宇宙世紀0010年。人類のフロンティアは月を越え、木星という名の「新しい中東(※主に石油的な利権と、それ以上にドロドロした大人の欲望の吹き溜まり)」へ伸びようとしていた。

かつてイギリスやアメリカの偉い人たちが砂漠に勝手に線を引いて美味しい思いをしたように、今、真空の宇宙でも全く同じ不条理が繰り返されようとしている。地球連邦政府のトチ狂った上層部が掲げる「全人類のための木星計画」――その美名の下に隠された本質は、特権階級による資源の独占と、お上の都合で宇宙に放り出された哀れな「人間デブリ(=主に未払い家賃やラブレターの誤爆から逃げてきた債務者たち)」のパージであった。

月軌道の最底辺、通称「粗大ゴミの掃き溜め」ことデブリ課に所属するハチロー・アマダは、自身の「一発当ててタワマンに住みたい」という浅ましい野心と、この世の非情なシステムの狭間で、主にお財布事情的な意味で激しく揺れていた。

最新の核融合推進とかいう超技術が、往復7年の地獄の旅を「数ヶ月のブラック労働」へと圧縮してしまったせいで、宇宙からロマンという名のファンタジーは消滅。そこは残業代未払いとパワハラが横行する、剥き出しの「ただのブラック企業」と化していたのである。

「おいハチロー! お前また有給申請出しやがったな! 宇宙の塵にしてやろうか!」

「理不尽すぎるだろこの職場ァァァァァ!」

そんな、愛さえも社畜を縛り付ける統治の道具として利用される極限の閉鎖環境(※男子校の部室よりはマシだが、それに匹敵するレベルで男臭い)で、ハチローは一人の女、アイ・サハラと出会う。彼女は宇宙の過酷さを前にしても、なお「愛があれば残業だって乗り越えられます!」とかいう狂気的なポジティブ思考を崩さない、色んな意味で危険な天然素材であった。

これは、偉い人たちが作り上げた支配の重力(と、毎月のローンの支払い)に抗い、真空の底で「人間性(と、主に落ちている金目のもの)」を拾い集める者たちの、最も泥臭く、最もIQの低い叛逆の記録。

「愛は、重力だ。……この歪んだ歴史ごと、俺を繋ぎ止めてみせろ! あとついでに次のクレカの引き落とし日も引き延ばしてくれ、頼むから!」
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