機動戦士ガンダム 宇宙世紀0010 重力より重い住宅ローンに魂を引かれた男 連邦軍の社畜、有給申請を宇宙の塵にされる   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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屑星の空、あるいは記憶の焼却(※ただし大半はただの不法投棄された粗大ゴミである)

宇宙世紀0010年。人類初の木星往還船「ジュピター・ワン」のド派手な出港イベントを控え、低軌道上の「クリーンアップ作戦(=要するにお上のための大掃除)」は最終局面を迎えていた。

 

デブリ課に与えられた任務は、かつてサイド1建設の最初期に盛大な事故を起こし、めんどくさいからそのまま放置されていた「セクター8」の完全清掃(残業確定コース)である。

 

そこは、通常の剥がれた塗装チップとかとは明らかに違う、不穏な「密度」を持っていた。

 

「……何だ、ここは。ボルトやパネルだけじゃないぞ。使い古したフライパンとか、昭和のブラウン管テレビまで浮いてやがる」

 

ハチローがポッドのライトを照らすと、そこにはカチコチに凍りついたハローキティっぽいぬいぐるみが、虚空を掴むようにプカプカ漂っていた。サハラは思わず絶句する。

 

「これ、全部……あの事故の犠牲者の方々の遺品(形見)なんですか? どうして連邦は、今までここを放置していたんですか? 粗大ゴミの処理券をケチったんですか?」

 

「放置じゃない。お上の都合で隠してたんだよ、サハラ。連邦にとって、宇宙移民の最初期に起きた数万人規模の大ポカ事故は、『輝かしい宇宙世紀新時代!』のスタートというパンフレットに泥を塗るだけの汚れ物(黒歴史)だったからな」

 

チームのサイフを握るフィーの声は、かつてないほど低く、お上の隠蔽体質への怒りに満ちていた(※主に自分のへそくりが経費で落ちなかった時の怒りに近い)。

 

セクター8に漂う遺品には、連邦政府の公式Wikiには絶対に載っていない、初期移民たちの「Wi-Fi繋がらないんだけど!」「部屋が狭すぎる!」という悲痛な愚痴(メッセージ)が残されていたのだ。

 

地球連邦政府は、この「黒歴史のシュレッダー作戦」を宇宙規模で豪快に行っていた。

 

連邦は、自分たちの設計ミスによる移民計画の欠陥で起きた大量死を「あ、あれはちょっとおっきい隕石がぶつかった自然災害だから。誰も悪くないから」とすり替え、犠牲者たちの生きた証をセクター8という「見えないゴミ捨て場」に隔離していたのである。

 

かつてイギリスやアメリカの偉い人たちが、植民地での大失敗や現地住民の悲鳴を「帝国の輝かしい栄光!」という教科書で塗りつぶしたように、連邦もまた、宇宙(ソラ)を美しいフロンティア(観光地)として保つために、その土台となった無数の「都合の悪い残骸(屑)」を歴史からデータ消去し続けているのだ。

 

そんなお掃除作業の最中、ハチローたちは、デブリの影に隠れてコソコソしていた反連邦組織「宇宙防衛戦線」のやんちゃな小隊とバッタリ遭遇してしまう!

 

彼らは、連邦が歴史から消し去ろうとしているセクター8の遺品をこっそり回収し、それを「連邦の罪の証拠」としてYouTubeやSNSに一斉暴露(炎上)させようとしていたのだ。

 

「このフライパン一本一本に、連邦に無理やり引っ越させられた俺たちの先祖の血と涙がこびりついているんだ! これをメルカリに出品……じゃなくて、ゴミとして処理させるわけにはいかない!」

 

テロリストのリーダーのお兄さんは熱く叫ぶ。ハチローは、かつて英米が勝手に引いた国境線のせいで歴史や戸籍を奪われた人々が、「俺たちのルーツを返せ!」と暴走した大昔の地政学的な悲劇を思い起こしていた。

 

と、そこへ間の悪すぎるタイミングで連邦軍のピカピカの防空艦が介入してくる!

 

だが、彼らの目的はテロリストの逮捕ではなく、「遺品(証拠)」そのものを物理的に消し去るレーザー主砲のブッ放しだった!

 

ズガガガガーン! と放たれた主砲が、セクター8のデブリ群を、そこに込められた数万人の生活の記憶(とブラウン管テレビ)ごと一瞬で綺麗さっぱり蒸発させていく!

 

「やめて! それはゴミじゃない! 誰かが大切に使っていた、生きていた証拠(あとキティちゃん)なんです!」

 

サハラは作業ポッドで砲火の間に割り込もうとするが、ハチローがそれをガシッと止めた。

 

「サハラ、行くな! あいつらお上は、不都合なデータをハードディスクごと物理破壊(燃やし尽くす)まで絶対に止まらない。俺たちにできるのは、この『ゴミ』がどこから来たのかを、脳内のメモリに刻んで忘れないことだけだ!」

 

セクター8は、連邦軍の「全力の主砲お掃除」によって完全にクリーン化された。レーダーにはもはや一点のゴミの反応も映らない。

 

ジュピター・ワンが優雅に通過する道は、一点の曇りもない「お上の認めたクリーンな空」となったのである。

 

ステーションに戻ったハチローは、偶然マニピュレーターの爪の間に挟まっていた、半分溶けた古い金属製のドッグタグ(迷子札)を見つめていた。そこには、連邦の公用語ではない、かつての中東の美しい文字が刻まれていた。

 

「……ハチローさん。連邦が全部レーザーで消しちゃったら、あの人たちの命は、最初からログインしてなかったことになっちゃうんですか?」

 

サハラの涙ながらの問いに、ハチローは静かに首を振った。

 

「……ああ、そうだ。あいつら上が望むのは、修正液で真っ白にした教科書と、都合のいい株価の未来だけだ。大昔の英米が、世界中を自分たちのブランド色に染め替えたようにな」

 

フィーは、ステーションの窓から、美しく整備された(ゴミ一つない)航路を滑るように進む木星往還船のキラキラした姿を見つめた。

 

「でもね、サハラ。データを消された方は、絶対にその恨みを忘れないよ。連邦がこの空を『綺麗(クリーン)』にすればするほど、そのカーペットの下にぶち込んだ怨念の濃度はどんどん濃くなっていくのさ」

 

宇宙世紀0010年。人類はめんどくさい過去をシュレッダーに捨て、未知なる木星(新しい利権)へと手を伸ばした。だが、その手の下には、踏み潰され、抹消された無数の「屑星」たちの記憶が、漆黒の宇宙よりも深く沈んでいる。

 

一年戦争まで、あと69年。

 

「抹消された歴史を取り戻そうとする者たちの執念」は、やがて「そんなに地球が綺麗好きなら、コロニーっていう超巨大な粗大ゴミを直接地球に叩き落として、全員で一から大掃除しようやァァァ!」という、最悪の歴史的復讐(ブリティッシュ作戦)へと結実していくことになるのを、デブリ課の面々は「とりあえず、今回の残業代は死守する」という現実的な決意で胸をいっぱいにしていた。

 

ハチロー・アマダは、掌の中の焦げたドッグタグをギュッと握りしめた。その金属の冷たさは、連邦の語るどんな綺麗事のパンフレットよりも、確かな重みを持っていたのである。




この「国家の栄光のために不都合な真実を闇に葬る」手法は、20世紀の英米による「植民地支配における公式記録の焼却(オペレーション・レガシー)」にルーツがある。イギリスは、ケニアのマウマウ団の乱やアジアの植民地から撤退する際、自国の残虐行為や失敗の証拠となる膨大な公文書を組織的に焼却、あるいは海に沈め、歴史を「洗浄」した。
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