じ研究を続けてきたクルスト・モーゼス博士だった。
水臭いな爺さん、今さら何言ってんだよ。何時もみたいに必ず実験を成功させると息巻いてりゃいいじゃないか…と。
「もちろん、私は生きて帰るつもりですので杞憂に終わって欲しいものですが」
そのようにフラナガン博士の殊勝な態度を茶化すモーゼスの言葉に、艦橋が笑いに包まれた。他の研究員たちも同じ気持ちだったのである。
今さら謝意を示され謝罪されても何になるんだ。どちらかというと我々はあんたの共犯者側だ。感謝される理由も謝られる理由もない。
もし謝るのならば、それは、これまで多額の研究資金を融通してくれた地球連邦、ジオン共和国の両政府と、その資金源たる税金を、これまで絶えずに支払い続けた民衆だ。
そうならないためには、必ず実験は成功させなければならない。そうだろう?…と。
「ふん…ではお前たち、始めるぞ。いいな?」
「もちろんです!」
「危険もまた良い人生のスパイス。楽しみますよ」
「まーかせて!」
「私は頼ってくれて一向に構わん!」
そのようにフラナガン博士による再びの意思確認に応え、同研究スタッフたちは斯様に捨て台詞を残し、それぞれの担当場所へと戻っていった。
すでに各機材の最終チェックは艦橋へと集合する以前に終わっているが、念のため、もう一度確認作業をしておこうというのだ。
かくしてイザナギ/イザナミ・オブジェクトの効力を最大限に活用し、人類初のワープ技術を確立するという第二次実験は開始された。
その一方。
第二次実験に必要な人材たちは同宙域で待機中であった。MSブグ12機を駆るタツミヤ隊と、ビルバインを駆るガデム少佐も同様に小休止中である。
そこで彼等は………恋バナしていた。
「なあ、ソウシ」
「何だカズキ?」
「ソウシはオーカザキ博士にいつ告白するんだ?」
!?
「ちょっ! 馬鹿カズキ! 今は大事な第二次実験の直前だぞ! 何を言っているんだ!」
「でも、好きなんでしょう?」
「マヤまで………………好きだよ」
「ほらねカズキ君、私の言った通りでしょう?」
「マヤはその辺りは目敏いな」
「えへへ…でしょう!」
「だったら、手っ取り早く告白したらどうだ? 大勝利するも撃沈するも、お互い早く決着を付けた方が将来のためになるんじゃないか?」
「ヨウコウ貴様、簡単に言ってくれるな。こちらとしても、そのタイミングを見計らっている訳で………ああ! もう! 他人の恋路にスナック感覚で口を出すな!」
「そうなの? でもミナシロウ君は別クラスの女の子たちに相談されて、目一杯口を出していたよね? ニュータイプ能力で好きかどうか探ってくれってさ」
「そうそう。ソウシは真面目だから本気で付き合っちゃって!」
「あははは、違いない!」
「それをどうして知っている?………はっ! ミミカ経由で彼女たちの話を聞いたな! カズキ! ヨウコウ! マヤ! 貴様等謀ったな!」
自分の恋路を話の種にされ、ミナシロウは顔を真っ赤にして仲間たちの不実をなじり始めた。何でそのことを今話すんだ。これでは俺は道化じゃないかと。
そこに新たなブグ隊の面々が口を出してくる。彼等も第二次実験までの合間、暇を持て余していた。
「おいおい、面白い話をしているじゃないか」
「僕たちも混ぜてよ」
「マヤ、あんたまで一緒にソウシを揶揄うなんてね。お姉さんちょっと心配よ」
「そういった話まで気軽にできるなんて、みんな成長しましたね」
「大人だ!」
「なになに? どうしたの?」
「複数の媒体に録音して置こうっと」
「破廉恥な話もたまにはいいものだな。リラックスできる」
「くそ! お前たちまで!」
ミナシロウ・ソウシの恋バナを軸にしてブグ隊の面々はそのように語り合い、通信を盛り上げた。
「ふむ…若いのう」
そんな通信内容をビルバインのコックピットで受信していたガデム少佐は、うんうんと頷き、これが若さかと頷くのだった。
とはいえ、そんな後進の若者たちの会話に聞き入り、浸っている場合ではない。程なく第二次実験が開始される。
「諸君、楽しいお喋りはそこまでだ。次の実験が始まる。それには君たちのニュータイプ能力が要となる。準備を整えてくれ」
「これは! ガデム少佐! 助かりました…いえ、教導ありがとうございます! みんな! それぞれの持ち場につくぞ! 急げよ!」
「了解であります!」
ガデムの教導に対し、軍人としての立ち振る舞いをお思い出したタツミヤ隊の全員が素直に従った。
呑気に恋バナしてる場合じゃねぇ! 切り替えろ! と。
(ふむ…マヤ・トーミィか。できておるな。覚えておこう)
小休止を終え、素早く動き出したタツミヤ隊。それまでの経緯を見聞きしていたガデムは、部隊を無理なく維持することができていると感心した。
あのマヤという娘、あえてカズキという者に恋バナを始めさせ、部隊の緊張を解したなと。
如何に軍人とて任務中ずっと精神を張り詰めていられるはずもない。そうするためには、それこそ副作用の強い投薬でも施さねばならない。
副作用の少ない煙草を燻らすなど他の方法もあるが、それは大気圏内など広大な空間があってこそのこと。ここは宇宙であり、乗り込むMSのコックピットは閉鎖空間だ。
いずれの方法も問題があり、受けるリスクが大きい。
だからこそ、マヤはリスクの低いストレス解消法としての恋バナをはじめて、部隊の緊張をとき解したのだ。
人間の集団なのだ。時には馬鹿らしい会話をはじめてリラックスする必要もある。
部隊全体のためならば、自分一人がソウシに多少煙たがられることぐらい、どうということはない。マヤはそう判断し、実行に移したのだろうと。
(儂もお前さんのような美人で理知的な部下が欲しかったのぅ。儂の弟子たち、能筋の野郎ばかりだから…辛い)
その様な雑念も含め、後進の若者たちに対し感心していると、やっとガデムの許へオーカザキ博士から第二次実験開始の連絡が入った。
「遅れて申し訳ありません! ガデム大佐! タツミヤ隊のみなさん! 指定座標へと速やかに移動してください! 座標指定データを送ります!」
「了解した」
「了解であります!」
送られてきたオーカザキ博士の要請に、ガデムとタツミヤ隊を代表するソウシが応じ、各機は指定された空間座標へと向かった。
「速やかな行動助かります! では、これからが本番となります! クロスストロベリー艦内の三種の神器に、カンダタ・オーラ・ストリングと12神器の力を同調させてください! イザナギ/イザナミ・オブジェクトによる力の共振、増幅を開始します!」
次回に続く
シャア子外伝~忌まわしき過去の記憶~
多くの戦友が死に絶え、地球上の生物もまた絶滅した。かろうじて人類の生存領域として体裁を保った各サイドでの人口すら、今やすべて併せて10億にも満たない。
時空嵐の影響で混ざり合った複数の世界線の影響により、地球圏の人口は一時期300億の大台を突破した。
しかし、あの降魔の刻より現れたマガツスサノオの分身たちは、定期的に地球圏へと侵入を繰り返し、人類を襲い続けている。
混ざり合った世界線の科学技術は、シャア子たち元々の世界線を遙かに上回るものであったが、あまりにマガツスサノオの力が強大で対抗すべくもなかった。
別世界間融合で一時的に一つとなった世界も、その後、数度引き裂かれ、そんな怪現象に飲み込まれて、別の世界線へと消失した者も多数に上る。
そんな状況下にある宇宙空間の一角で、シャア子は昔の夢を見ていた。共に多くの戦場を戦い抜いたMSナイチンゲールのコックピットで、両脚を抱き抱えて蹲り、すぅすぅと寝息を立てていた。
メインモニターとサブモニターによって映し出される光景といえば、各世界線の勇士たちによって組織された人類統合軍の拠点の一つ、小惑星アクシズのみである。
そんな小惑星アクシズは、いまやマガツスサノオの恐怖に抗った勇士たちの墓標であった。小惑星内外には、マガツスサノオの怨嗟の想念を封じ込めるオーラサイコマテリアルの墓標が乱立していた。
これらは、すべてが戦いの末に命を落とした勇士たちがオーラサイコマテリアルと同化し、融合昇華して造り出したものであった。
このオーラサイコマテリアルが完成したからこそ、シャア子たち人類統合軍はマガツスサノオの恐怖に対抗できた。
マガツスサノオの悪しき想念によって張り巡らされた防御フィールド、瞬間物質転送のテレポ-トといった特殊能力を前にして、通常の兵装しか持たぬ機体はとても歯が立たず、一方的に蹂躙されるのみだった。
しかし、完成したオーラサイコマテリアルがマガツスサノオの想念を吸収し封印することで、力を弱め対抗することが可能となった。
それでも、互角に渡り合えた者たちは、オーラ力やニュータイプ能力を十全に使え熟せた一部のエースのみであり、マガツスサノオによる無差別な猛攻の前に、人類の絶対数は減り続けていた。
連戦に継ぐ連戦。
一人、また一人といなくなる戦友たち。どれ程死を賭して戦い続けても、守り抜けずに死に続ける民間人。そんな徒労が重なる酷薄な現実。
シャア子は疲れ果てていた。
せめて、まだ時空嵐の影響がなかった過去の夢を見て、自らの心を慰めたいと願う。
だが、そんなシャア子を別の悪夢が襲っていた。
「いや………私…そんなこと…やりたくない………誰か…誰か…助けて………」
(…吐きそう)
まだ時空嵐が発生し、マガツスサノオとの戦いが開始される以前のこと。地球連邦政府の高官たちに呼び出され、地球寒冷化作戦主導を強要された過去の記憶。
妹アルテイシアがセイラ・マスを名乗り、RX‐78ー02ガンダムを駆り戦い抜いた一年戦争、グリプス戦役経て、ハマーン・カーンのアクシズ一党が地球の半分とサイド3を支配していた時代のことだ。
女性化しキャスバル・レム・ダイクンとしての記憶を失っていたシャア子は、連邦の高官たちの暗躍によって過去の記憶を呼び起こされ、ネオ・ジオンの総帥として祭り上げられた。
一年戦争も、その後の戦乱もすべて、君の父、愚かな革命独立主義者たちの管理運営に失敗したダイクンのためだと脅されてのことだ。
そう言われれば、事実であったが故にシャア子は地球連邦政府に逆らえなかった。
君は身内の咎に対し責任がある。
父の身代わりの道化となり、地球圏をできるだけ一年戦争前の前に戻せ。現状回復だよ。そのために貴様の一生を捧げろ。
ジオン残党を父ダイクンのネームバリューを使って糾合し、身を隠す裏社会から誘い出し、ネオ・ジオンの手駒にして表の世界で殺し合わせろ。
我々はハマーン・カーンが失脚した後、エゥーゴの残存勢力を基軸にして連邦軍の外殻武装組織ロンド・ベルを創設する。
君はネオ・ジオンの総帥として、妹とブライト・ノア率いるロンド・ベルと殺し合いを演じるのだ。
それと、一年戦争からの混乱を利用し、かなりの数の犯罪者が地球上に不法に逆移民した。現在、各地の土地を乗っ取り、現地を女性を攫い、レイプし、急速に繁殖している。
このままでは、彼奴等は昔のサイド3の連中と同じく、他人に国家天下の命運を容易く握らせる無責任な民衆と化す。
かならず次の独裁者を誕生させ、育てる土壌と化すだろう。
とても由々しき事態であり、このまま放っておけば際限なく地球上の人口は増え続け、地球圏全体にとってかなりの脅威となる。
結局、いずれ地球連邦政府がそのツケを支払わなくなければならなくなる。一年戦争という悪夢の後の世界を支えてきたように。
そのためには、汚く、悍ましい行為もやらなければならなくなる。
地球上の人類の総数を規定人口まで減らすために、我々は愚劣なマンハント…人狩りを実施しなければならなくなる。
これも、サイド3でダイクンが道半ばで死亡し、人類融和のためのすべての計画を失敗させ、あまつさえザビ家という独裁者集団を生み出してしまったからだ。
その忌み子も同然の連中に地球が乗っ取られるその前に、我々は一度、地球上を寒冷化し、不法移民たちの絶対数を徹底的に減らさなければならない。
シャア・アズナブル…いや、キャスバル・レム・ダイクン。
君が我々地球連邦政府の手足として、ジオン・ズム・ダイクンの失敗によって生じた諸々の凶事すべてを処理しろ。
繰り返すが、ダイクンの遺児である君には、その責任があるのだ。
!?
「はっ!」
飛び起きて周囲を見回すシャア子。夢か現か判断がつかずに、自分の今の立ち位置を確認する。
(ここはナイチンゲールのコックピットだ…だったら、アレハ過去の記憶………)
「…夢…か………どうして………今頃………」
悪夢を見続けたために全身寝汗塗れになっていたシャア子が、あれは昔のことだと現状を確認し、呟く。目覚めても悪夢の中にいるも同然の状況の中にいたが。
「…帰ろう」
傷心のシャア子はナイチンゲールをアクシズのMS発進場へと向かわせた。鬱々とした気分はまったく晴れはしなかったが、だからこそ、アクシズの居住スペースの自室で、暖かいシャワーを浴びて寝汗だけは洗い落としたい…そう願う。
「やっと来たわね人間! ハンコ押してあげるわ!」
「あ、ありがとう」
真空ブロックから呼吸可能な待機ブロックにやってきたシャア子を出迎えた人物がいた。小さなうさみみ衛生兵のメディ・スンと、さらに小さな小さなララァ・スーさんだった。
メディ・スンは過去の大怪我で命だけは取り留めたが、全身の大部分を義体化したメランコリックな少女。めげずに自分もできることをすると誓った一途な娘だ。
一方、物憂げなララァ・スーさんは、メディの妖精型外部端末である。
何分、物資不足のため金髪幼女型の義体と一体化する以外、選択肢がなかった立場だ。ならばと、うさみみ衛生兵となってシャア子を補佐する人生を選んだのである。
シャア子はメディに、さっそく仮面のツノ部分に花丸お帰りなさいのハンコをポンッと押してもらい、謝意を示した。
ソシャゲのログインボーナスみたいなものだ。
この可愛らしい花丸お帰りなさいハンコを五つ集めると、高給マッサージ券や高級料理券をもらえるシステムなのだ。
それだけではない。
望めば、メディとスーさんに、お医者さんごっこで、クマのぬいぐるみのボコのように包帯グルグル巻きにしてもらったり、ママになってもらって頭をナデナデしてもらったり、恋人同士のようにぎゅっとしてもらったりできる。
そんな非健全サービスも選べもした。
兵士の病んだ精神を少しでも緩和させるため、メディが自ら示した救済方法、付加価値であった。
この時代、大した娯楽もないのである。シャア子はそれらの特権を頻繁に利用していた。主に包帯グルグル巻きや、ママになってもらったり、ぎゅっとしてもらっている。
女子同士なのでそこは健全! 健全です!
なお、メディは衛生兵なので太い注射は断ってもしてくる。主に体力回復用の栄養剤を充填させて。
「今回の出撃でハンコ五つになったわよ? どうする?」
仮面を取ったシャア子にハンコの数が揃ったと報告するメディと、揃えてグッジョブとウィンクするスーさんだった。このコンビは早速、シャア子に特権を行使するかと尋ねた。
ちょっと考えたシャア子は、頬を赤らめて視線を逸らしつつ要求を伝えた。
「じゃあ………ママになって」
「了解したわ。今回も掃討戦御苦労様。あなたの働きで多くの人々が生き続けることができたわ。でも、中々アクシズに帰還しないから心配したのよ?」
「ごめんね…疲れ果てて、コックピットで寝ていたわ」
「それはこちらでバイタルを計測していたから解っているわ。悪夢でも見ていたの? その様子だとシャワーを浴びるのでしょう?」
「お見通しじゃない…そうよ」
「ストレス溜まっているのね…じゃあ、少し後に部屋に行ってあげるわ。よしよし」
「うん…ありがと。大好きよメディ、スーさん」
よしよしとメディとスーさんの小さなお手々で自慢の金髪を撫でられて、悪い気はしないシャア子だった。
「来たわよ人間!」
「入って」
シャア子が自室のシャワーを浴びて寝汗を洗い落として後しばらくして、うさみみを左右に揺らしながらメディとスーさんがやって来た。素肌にバスローブ一枚だけの姿で客人を出迎え、シャア子はベッド上でメディ…いや、ママに抱き着いた。
義体とはいえ幼女の姿をした年下にママになってもらう。
何とも業深きプレイの光景。
でもまあ、もうこのアクシズに生きた人間と言えるものはシャア子とメディしかいないので、それを破廉恥と遮り邪魔する者もいなかった。
残っているのは生活必需品作成用、料理担当の各種ドローンや、血に飢えた陰陽玉型ビット、MS整備用アンドロイドくらいである。
「ママ…ママ…私、後どれくらい戦い続けられるかな?」
「そうね…解っているのは、私よりは長生きするってことくらいよ」
「一人は嫌よ。妹のアルテイシアも、時空嵐の影響で別世界線に飛ばされていなくなってしまったわ。メディとスーさんはずっと一緒にいてくれるのでしょう?」
「私だって独りは嫌よ。だから身体を二つに分けたのだもの。あなたとだって別れるのは哀しいわ。そんなことにならないといいなって、いつも祈っているわ」
(戦えなくなった時は死も同然。こいつかなり重い質問をするな。病み過ぎよ)
そのようにバスローブのみの姿で甘えるシャア子に、メディは斯くの如く応じ、隣のスーさんがやれやれと頷いた。
別に甘やかしている訳ではない。ほぼ本心だった。
「その時の悪夢を見たの?」
「いいえ、その前よ。ハマーン・カーンが地球圏の半分の支配権を得るという罠に嵌められて、破滅していくその前よ。その頃、地球の不法移民を排除しろって、ジョン・バウアーや連邦の高官たちに迫られたの」
「地球寒冷化作戦のこと?」
「そうよ。その時の悪夢を思い出したの」
当時の地球連邦政府は、ハマーン・カーン率いるアクシズの人口が数万人のみと知ると、それだけの人数ではとても意地管理できない規模の土地をあえて差し出し、崩壊の道を辿らせた。
元々、アクシズの大本であるジオン公国すら地球の半分を支配するのは不可能だった。精々、戦力的に連邦を上回っていた時期のみで、とても長続きしなかった。
それにも拘わらず、さらに少数であるアクシズがサイド3と地球上の半分など支配し続けることができようか。
子供でも無理と解る。
実際、自分たちが処理できる何十倍での労力を地球連邦政府から押し付けられ、アクシズは対応に四苦八苦し、さらに残存するエゥーゴの相手さえしなければならなかった。
貴重な人材をその戦闘で多数失う始末。
所詮、政治のいろはも解らぬ小娘でしかなかったハマーン・カーンは、呆気なく連邦政府の罠に嵌められ、その配下共々滅びていく。
アクシズ勢力の治世は、グリプス戦役以降、大した実績も残せぬままだった。そのため、業を煮やしたグレミー・トト率いる内部反乱を誘発してしまい、二分され、崩壊の道を歩む。
こうしてほぼ戦わぬままに、地球連邦政府はハマーン・カーン率いるアクシズ勢力に勝利。
また、この時期のアクシズ勢力との戦闘は、ほぼエゥーゴやカバラといった、ティターンズ亡き後の不要となった勢力を使い潰して実施された。
本来の地球連邦軍の多くは無傷のままで。
そうのように、戦わずして地球連邦政府はアクシズに勝利したのである。だが、問題はまだ残っていた。
残るジオン残党、ティターンズ残党をどうやって集めて駆除するか? 地球に勝手に降り立った不法移民たちをどうやって駆除するか?
その結論として、キャスバル・レム・ダイクンことシャア子が、今さらながらネオジオンの新総帥として駆り出され、地球寒冷化作戦をやらされることになる。
お前等、殺されても文句を言えない凶悪な不法行為ばかり働いたよな。
だったら、地球連邦政府の手足であるロンド・ベルや、シャアのネオジオンの地球寒冷化作戦によって、逆襲されて死んでも文句はないよな?
まさか、あれだけ凶悪なことばかりやって自分たちだけ許されるとは思っていないよなぁ!
覚悟しろクズ共!
それが怒れる地球連邦政府の逆襲の理論だった。
シャア子とってそれは悪夢であり、酷いトラウの源となった。
もっとも、その地球連邦政府からの脅しは実行される以前に、別世界線で発生した時空嵐の影響が出始め、地球圏はそれどころではなくなり、地球寒冷化作戦はお流れとなる。
しかし、いずれにしてもシャア子にとって酷い経験だった。
今さらながら悪夢も見よう。
「大丈夫よ人間、私が一緒に添い寝してあげる。ぐっすり眠って回復するのよ」
「ママ…寝るまで手を握っていてくれる?」
「ええ」
「ありがとう」
そんな時のことだ。
「報告! 報告! 月の裏側付近の宙域に時空間結節点発生! その向こう側よりエマージェンシーコールを受信致しました! 対応可能な部隊は速やかに行動してください! 繰り返します………」
現在の小惑星アクシズの基幹AIから異変が生じたとの報告が齎された。無論、対応し動ける者はシャア子だけだ。人手不足極まれり。
「大変! 新たな時空間融合の前兆かもしれない! ママ! 私行くね!」
「ええ、頑張りなさい人間。私は何時でもあなたの帰りを待っているわ。あなたを決して一人だけにはしないもの」
「うん!」
そう会話を終えたシャア子は、メディとスーさんを自室に残して駆け出した。
ロリのママと爛れたプレイをやっている場合じゃねぇ! と。
バスローブのみで素肌を晒したままの姿であったが、それは問題はない。バスローブを投げ捨て、代わりの衣服を別世界線の魔法少女めいたマテリアライズ・ステッキで出現させ、装着すればよい。
時空間融合で一つになった別世界線の品物である。
「マテリアライズ! メイクアップ!」
そんなステッキを使用し、シャア子は仮面の魔法少女姿になってナイチンゲールが待つ格納庫へと直走る。
「…」
バローブを脱ぎ捨て変身ステッキを使うシャア子の声が、残されたメディとスーさんの許にも響いてくる。そんな声を聴いたメディとスーさんは無言であった。
ただただ、その場に残り、シャア子の無事を願い祈っていた。
これから私がいなくなって一人になってしまう人間に、どうか新しい出会いがありますように。どうか心を病まないように…と。
「…ごめんなさい人間。私もスーさんもここまでみたい。でも、この姿を失ったとしても、私はオーラサイコマテリアルの墓標になって、あなたと共に在り続けるわ」
そう言い残したメディとスーさんの身体が淡い輝きに包まれ、次第に透けて消え去っていく。
メディもスーさんも生身の大部分を失い、失っていた部位をいくら義体に交換しようとも、もう延命はほぼ不可能だった。寿命だったのである。
ただ、一人残されるであろう人間、シャア子を慮り、ふたりは必死に生き続けていた次第だ。
しかし、如何に必死に今生の命にしがみ付こうとも、いずれ限界はやってくる。
もうメディとスーさんにできることは、オーラサイコマテリアルとなって僅かでもシャア子の力になることだけだった。
(ありがとう人間。辛いことばかりだったけれど、あなたと一緒にいられて私もスーさんも幸せだった。どうか人間の進む道に星の導きが在らんことを)
淡い輝きは次第に弱まり、メディとスーさんの姿はもうそこには存在しなかった。
その代わりに、ウサミミとリボンで飾られた、赤く鮮やかなオーラサイコマテリアル製の墓標が現れた。まるで、赤い彗星の英雄と讃えられるシャア子を励ますかのように。
メディとスーさんの消失。
(ああ………これまで…一緒にいてくれて………)
その事実をニュータイプ能力で感知して、シャア子は仮面の下で一滴の涙を流す。
おしまい
イザナギ/イザナミ・オブジェクト~メビウスの輪を越えて~本編に続く